黒人コミュニティーの正義と平等を求めた「Black Lives Matter」運動をあらためて考える

Black Lives Matter

 警察による暴力や組織的差別、憎悪などから不当な扱いを受けたり、亡くなった黒人は後を絶たない。さらに迅速に不当な行為をした警察官に法的処罰が下されるのは稀だったり、中には何の責任も受けないでいることも事実としてある。その度に黒人コミュニティーは抗議の声を挙げてきたが、社会はそれでも変わらず、幾度となく警察の暴力は多発し、多くの黒人が語るように落胆・怒り・憤り・悲しみ・孤独を感じながらも、正義や当たり前にあるべき人権、命の同等性を求めて戦ってきた。「Black Lives Matter」の活動もこのようにして始まった。

 「Black Lives Matter」スローガンを語る際に、度々目にするのが「All Lives Matter(=全ての命が重要・価値がある)」というスローガンであるが、ここで勘違いをしてはいけないのはBlack Lives Matterは黒人だけの命が重要と言っているのでは決してなく、しかし今明らかに黒人の命が軽視され同等視されていないということである。「All Lives Matter」はその事実を覆い被し、問題に対するフォーカスをそらしてしまう可能性があるとも指摘されている。

暴徒化した抗議活動

 5月27日から米国だけでなく世界各地で連日に渡ってマーチングなど参加者数万人規模のデモ活動が起きており、米国では特に暴動も起きている。最初にフロイド氏の事件が起きたミネアポリスで警察署が燃え、その波は各地に広がり、ミネソタ州ティム・ウォルツ知事は州兵の動員も開始している。警察は抗議参加者に向けて催涙ガスやゴム弾を使用しており、さらにパトカーで参加者を押しのけるようなビデオも拡散され、参加者と警察の衝突は激しさを増した。

 ホワイトハウス付近も火事になったほか、インディアナ州では警察による発砲で1人の死亡者と2人の負傷者が出ており、他にもケンタッキー州、ミシガン州で死者が確認されている。また、この機会を利用して略奪する者、建物を破壊する者など暴徒化が進んだ。

 他方で、暴徒化の中には実際の当事者でない白人らも含まれており、ウォルツ知事は暴動がフロイドさんの死と関係のないものになっていると非難した。中には白人の集団が建物を破壊しながらそれを黒人が止めようと叫ぶ姿も動画などに収められている。

コリン・キャパニック氏

 また米国やカナダでは、デモ参加者だけでなく警察官が両腕を組んでひざまずく場面なども見られた。これは米ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の元QB・コリン・キャパニック選手が2016年にアフリカ系米国人に対する警察の暴力に抗議し、国歌斉唱中に起立を拒否した際の行動だった。

カナダにおける警察による不当な暴力

 このような警察による暴力や人種差別は米国に限った話ではない。カナダにおいても黒人や原住民の人々に対する不当な扱いが多いとされる。2000年から2017年の間のデータによると、マニトバ州のウィニペグでは原住民の人口は都市全体の10.6%であったが、警察の介入で亡くなった人の60%が原住民であった。

 オンタリオ州トロントでは黒人の人口は全体の8%強であるが、警察による死者は全体の37%を占めている。また、黒人は白人よりも20倍に近い確率で警察に撃たれやすいという話もある。

 「The Globe and Mail」のデータによると、全国の人口の5%以下を構成する原住民は、カナダ騎馬警察隊(RCMP)によって射殺された人のおよそ3分の1以上を占める。また、オンタリオ州オタワ市では、黒人の運転手は白人よりも2.3倍の確率で警察に停められやすく、ノバスコシア州ハリファックスでは黒人の住人は白人の6倍の確率で、警察によってランダムに尋問されるCardingに合いやすいという。これらの背景には個人レベルでの人種差別があることは確かであるが、米国の警察による暴力同様、組織的人種差別の存在が大きく影響しているといわれている。

組織的人種差別(Systemic Racism / Institutional Racism)とは

 組織的人種差別とは、個人個人のやりとりではなくさらに大きなフレームで社会がどう機能しているかを見た時に特に奴隷制度や原住民寄宿舎学校などの同化政策などの影響が現在にも根深く残っている結果、白人至上主義(White Supremacy)が社会全体レベルの考え方、機能の仕方に影響しているということである。

 この組織とは立法機関、警察、法律や規制そのものだけでなく教育、仕事場、雇用慣習・機会なども含んでいる。このシステムの中で特に最も恩恵を受けるのが白人であり、システムの多くが白人にとって有利になるように機能している傾向がある。これを(白人)特権という。

 一方でこの悪影響を受けやすいのが黒人などの人種的マイノリティーだ。例えば貧困も元を辿れば教育や雇用機会のアクセスが十分にない、政策や法律などでネガティブに影響を受けるなどということから派生し、そこから犯罪につながりそれが次世代に影響するというように、あらゆる事が連鎖し相互作用している。深く根付いた人種差別が影響し白人やマジョリティーに比べて人種的マイノリティーグループに例えばそもそも教育や雇用などのアクセスが十分・平等になければそれが次の事柄にどんどん作用し次々に問題が発生していく。

 さらに人種だけでなくジェンダーやセクシュアリティー、障がいなどをベースにした差別も絡んでくる。このような社会の姿は決して米国やカナダに限ったことではなく、例えマジョリティーになる人種が違っても日本でも十分に考えられる状況であり他人事ではない。

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