【食の編集部調査隊】トロント・チャイナタウンを探る「カナダにおける本格的な中華料理にあった本当の歴史」|特集「トロント調査隊がいく!」

【食の編集部調査隊】トロント・チャイナタウンを探る「カナダにおける本格的な中華料理にあった本当の歴史」|特集「トロント調査隊がいく!」

危機が生んだ転機

1923年から1967年の間、華人移民法の影響によりトロント・チャイナタウンの人口は減少していた。1910年代、レストラン客のほとんどは休憩中の中国人労働者だったが、この変化により経営者らは新しい客層を呼び込まなければならなかった。当時調理を任された「シェフ」たちはレストランで働いた経験のない移民ばかり。そして彼らの作る料理はというと白人が見たことも匂ったこともない異国料理だった。その問題を工夫し誕生したのが「Chinese-Canadian Food」だった。

「Chinese-Canadian Food」の特徴は明るい色がついていることと、何でもかんでも「Sweet and Sour(甘酸っぱい)」味になっていること、そしてヘビーなソースがかかっていることだ。移民らは広東料理を甘くし、とにかく肉を揚げることで白人に受け入れられやすくした。日本で知られている酢豚が最も近い品だ。第二次世界大戦以降、華人移民法が破棄されて反中感情が収まるとともにカナダ中の中華料理店でメニューのバラエティが増えたという。1947年にはトロントでアルコールを取り締まる法律が改正され、レストランではビールとワイン以外にもカクテルが提供できるようになったことが集客の成功につながった。

生き残るための妥協

この頃から炒め物の「Chop Suey」、アルバータ州で有名になった「Ginger Beef」、モントリオール発祥の「Peanut Butter Dumplings」などの「Chinese-Canadian Food」がカナダ中で定着。トロントでは1910年代ごろから一足先に「Chop Suey」が流行っていたそうだ。カナダ人好みの味にするだけでなく、本格的中華料理に使われる材料の仕入れも困難だったためローカルで手に入るニンジン、セロリ、もやしなどを使った品が増えた。

お隣のアメリカで知られる「Chop Suey」はキッチンにある余り物を使った炒め物を金鉱で働く白人労働者に提供していたのが始まりだった。

「Chop Suey」は当時中国でゴミとしか見られていない品だったが、白人受けしたため差別的な空気を紛らわすかのように移民らはその品を流行らせることを選んだ。外国で生き延びるために自分たちの国の味やその楽しみ方を「安くて早く食べられる物」として省略し、姿形を変えた新しいものを作り出さなければならなかった。

立ち退き、そして新しいチャイナタウン誕生へ

やっと繁栄し始めたオールド・チャイナタウンだったが、1950年代後半に市庁舎とNathan Philips Squareの建設のため立ち退きを要請され、面積は3分の1まで減ることになった。建設後、その界隈の地価は暴騰。Chestnut StとElizabeth Stを北に行ったDundas St West、そしてそこから東へ1ブロックのBay Stに移転する店舗もあったが、長くは続かなかった。今でもそのエリアの看板などにオールド・チャイナタウンの名残がある。

カナダ国内で自治体がチャイナタウンの立ち退きに至るケースの理由の多くは「スラム」を除外することだった。「ギャンブルやアヘンに手を染めている」など根拠ない偏見だけで政府や自治体は中華街を汚れた、不健全で目障りなエリアとして扱った。バンクーバーとモントリオールではフリーウェイの建設を理由にチャイナタウンが危機にさらされた。アメリカのシアトル、シカゴ、ロサンゼルスでも都市開発による中華街の縮小が見られた。

1959年にオールド・チャイナタウンが危機にさらされる中、ジーンとドイル・ラム夫妻がElizabeth Stにトロント初となるディムサム・レストラン「Kwong Chow」をオープンした。ジーン・ラム氏はレストラン経営者として活躍する傍、反中国人な華人移民法を無効にするために尽くした有名な女性活動家だ。華人移民法の他にも縮小や移転をせざるを得なかった中華街を守るため「Save Chinatown Committee」を結束し、西はBathurst St東はUniversity Aveまでの中国系ビジネスを救った。彼女が救ったコミュニティーがGTAで6つのチャイナタウンに進化していった。

80年代から90年代にかけて香港からの移民がどっと増え中国人街はさらに飛躍したが、彼らに対する人種差別がなくなる日は来なかった。息苦しい境遇の中6つものチャイナタウンが作られたのはこの民族の生き残ることに対する強い意志を象徴しているのではないだろうか。

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