“トロントの治安が悪くなっている”-。かつては世界的に見ても治安の良い街として知られていたトロントだが、最近その神話が崩れつつある。ニュースをつければ「駅構内で刺傷事件が…」「学校で銃撃事件が発生し…」「容疑者は少年とみられ…」など、耳をふさぎたくなるほど恐ろしく信じがたい事件が日々起こっている。トロント警察によると、2023年は“最悪な幕開け”とのこと。それほどまでに犯罪が増えてしまったトロントでは、誰もが被害に遭う可能性がある。今どんな事件が起きているのか、なぜこのような状況になってしまったのか、今回はここ数年間のトロントの犯罪傾向について見ていこう。
1. 1日55件!トロントで暴行事件は日常茶飯事
①トロントの犯罪割合(2018〜2022)
トロント警察(Toronto Police Service)が公開しているデータをもとに、2018年以降のトロントの主な犯罪について分析する。新型コロナウイルスの影響を大きく受けた2020年と2021年を除けば、犯罪件数は右肩上がりの傾向を見せている。この5年間では、暴行事件が最も多く49%を占め、2番目に多いのは不法侵入で17%、自動車窃盗が16%、そして強盗が約8%と続く。5年間で起きた暴行事件は10万4261件で、単純計算するとこの5年間は1日に57件暴行事件が起きていたことになる。
②被害者の年齢層と性別(2017〜2022)
被害者について2017年~2021年の通報内容をまとめたデータによると、やはり18~34歳の若者が全体の41%を占めて最も多い。性別では男性と女性がちょうど半々だ。しかし年齢と性別をあわせて見たとき、18~34歳の若者の中では女性の方が男性より犯罪に遭いやすいということがわかった。しかしその傾向も45歳以上からは逆転し、年齢が上がるにつれて男性の被害が多くなる。
2. 凶悪化する2023年
トロント警察のデータによると、2023年3月13日現在、2022年の同時期と比べてトータル犯罪件数は22.7%増加、殺人件数以外の6項目(暴行、自動車窃盗、不法侵入、強盗、性犯罪、$5,000以上の窃盗)ではそれぞれ10%以上増加した。トータル犯罪件数だけでいうと、去年より約1600件、コロナ以前の2019年よりも約1500件発生件数が多く、今年は速いスピードで犯罪件数を伸ばしているのは明白だ。
特に去年と比べて目立つのは、自動車窃盗が29%増加、暴行が約23%増加、そして5000ドル以上の窃盗が約34%増加したことだ。その中でも暴行は、ケガの程度や加害者の低年齢化、ヘイト動機の犯行など、問題が山積みになってきている。
暴行事件はTTC付近で増えていることもあり1月末から警察官80人が巡回のため配置されたものの、それでもなお市民の生活を脅かし続けている。
3-1. コロナ前後での変化…自動車窃盗が大幅増
年別の犯罪数(2018〜2022)
パンデミック前後の傾向を見ていこう。全体的な犯罪件数としては、やはりパンデミック初期の2020年、2021年に一度減少した。しかし、2022年になると2019年より1656件多い4万4664件の犯罪が発生。特に増えたのは、暴行(311件増)と自動車窃盗(4285件増)だ。自動車窃盗については、パンデミック以前から増加傾向にあったものが2021年以降その数を増やし、ついに2022年には少なくともここ10年で過去最高となる9643件発生した。2023年はすでに昨年以上のペースで件数が増えていて、単純計算でも毎日30台の車が盗まれている。
自動車窃盗の調査団体によると、この類の窃盗は海外での需要に基づいた犯行と考えられている。需要があるのは決して高級車だけではないため、ごく一般的な車両も狙われる。その手口は巧妙化し、クラクション音を無音化させ車載コンピュータにアクセスし、10分以内に盗んでしまうという。またカージャックも同様に増えている。例えば昨年11月26日にダウンタウン・リバティビレッジで発生した事件では、被害者が車から降りると近くにいた20代の男が運転席に乗り込み、拳銃で脅しながら車を盗んでいった。2021年には102件だったカージャック発生が2022年は2倍以上の229件に増加しており、自動車関連犯罪の増加がトロントの犯罪トレンドと言えるだろう。
3-2. ヘイト犯罪も84%アップ
①ヘイト犯罪の動機(2019〜2021)
コロナ禍で増えたのはヘイト犯罪もだ。トロント警察の最新データ(2021年)によると、2019年から2021年にかけてヘイトに関連した犯罪は139件から257件と84%増加した。動機としてはやはり人種や国籍からくるものが計43%と多く、宗教を理由にしたものも29%を占める。さらにはLGBTQなどの性的マイノリティを動機とするものも10%ある。被害者別では、ユダヤ系が22%で最も多く、次いでアジア系が20%、黒人18%、性的マイノリティ13%だった。暴行内容としては、首を締めたり何かしらの凶器で体を傷つけたりする行為がほとんどだったという。
②ヘイト犯罪の被害者(2019〜2021)
さらに、有色人種は殺人犠牲者になる確率が高いということにも触れておきたい。2021年の殺人犠牲者数の約30%を有色人種が占め、それ以外のグループよりも38%確率が高かったと分析されている(Statistics Canadaより)。