黒人コミュニティーの正義と平等を求めた「Black Lives Matter」運動をあらためて考える

 5月25日米ミネソタ州のミネアポリスでアフリカ系アメリカ人であるジョージ・フロイド(George Floyd)さんが白人警察官に取り押さえられた後に亡くなった事件で、世界中で抗議活動や暴動が起きたことは記憶に新しい。黒人コミュニティーに対しる根深い人種差別の実態が報道され、世界は怒りと悲しみそして憤りにあふれ、あらためて不平等な現代社会に疑問が投げかけられている。

今もまだ警察に不当に殺され続けている現実

残念なことにこのような事件は特に米国では稀なことではなく、今に始まったことでもなく、白人警察官による黒人など「人種的マイノリティーの有色人種(People of Colour, POC)」に対する差別・不当な扱いは幾度となく繰り返されてきた。

 今年の2月には、ジョージア州でも武器を持たないアマード・アーベリーさんがジョギング中に強盗犯だと思ったという理由で元警察官・州検察官の白人である父とその息子に執拗に追われ射殺された。しかし大きな注目を集めたのは事件からだいぶ後にアーベリーさんの最後の瞬間が映された動画が公開されてからで、逮捕までには2ヶ月半もかかった。

 3月にはケンタッキー州の救急救命士であったブリオナ・テイラーさんが自宅で警察官らによって8発の銃弾を浴び亡くなった。報告書によると警察は麻薬捜査中でノックもなしに捜査令状とともにテイラー氏の自宅に押し入ったが、これが実は間違った場所であったということも明らかになっている。さらに、警察が追っていた人物はすでに拘束されていたという。

 そのほかこの数年の間だけでも大きく報じられた事件は数え切れないほどだ。

2014年ミズーリ州

 18歳のマイケル・ブラウンさんが丸腰だったにもかかわらず、白人警察官によって何発も撃たれ亡くなった。さらに彼の遺体はそのまま路上に4時間以上放置されるといった不当な扱いを受けた。

2014年ニューヨーク州

 路上で違法なタバコを販売していた疑いでエリック・ガーナー氏さんが逮捕される際に白人警察官によってニューヨーク市警察では禁止とされているチョークホールド(絞め技)で倒され、複数の警察官らによって地面に押さえつけられた。

2016年ミネソタ州

 車のテールランプが故障していたために警察に呼び止められたフィランド・カスティールさんが白人警察官に何発も撃たれて亡くなった。目撃者が撮影した動画にはまるで今回のフロイド氏同様に“息ができない”と何度も訴えるガーナーさんの様子が映っている。

I can’t breathe

 5月25日、フロイドさんは手錠をかけられ路上にうつ伏せの状態で横たわったまま、警察官に首を膝で数分間に渡り押さえつけられた。検察官の報告書によるとこの行為は8分46秒間続いたとされる。フロイドさんが繰り返し「I can’t breathe」と言っている動画は、SNSやメディアを通じて拡散され、世界に衝撃を与えた。

 現場にいた警官が身に着けていた音声付きカメラには途中で一人の警官が“脈がない”などと言った声も明らかになっている。その後病院に運ばれ死亡が確認されたわけだが、凶器なども所持していなかったとされる。

警察の暴力によって殺されているという事実

 米国では、警察の暴力(Police Brutality)によって亡くなる人の中でブラックアメリカ人が特に多いとされる。「The Washington Post」や「Mapping Police Violence」などの考察を参考にすると、2013年から2019年の間で米国では7666人の市民が警察によって亡くなっているとされる。その中でブラックアメリカ人は米国において13%の構成率にも関わらず、ホワイトアメリカ人よりも約2.5倍の確率で警察の暴力によって亡くなっている。ちなみに次に高い割合で亡くなっている人口はヒスパニック系アメリカ人だ。

 ほぼ全州で警察によって亡くなる黒人の確率が白人よりも多いが、州によってもその度合いが変わってくる。例えばオクラホマ州の黒人はジョージア州に比べて6倍も高い確率で警察によって亡くなっており、最も高い確率で黒人が亡くなっている国内最大の3州は、カリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州である。また、国内最大の100都市のうち、8都市の市警察が国の殺人率よりも高い割合で黒人男性を殺害しているという(図1)。

 しかし各地域の暴力犯罪率が、警察による暴力率を決定しているわけではない。次のグラフ(図2)と例を見ても分かるようにニューヨーク州のバッファローとフロリダ州のオーランドを比較すると人口と有色人種の割合そして犯罪率はバッファローの方が多いが、警察によって亡くなる人の数はオーランドの方がはるかに多い。

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