日本とトロント、桜でつながる平和の輪|特集「桜とお餅」

日本とトロント、桜でつながる平和の輪|特集「桜とお餅」

日本人にとって春のシンボルである桜。入学式や新生活、花見に始まり、食文化やヒットソングのタイトルなど、桜は日本人にとって切っても切れない存在だ。トロントのような寒い地域に住んでいると、ひな祭りには雪が降っていたり、卒業シーズンが5月だったり、そもそも春とはいつ来るものなのかさえ分からなくなってくる。だが有り難くトロントには桜の木がたくさんあり、季節の変わり目を知らせてくれる。そんな桜はいつからカナダに浸透するようになったのだろうか?日本の花見の歴史とともに見ていこう。

日本のお花見文化

Sumidagawa

「田の神様をもてなす行事」から「花を見て楽しむ行事」に変わっていったのは奈良時代のこと。貴族が中国から伝来した梅を見ながら歌を詠むようになったのが始まりだ。
平安時代に入ると、それまで神聖な木として扱われていた桜の木が花見に好まれるようになった。894年に遣唐使が廃止され、日本独自の文化を発展させる流れがあったことが一つの理由とされる。

鎌倉・室町時代になると武士階級に花見の風習が広がったが、現代のように庶民がお花見をするようになったのは江戸時代の初め頃。徳川吉宗が東京の各地に桜を植え、隅田川堤や飛鳥山を桜の名所にした。
このおかげで武士だけでなく庶民も桜を楽しめるようになり、吉宗は有楽地が乏しかった当時の江戸に54軒もの水茶屋の設置を許すなど街に活気をもたらした。

桜はなぜ「サクラ」という名前?

©University of Toronto

今では世界中で「Cherry Blossom」だけでなく日本名の「サクラ」という名前で親しまれている桜の木だが、どうしてそのような名前がついているのかご存知だろうか?
「サクラ」の語源の一説には、「サ」が田の神様、「クラ」は神様の座る場所という意味があるそうだ。昔の日本では、春になると田の神様が山から降りてきて桜の木に宿るとされていた。そのため桜の咲き方でその年の収穫を占う習慣も存在したという。人々は豊作を願うため桜のもとで神様を料理や酒でもてなし、この風習が花見の起源とも言われている。

外国との親善のシンボルとなる桜

Vancouver

日本が外国に桜の木を贈る習慣が生まれたのは1909年。アメリカのワシントンD・C・に日米の平和と親善の象徴として2000本の桜が寄贈されたが、翌年に届いた苗木は害虫被害に遭っていた。そのため1912年に再び3020本が贈られた。兵庫県伊丹市のヤマザクラを土台に東京の荒川堤からの桜から採った枝を接ぎ木したものだった。

Washington, D.C.

1930年代には神戸市と横浜市がカナダのバンクーバーに500本の桜を寄贈。スタンレーパークにある第一次世界大戦の「日系カナダ人戦没者慰霊碑」に追悼の意を込めて贈られた。しかしその平和も束の間、第二次世界大戦が勃発しアメリカとカナダにとって日本は敵となってしまった。

戦争で失われた日加の交友関係

High Park Courtesy of the City of Toronto

1959年に東京からトロントのハイパークに感謝と友情の証として桜が贈られるまで、戦争は日本とカナダを遠く引き裂いた。

戦時中、ブリティッシュコロンビア州に住んでいた日本をルーツとする2万2千人もの人々は収容所に送り込まれた。その半分がカナダで生まれ育った2世だった。

終戦後、カナダ連邦政府は彼らに「日本かロッキー山脈の東」へ移住するよう促した。焼け野原になった日本への国外追放か、東部で生計を立て直すか。いかにも過酷な二択を強いられる中、およそ4千人が日本へ移った。

