サプライ チェーンと世界経済の分断|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第39回

サプライ チェーンと世界経済の分断|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第39回

今まさに飲食業界はあらたな危機に直面

 7月に飲食店の店内営業が再開し、ワクチンパスポートの導入などである程度の変化はあるものの、ようやく飲食業界も活気を取り戻しつつあります。しかし、人材不足や物価の高騰が叫ばれているものの、徐々に状況は良くなっていくだろうと思っていましたが、今まさに飲食業界はあらたな危機に直面しています。コロナ以降、混乱を極めた物流の遅れが、飲食業界を直撃しているのです。さらに原因を深掘りしてみると、グローバルな大きな問題が浮かびあがってきました。ということで、今回はサプライチェーンとその裏にある世界経済の分断についてです。

「枝豆がありません」

 現場から報告があったときには、ここまで大きな問題に発展するとは思ってもみませんでしたが、それ以降、あれがない、これがない、という報告が後をたちません。どこの業者さんに尋ねても、特定の商品の欠品が州全体で起こっていて、スーパーなどの小売店からも姿を消してしまっているのです。業者さんから欠品の知らせが入ると、とりあえずはスーパーに走って自分たちで調達しようと試みますが、どうやら小売店も欠品中。となると、店舗で仕込めるもの以外はどうしてもレシピを変更して対応したり、最悪の場合は売り切れにするという苦渋の決断を下すことになります。

 日本からの調味料や加工食品を中心に欠品が続いていますが、どうやらこれは日本からの商品のみならず、肉や野菜、魚介類など予想がつかないアイテムが切れていたりという厄介な状況です。航空便の大幅な減少やコンテナの値段が4~5倍に上昇しているという話や、人手が足りなくてコンテナから荷下ろしが出来ず、BC沖でコンテナがプカプカ浮いたまま、といった話は聞いていましたが、フレートの上昇による値上げや遅れというという単純な話ではなさそうです。

ワクチンの不均衡で生まれた経済的な分断

 以前アジア諸国で養殖のエビなどの買い付けを行っていた方から驚きの話を聞きました。曰く、コロナによって世界が同時にストップし、アジアでの養殖も一時的に断念せざるを得なかったものの、ワクチン接種によって経済が再開した先進国からの買い注文が殺到し、養殖を再開しても供給が追い付いていないという話です。これは時間が解決するものでもなく、アジアの新興国はまだワクチン接種が十分に進んでおらず、先進国の経済が再開すればコロナは収束するという楽観的な状況ではないという事実をまざまざと見せつけられました。

 これがリーマンショックのような金融危機であれば、世界的に金融不安に陥っても、アメリカの経済政策によって新興国にもお金が流れ、アメリカの経済回復に引っ張られて世界経済が復活に向かいましたが、今回は先進国と新興国のあいだに、ワクチンの不均衡で生まれた経済的な分断が横たわっています。

模索していくのみ

 原材料がショートすれば、当然その先の加工段階でも遅れが生じて、末端の消費者に届くが遅れてしまいます。どこにボトルネックがあるのかも不明瞭で、欠品した商品がいつになれば復活するのかもわからない状況です。これまで、世界中に張り巡らされたサプライチェーンが世界をフラットにし、地球の裏側にあるものでも簡単に手に入るという世界が当たり前になりつつありましたが、複雑に絡みあったサプライチェーンそのものが、予想のつかない製品の欠品につながっているという皮肉です。

 そうは言っても、明日もお店を開けなければ、売り上げも立たないし従業員に給料も払えません。自分たちの出来る範囲でレシピを見直し、モノがなければ何かで代用し、ピンチをチャンスに変えて新しい価値を創造できないかと模索していくのみです。