ワクチンパスポートによる飲食店の苦悩|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第41回

ワクチンパスポートによる飲食店の苦悩|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第41回

 前々回前回と続いて、サプライチェーンの混乱による食品や加工品の不足、従業員不足による飲食業界の窮状を紹介してきました。今月こそは明るいを話題をと思っていましたが、願いはかなわず、今月も飲食の苦労話をお伝えすることになってしまいました。店内飲食が再開して、コロナによる様々な規制も緩和され、売り上げもコロナ前に対してまだビハインドはあるものの、かなり回復してきています。規制緩和はご存知の通り、ワクチンパスポートという土台の上に成り立っておりますが、今回はこのワクチンパスポートによる飲食店の苦悩をお伝えします。

ワクチンパスポートのチェックは行われている?いない?

 先日、トロントの大手メディア・blogTOが、トロントの飲食業界のワクチンパスポートについての現状の記事をポストしました。曰く、全てのレストランやバーで厳密にワクチンパスポートのチェックが行われているわけではない、という指摘が主な内容です。

 現在、トロントの飲食店で食事をするには、ワクチン証明にあたるQRコードのスキャンと、本人確認のための身分証明書の提示が必要ですが、その確認がお店によってまちまちだそうです。確かに、自分が実際に体験したことや見聞きしたことを含めて、この指摘は事実であると言わざるを得ません。理由は、そもそもワクチンに反対していているというラディカルなものから、オペレーション上の不都合や手間が面倒というものまで、さまざまな事情があるかと思います。ただ、実際に飲食店を運営している立場からすると、残念ながら、しっかりとレギュレーションに沿ってワクチンパスポートの確認をすると馬鹿を見てしまう、というのが正直な感想です。

さまざまな正当な理由で来店を断ったとしても・・・

 「ラーメン雷神」では、来店時にQRコードのスキャン、もしくはワクチン接種証明の提示、そして身分証明書の確認を行っています。もちろん手間は増えますが、社会全体でコロナを乗り越えるという大義のために必要なことですので、そこの労力は惜しみません。

 ほとんどの場合は問題なく確認がとれて飲食を楽しんでいただくのですが、中には違う州のQRコードを提示されたり、他国の身分証を提示される方もいらっしゃいます。出来る限り、そういったケースにも対応しようという現場での努力はありますが、やはり言語の違いやシステムの都合上、どうしても確認が取れない場合などは、当然、来店をお断りいたします。

 そうすると、中にはその対応にどうしても納得がいかず、あとでバッドレビューを書いたり、国籍が原因で追い返された、このレストランは人種差別をしている、といった過激なクレームに発展するケースがあります。これによってお店全体の印象が悪く見えてしまうのです。

 また、厳密に言えば身分証明書は実物の提示が必要なのですが、多くの方が写真やコピーを提示されます。お客さんも悪意があったり、わざわざそのために偽造したIDを提示しているわけではないだろうという判断で、次回は実物をお持ちくださいと一言添えて、写真やコピーもOKとしていますが、お店としてはこれも身分証の確認が甘いと指摘されるリスクになり得るのです。では逆に、レギュレーションを完全に順守して、写真やコピーの身分証を受け付けないとなると、実際にそういった対応をしている飲食店のレビューを見ましたが、ひどい有様で可哀そうになってしまいました。

 これではblogTOが指摘するように、厳密にワクチンパスポートのチェックが行われなくなるのも、一定の理解が出来ます。世の中を見渡してみれば、正直者が報われないのは世の常なのかもしれませんが、僕たちはそういう社会を次世代に受け渡すことになるのかと思うと、暗い気持ちになってしまいます。来月こそは、明るい話題を書きたいものです。