【カナダ初公演スペシャルインタビュー】5月9日にトロントで初公演怖さを楽しさに変えて世界で挑戦し続ける音楽家 角野隼斗さん|特集「芸術に触れる春。嘘も楽しむ四月。」

【カナダ初公演スペシャルインタビュー】5月9日にトロントで初公演怖さを楽しさに変えて世界で挑戦し続ける音楽家 角野隼斗さん|特集「芸術に触れる春。嘘も楽しむ四月。」

東京大学出身ながらピアニスト、作曲家、編曲家として活躍する音楽家の角野隼斗さんが、5月9日にトロントで初公演を予定している。

2021年には第18回ショパン国際ピアノコンクールでセミファイナルにまで進出し世界的にも注目を浴びる角野さんは、登録者数130万人超のYouTubeチャンネルでクラシック音楽や自身が作曲した曲を演奏したり、昨年からはニューヨークにも拠点を作りジャズ演奏や現地オーケストラと共演したりと多様な活動を続けている。

そんな角野さんに、カナダ公演を控えての気持ちや、アメリカ挑戦を通して感じたことなどさまざまな角度からお話を伺った。

「古典から現代へ」を表現する公演に

©RyuyaAmao

―トロント公演を前に、今のお気持ちはいかがですか?

カナダに行くこと自体初めてで、トロントにも初めて行くことができるのでとても嬉しく思っています。今回はトロントの前にバンクーバーにも行く予定なので、カナダの方に音楽を届けられることが楽しみです。

―公演ではどういった曲を演奏される予定でしょうか。

コンセプトがあるとしたら、「古典から現代へ」という繋がりを表現したいと思っています。前半はバッハやショパンといった比較的クラシカルな作品、後半は20、21世紀の作品や私自身が作曲した曲など、モダンな感じの作品やオリジナリティを含めてお届けするという二部構成にする予定です。

クラシック音楽というものをただ昔の偉大な古いものというふうにしたくないと思っていて、そういった音楽は今も変化していて新しいものが生まれてきているので、今の世の中にあるたくさんの音楽に通じているということを示したいです。

―初カナダということで、楽しみにしていることや場所などは何かありますか?

時間があればナイアガラの滝に行ってみたいですね。食べ物のオススメがあれば、そういったものも食べてみたいです。

刺激的な街NYでの学び

共演したジャズシンガーと

―昨年、アーティストビザを取得してニューヨークと日本との2拠点生活を始めたと伺いました。アメリカではどんな活動をされていますか?

元々の大きなモチベーションとして、ずっと日本に住んでいたので新しい世界を知りたい、もっといろいろと学びたいという気持ちがありました。私はクラシックをしていますが、クラシックだけではなくてジャズにも興味があるし今の音楽にも興味があって、それをどうすればクラシック音楽に取り入れることができるかを考えています。
その中で、ニューヨークという街は私の中では刺激的でした。アメリカでは今年、何回かオーケストラとの公演がありがたいことに決まっていますし、それとは全く別でジャズクラブで演奏したり、単純にセッションに行って飛び入り参加してみたり、そういう経験を通して刺激を得ながら自分の音楽制作に活かしてみたいと思っています。

―日本人は他の国と比べてあまり海外に出て行かない傾向にあるように思いますが、海外に出た角野さんとしては日本人が海外に飛び出すことについてどう考えていらっしゃいますか?

おっしゃるように、私も含め日本人は外に出ることを怖がる人が多いと思います。本当のことだし自分でもそれを自覚しているからこそ、自分が思っているよりも積極的に外に飛び出していろんなことを吸収して学ばなければ、という思いは常にありますね。

私は日本に生まれて日本で育っているので、自分が当たり前だと思っていることが海外では当たり前ではなかったりしますし、そういった気付きは自分にとって大事ですよね。単純に私は好奇心が強い人間でもあるので、別の視点から物事を見られるようになることがおもしろいです。

―カナダやトロントにも移住をしに来る方がたくさんいますし、日本にも海外に出てみたいと考えている方はいると思います。そういった方に、実際に海外に出た〝先輩〟として何かアドバイスはありますか?

