大量退職時代の理想の生き方とは|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第40回

大量退職時代の理想の生き方とは|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第40回

Great Resignation

 先月、おとなりアメリカの労働省が発表した8月の雇用動態調査によると、自発的な離職件数が430万人と過去最高を記録しました。
 特に、ホテルやレストラン、バーといったコロナで大打撃を受けた宿泊・飲食サービスの離職率の増加が顕著で、この夏にレストラン業界を離れた25%の人たちは、もうこの業界には戻らないと考えているそうです。

 これは、コロナのみが原因ではなく、低い給与とこれを機会にキャリアチェンジをしたい、という理由が後押ししているのではという見方が強く、いまアメリカでは、“Great Resignation(大量退職)”という言葉が飛び交っています。もちろんこの動向は、コロナが世界中に蔓延していることを踏まえると、決してアメリカに限った話ではなく、ここカナダや日本を含めて、世界的な潮流であると見るべきでしょう。

飲食業界をみると

 かつて、飲食業界はブラックな労働環境が常態化しており、3K(きつい、汚い、臭い)と揶揄されることもありましたが、時代の変化とともにコンプライアンスやガバナンスの強化がさけばれて、ずいぶんとその辺りは改善されてきました。人とのつながりの構築であったり、人を喜ばせたい、自分の料理で感動を与えたい、というような動機で飲食業を志す、前途有望な若者も増えてきているように感じてたこの頃でしたので、上記のニュースを聞いて暗澹たる気持ちになりました。

 しかし、前提が変わったのであれば、ビジネスの組み立て方を変えて、そこに新しいチャンスを見出せるかもしれません。例えばラーメン屋で言うと、ここカナダはまだまだ大都市にしかラーメン屋はなく、少し郊外に目を向ければブルーオーシャンが広がっています。人々が離れてしまったダウンタウンで、高い家賃を払い続けてしんどい思いをせずとも、郊外のラーメン屋が一件もないようなエリアで、低い家賃の物件を見つけることができれば、ぜんぜん勝機はあると思います。

 これまでラーメン屋は回転が命で、数を売ってなんぼの世界でしたが、思い切ってランチ2時間、ディナー3時間の週5営業で、とびきりこだわった食材で高単価を目指すなど、考えようによってはいくらでもチャンスがあり、考え始めるとワクワクして夜も眠れなくなってしまいます。

 スタッフは数人の少数精鋭で、全員でラーメンを作って、全員がサーブもする。そうすることでチップは全員で割り勘にして、極力、優先順位の低い業務は切り捨てて管理コストを抑えれば、それなりの給与水準になることでしょう。

YOLO

 常々、カンパニーではなくコミュニティーを作りたい、と思ってラーメン屋をやってきましたが、日々あれやこれやと湧いてくる業務に忙殺され、スタッフと十分にコミュニケーションをとる時間も割けず、ここまで来てしまったように思います。
 三十代は仕事に打ち込むと決めて走ってきましたが、そろそろ四十代の理想の生活や仕事というものを真剣に考えたい、という気持ちもあります。

 冒頭のアメリカのニュースに話を戻すと、大量退職の背景には、“YOLO(You only live once)”というトレンドワードがあるそうです。一度きりの人生、何に価値を置いて生きるのか、しばらく考えてみたいと思います。