黒人コミュニティーの正義と平等を求めた「Black Lives Matter」運動をあらためて考える

まとめ

 今起きている警察による暴力やデモ活動、暴動も今に始まったことではなく何度も繰り返されてきた。それでも未だに黒人の命が不当に奪われ続けている。人種の多様性が比較的に少ない日本で特にマジョリティーの一部にいると人種差別が普段から常にあるという事実もなかなか気がつきにくいかもしれないが、このような問題は米国に限ったことではなくカナダでも日本でもあることだ。

 また、これは黒人だけの戦いではないし、その戦いの責任が黒人コミュニティーだけにのしかかるのも間違っているのではないだろうか。まだまだ道のりは長いが、それぞれがお互いを知ること、学ぶこと、差別に反対していくことから始め、さらに多くの人がサポートし合うことが求められている。

そのほかのカナダで行われた代表的なデモ活動

オタワ

 

 6月第1週目の金曜日午後、「The No Peace Until Justice」という大きなバナーを手に、およそ5000人のデモ参加者が“I can’t breathe”と”Enough is enough”という言葉を一斉に繰り返し唱えながら警察による暴力、黒人人種差別、組織的人種差別の終わりを要求するためParliament Hillからダウンタウンオタワ周辺を行進した。

 オタワ市市長ジム・ワトソン氏やオタワ警察署長のピーター・スロリー氏も自身の意思で行進に参加し、また、ジャスティン・トルドー・カナダ首相もマスクを着用しながらデモに参加するべくParliament Hillに姿を現した。デモの演説者は“皆が人種差別主義者になるか半人種差別主義者になるか選択しなければならない”といったスピーチを行い、中にはトルドー首相に対して米ドナルド・トランプ大統領に立ち向かうよう促す声も聞かれた。

トロント

 トロントでも5月末の週末にあったデモ行進からさらに1週間後の金曜・土曜にかけてオタワと同じようなテーマで再びデモ行進が行われ、主催者は、デモ参加者はコミュニティーと市民団体の指導者らの間で人種差別・暴力問題の対話の場を作っていくことも望んでいると述べた。

 金曜日の行進ではブロア・ヤングの交差点付近で参加者が立ち止まり、米ケンタッキー州の救急救命士であり自宅で警察官によって銃弾を浴び亡くなったブリオナ・テイラーさんに向けた誕生日ソングを合唱した。テイラーさんは生きていれば当日金曜日に27歳になるはずであった。

 また、トロント警察署長マーク・サンダース氏がひざまずく場面も見られたが、抗議活動中の参加者に対する警察による暴力が多発していることから警察官が参加者と共にひざまづく姿や言動は虚しく響くと批判する声も上がった。

 さらに翌日土曜日にも何千もの人がデモ行進に参加したが、一方で40名ほどのローカルアーティストがクイーンストリートから一本南に入った小道のGraffiti Alley (グラフィティアレイ)に集結し、「Paint the City Black」というデモ活動の一環とするイベントを催した。これは1キロほどに及ぶ小道の両側にマーティン・ルーサー・ キング・ジュニアやジョージ・フロイド氏を含め有名な黒人の肖像などを壁画・グラフィックアートとして描くもので主催者は、グラフィティアレイだけではなく街中を黒人の姿で染めたいと述べている。

ハリファックス

 金曜日の夕方、ハリファックスではカナダや世界で警察の暴力や白人至上主義によって亡くなった人々へロウソクを灯して行うお祈りビジル(Candlelight Vigil)が行われた。

 さらに日曜日には、数百人の人がダウンタウンハリファックスから20分程の場所に位置するアフリックビル博物館のある教会(Africville Museum)に集まり人種差別によって亡くなった人々へのお祈りが行われた。

 アフリックビルは、18世紀にアフリカ系カナダ人によって建てられた小さなコミュニティーで、漁業などで一時期栄えたが長い間市や州そして国レベルで人種差別行為の被害を受けてきた。1970年に当時24歳のエディー・カーベリー氏はアフリックビルの土地に戻りテントを張って抗議活動を始め、2019年11月まで約50年間続いた。これはカナダの歴史上最長の公民権運動の一つである。国内や同州内でもアフリックビルの歴史はまだまだ広く知られていないという。今回のデモの主催者はデモ活動が北米・世界中で起きている中、アフリックビルはその歴史から最適な抗議の場所であり未来を変えることで過去を正すことを望むと述べた。

レジャイナ

 サスカチュワン州のレジャイナでは金曜日、フロイド氏が首を押さえつけられた長さの8分46秒間黙祷を捧げられ、その間聞こえた音は鳥のさえずりと風、自動車が道を通過する音のみで主催者の一人は“これは本当に長い時間である”と改めて事件の残酷さや怒りを述べた。その後アメージング・グレースの歌詞が突然歌われ参加者は共に合唱した。

ウィニペグ

 金曜日ウィニペグにあるマニトバ州議事堂にて抗議活動のために何千人もの参加者が集まり、市や州のリーダーらに要望書を提出。その中には、警察への資金削減しその予算をローカルコミュニティや草の根団体、ソーシャルワーカーなどの専門家らに分配する案(Defunding the Police)も含まれた。

バンクーバー

 ブリテッシュコロンビア州バンクーバーでは、いくつかの州同様米国に次いで早い段階で抗議活動が行われてきた。6月第1週目の週末もデモが行われ毎回何千人もの人が集まり、日曜日のデモでは参加者は約3500人だったと推定されている。

 金曜日にはオリンピック聖火台にデモ参加者が集まり、人種差別問題は米国だけの問題ではないことやカナダの教育制度に存在する人種差別問題、人種差別について日頃からどのようなことができるかが取り上げられた。主催者は、米国のいくつかのデモが暴力化した理由に人々が繰り返される人種差別問題について限界点に達したからだと述べ、カナダの抗議活動が人々のこのような気持ちを少しでも抑えることに繋がればという希望の声を漏らした。

 また、同州のプリンス・ジョージでも300人以上の人が集まり市役所前で8分間の黙祷を捧げ、黒人に加え原住民に対する警察の暴力や殺害問題に重きを置いた。

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