日加で広まる平和への想い

UofT Scarborough Campus ©University of Toronto

戦後、すでにカナダに住んでいた日系人への差別的な規制は緩和されたが、カナダが日本から移民を新しく受け入れたのは1967年のこと。それはまさに50年ぶりの出来事だった。

それから21年後の1988年に連邦政府が日系カナダ人への差別に対して正式な謝罪をし、生き残った家族に補償金を支払った。以来オタワでは1992年に、そしてケベックでは2017年に日本から桜が寄贈されている。
2000年から2012年にかけては在トロント日本総領事館とトロント市が提携し「The Sakura Project」を実施。12年間のあいだに3082本の桜がオンタリオ州の58ヶ所に植えられた。日本では戦時中、燃料の代わりに桜の木が伐採されることが多かったため、戦後になってやっと再び植えられるようになった。そのため桜は日本国内でも平和を表しているのだ。

日本とトロントという新たな絆
ハイパーク(High Park)

Courtesy of the City of Toronto

トロントへの移住者は人種差別によりビジネスライセンスや住む場所を拒否されたが、彼らに助けを差し伸べる人もいた。徐々に日系カナダ人とローカル住民が集まり、デモなどを通して差別と戦う体制を組んだ。その努力もあり1949年に国外追放が禁止され、日本をルーツとする人々はカナダでの国籍及び投票権利を得ることができた。

やっと自由な暮らしができるようになったことを記念するため、一世たちはトロントで日本庭園を作る企画を持ち上げた。そして彼らの熱い呼びかけにより、庭園建設のための寄付金だけでなく東京から2000本のソメイヨシノがハイパークに寄贈された。

今でも毎年パークを賑わせる桜は、日本をルーツとする人が戦後トロントで温かく受け入れられたことに対しての東京からの感謝の気持ちだった。

ますます楽しみが増える桜の季節
マーカム市

Courtesy of the City of Mississauga

去年、日加外交関係樹立95周年を迎えた記念にマーカムで40本の桜の木が植えられた。2018年にすでに80本がMarkham Civic CentreとRougeside Promenade、Milne Dam Parkに植えられており、これからますますマーカムの春は華やかになっていくであろう。

日本では桜開花予想がすでに発表されており、トロントと同じ緯度の北海道では札幌は4月18日ごろ、釧路は5月5日ごろが予想されている。一回咲くと見られるのは10日から2週間ほど。しかし雨や防風には弱いため天気予報を常にチェックをしておきたい。

桜が日本からトロントに来た経緯を知った上で見る桜は、いつもと少し違うように目に映るかもしれない。

TORONTO HANAMI SPOTS
見逃したくない!トロントエリアの人気花見スポット

©Kathy Tazumi

High Park
1873 Bloor St W, Toronto

Courtesy of the City of Toronto

土日と祝日はパーク内が駐車禁止になっているので車で来園する人は気をつけたい。1959年に東京から寄贈された桜はパークの西側、Grenadier Café近くにある。パーク内の動物園近くにも1984年にイワサキ・ヨリキとミドリ夫妻の寄付によって植えられた桜が見られる。

Trinity Bellwoods Park
790 Queen St W, Toronto

Courtesy of the City of Toronto

アクセスの良い花見スポットとして有名。ここはトロント市の「Alcohol in Parks Pilot」という試験的プログラムの参加パークなので19歳以上であればお酒を持参して飲める。2月中旬の調べでは今年3月31日まで有効だが、それ以降延長されるかどうかは分からないので花が咲き始めたら市のウェブサイトをチェックしてから行こう。

Japanese Canadian Cultural Centre (JCCC)
6 Sakura Way, Toronto

©Samphors Say

2023年10月にJCCCは施設の住所をGaramond CourtからSakura Wayに改名することを発表。創立当初の1960年代、近所には印刷所が何軒も並んでいたという。そのためフォント名である「Garamond」は通りの名前に相応しかった。今では街の様子が変わり、JCCCの周りには100本もの桜が咲くためSakura Wayと名前を改めることが決まった。すでに長い間トロントの桜の名所と知られてきた場所だが、2022年の秋と2023年の春に「資生堂」創業150年を記念して「Shiseido Canada」はJCCCの敷地内と近所に合計75本の桜が新たに植えるなど楽しみが今でも増えつつある。