トロント在住の方に逆に聞きたいくらいです(笑)。私もアメリカに行ってまだ1年も経っていませんし、実際ニューヨークにいたのはそのうちの4割くらいです。

こういう仕事をしているので、大体常にコンサートをしに海外に旅行に行っています。少しでも海外移住や留学を考えている方にメッセージをするとしたら、海外に出るということを怖がりすぎず、その怖さを楽しさに変える勇気と強さを持つことだと思います。

私も人のことは言えませんが、怖がりすぎずに日本人以外の人と交流する機会を持つこと。それを通して学べることはたくさんあるので、まずは楽しめたら良いのではないかと思います。

言葉の壁も音楽で距離は近づく

アメリカではジャズシンガーと共演も

―アメリカで言葉の壁を感じたり、苦労していることはありますか?

黒人の方が喋る英語は全然聞き取れないですね(笑)。もちろん英語ネイティブではないので英語を流暢に話すことはできませんが、最近気付いたのは日本語でもそんなに流暢に喋れないんですよね。

―そんなことはありませんよ(笑)

間を置いて喋ってしまうんですよね。英語は会話のフローがより大事だと思うんですが、英語でも日本語と同じように間を置いて喋ってしまいます。

―英語は学校で学んだこと以外に何か力を入れて勉強してきたのか、それともそこまで得意じゃないけど今回思い切ってアメリカ挑戦を決めたのか、どちらですか?

得意という自覚は全くありませんが、2021年頃にコロナがだんだんと落ち着いてきて外に出られるようになってきたタイミングで、とにかくいろんなミュージシャンに連絡して会ってみるということを繰り返していたんですね。
そうしたらだんだん日常会話はなんなくできるようになってきました。

最初に会ったのはヨーロッパの人たちだったこともあって、お互いに英語が第二言語だから楽に話せたというのもあると思います。

―アメリカでは完全にネイティブだらけの環境ですよね。移民も多いかもしれませんが、やはりネイティブが多い中で 苦労もされているんですか?

もちろん苦労はしますね。先ほど話したように黒人系の方の英語が本当にわからないんですが、特にジャズの世界に行くとたくさんそういうプレイヤーがいますからね。
そこで話をすると、ちょっと萎縮してしまうところがあります。

あと、日本語でもそうなのかもしれませんが大人数がいるところで喋ることに対しても萎縮してしまいます。

―そうはいっても音楽というものは音なので、言語も言葉も関係ないものだと言えると思いますが、そういう点では音楽をする者同士で音楽を通じて繋がりができたり言語の壁を乗り越えられたりすると感じていますか?

それはまさにそうですね。自分にとって助けられる部分でもあります。
言葉でうまく伝えられなかったとしても、音楽をすることでぐっと距離が近くなれる。一緒に何かすることで距離が縮まると感じています。

「興味」と「おもしろい」を共有するYouTube

―「Cateen(かてぃん)」名義でYouTube活動もされていますよね。登録者数が130万人以上(2024年3月時点)もいるなんてすばらしいです。動画を拝見すると、動画内では喋らずに演奏している動画ばかりだと思いますが、演奏を通して視聴者にいろんな曲を届けたいという思いがあるのでしょうか。

言葉を喋らないのは、単純にカメラの前に向かって喋る気になれないという理由もありますが、言葉を喋る時点でその言語に限定されてしまうからです。

今はAI的な機能もあって言葉を訳してくれることもありますが、やはり日本語だと日本語圏に限定されてしまうし、英語だと英語圏に限定されてしまいます。

音楽はユニバーサルな言語だから、世界中の人に届けるのにあえて言語を一切使わないことって良いなと思ったんです。

―なるほど。現在、国を超えてたくさんの方に演奏を聴いてもらったり見てもらったりすることは、角野さん自身どう感じていますか?