©Samphors Say
©Samphors Say

JCCCの住所がGaramond CourtからSakura Wayに

©Leon-Balaban
©James Heron

University of Toronto
John P. Robarts Research Library@ 130 St. George St
UofT Scarborough Campus – The Sakura Grove @ 1265 Military Trail

UofT Scarborough Campus ©University of Toronto
©University of Toronto, Photo by David Lee
©University of Toronto Photos by David Lee
©University of Toronto Photo by David Lee
©University of Toronto Photo by David Lee
©University of Toronto, Photo by Diana Tyszko
©University of Toronto Photo by Diana Tyszko

Robarts Libraryで見られる景色はコンクリートのガッチリした建築デザインと可愛らしい桜が対照的でとてもユニーク。
スカボローのキャンパスの桜スポットはHumanities WingとSocial Sciences Building、ブックストアなどがある一角。Google Mapsではこの住所を使用する場所が数カ所あるため「The Sakura Grove」で検索すると便利。

York University
Calumet Residence & Passy Residence

All Photos ©York University

Sakura Projectの一環として100本もの木が植えられているヨーク大学キャンパス内。Keele CampusにあるCalumet Collegeのすぐ南側とPassy Residences前で見られる。

Mississauga: Kariya Park
3602 Kariya Dr, Mississauga

All Photos: Courtesy of the City of Mississauga

愛知県刈谷市と姉妹都市であるミシサガ。その刈谷市の名前に由来するこの公園では、日本風の庭園デザインが見られるので、まるで日本に旅行したかのような気分になること間違いなし。

Unionville・Toogood Pond
Unionville, Markham

ユニオンビルでも桜が満開になる日が近い。昨年2023年に日加修好95周年を祝い、日本人有志が40本もの桜の苗木をマーカム市に寄贈し、昨年晴天のもと桜の植樹記念セレモニーが催された。多くの人で賑わうToogood Pondは家族連れなどのウォーキングにも最適で自然豊かな景観が魅力。この場所にたくさんの桜が咲き誇ればまた多くの人の笑顔につながるだろう。

その他の花見スポット

Legislative Assembly of Ontario
111 Wellesley St W

Toronto Music Garden
479 Queens Quay W

Liberty Grand Entertainment Complex, Exhibition Place
25 British Columbia Rd

Cherry St – Mini Blossom Park
Cherry St & Villiers St

Centre Island, Toronto Islands
Cibola Ave & Lagoon Rd

Broadacres Park
450 The West Mall

Centennial Park
256 Centennial Park Rd

Royal Botanical Gardens, City of Burlington
680 Plains Rd W, Burlington

Niagara Parks Botanical Gardens, City of Niagara Falls
2565 Niagara Parkway, Niagara Falls

桜に関するイベント情報

Courtesy of the City of Mississauga

Haru Matsuri 2024at Japanese Canadian Cultural Centre(JCCC)

3/2(土) / 3(日)

春祭り2024が開催。どちらの日も昼12時から夕方5時まで。生花や文化刺繍、墨絵などを体験できる。踊りや太鼓なども見られるほか、日本食がフードコートで楽しめる。

Sakura Haiku Challenge

3/31(日)まで

在トロント日本国領事館は桜にインスピレーションを受けた俳句とそれに沿う写真やアート作品を応募している。締め切りは3月31日。応募要項は領事館のウェブサイトをチェック。

いけばなインターナショナル主催の桜祭りがJCCCで開催予定

4/28(日)

バーリントン桜祭りが開催予定

5/11(土) 13:00-

東洋英和桜植樹10周年記念式センテニアル講演が開催予定

5/11(土) 14:00-