本当にありがたいことですよね。始めた頃はこんなに大きくなるなんて想像もできなかったことです。

基本的に自分がおもしろいと思ったことや興味を持ったものを共有したいという思いで動画を出しているので、単純に数字がどうこうということよりも自分がかっこいい、おもしろいと思ったものに対してたくさんの人が同じように思ってくれていることが嬉しいですね。

―作曲もされているとのことですが、作曲する時にはご自身の中でテーマや伝えたいものがあって、それを元に曲を作っているのですか?

ショパンのエチュードやバラードにインスパイアされたりモチーフを使ったりして新たに作った作品もあります。

例えば私がショパンコンクールに挑んだ直後に作曲した作品では、コンクール後に自然に自分の中から出てきた気持ちを忘れないようにしていたいという思いで作ったものもあります。

そもそもクラシックは歌詞がない音楽ですし、基本的に曲を通して何かメッセージを伝えたいということはなくて、私の音楽は自分の感情や何かの風景、観念など、自分のフィルターを通して表現されたものでしかないと思っています。

それをどう受け取るかはお客さん1人1人違って良いと思っていますし、考える余白を与えられるような音楽を届けたいと考えています。

目標はアルバム完成

©RyuyaAmao

―今後の夢や目標は何かありますか?

少し短略的なものでいうと、3月にソニークラシカルと専属レコーディングの世界契約を結んだことが発表されまして、現在アルバムを制作しているところです。
アルバムには自分のコンポジションもかなり入れたいと考えていますが、それを良い形で完成させることが今年の目標です。

―世界を舞台に活躍の場が広がっているのですね。ソロアルバムは初めてですか?

日本国内でのアルバムはいくつか出したことがありましたが、全世界に出すアルバムは初めてです。

―アルバム楽しみにしています。最後になりますが、TORJAの読者に向けてメッセージをお願いします。

初めてのトロントなので、きっと初めてお会いする方やことがたくさんだと思いますが、楽しんでいただけるよう全力で音楽を届けます。皆さんにお会いできることを楽しみにしています。

【プロフィール】
角野 隼斗(スミノ ハヤト)
1995年生まれ。東京大学大学院在学中の2018年、ピティナピアノコンペティション特級グランプリ受賞。2021年のショパン国際ピアノコンクールセミファイナリスト。2023年に全国16公演のツアーを開催し約3万人を動員。2024年には日本武道館を含む全国ツアー開催予定。「Cateen(かてぃん)」名義で活動するYouTubeはチャンネル登録者数が130万人超(2024年3月時点)。2023年よりアメリカにも拠点を持ち、2024年にはソニークラシカル(ベルリン)と専属レコーディングのワールドワイド契約を締結するなど活躍の場をグローバルに広げている。学術の面では、2018年にパリのフランス国立音響音楽研究所(IRCAM)に研究者として半年間留学。2020年には東京大学大学院で工学修士号を取得。

【Hayato Sumino Piano Recital】

日時: Thu May 9 2024 7:30 PM
場所: Japanese Canadian Cultural Centre 6 Sakura Way (formerly Garamond Court)
主催:Bravo Niagara!、 the JCCC

チケット発売中
https://www.ticketweb.ca/event/hayato-sumino-piano-recital-japanese-canadian-cultural-centre-tickets/13735928

チケット購入はこちらから

【program】

  • J.S. Bach: Italian Concerto in F major BWV 971
  • Chopin: Waltz No.1 in E flat major, Op. 18
  • Chopin: Sonata No.2 Op.35
  • Chopin: Scherzo in B minor, Op. 20, No. 1
  • Sumino: Big Cat Waltz
  • Sumino: New Birth
  • Kapustin: Etudes Op.40 No.1, 2, 3
  • Gershwin: 10 levels of “I got rhythm” (Arr. Sumino)
  • Gershwin: Rhapsody in Blue