ノバスコシア州で起きた「カナダ史上最悪」の銃殺傷事件の衝撃

事件の詳細と犯人像

 一連の事件で、犯人は合計155キロも移動。22人の犠牲者の半数は、犯人の知人や近隣の住民だったという。また、今回の事件現場となったポルタピケをはじめとする多くは、住人が比較的少ない小さな街だった。「これらの街は人々が長年住んでいるところで、近所の住民がお互いのことをよく知っているような場所だ」とトルドー首相も会見で残念な気持ちを述べた。

 犯人のガブリエル・ウォートマンは、ポルタピケ地域で歯科医院を経営していた義歯技工士だった。連邦警察は、犯人の詳しい動機については言及していない。しかし、ウォートマンは長年にわたり、多くの仕事仲間や親戚などとの間に衝突があったとされる。これらの履歴が今回の事件と関与しているかどうかは現在調査中とのことだ。また、調べによると、ウォートマンは2002年に15歳の少年に暴行を加えたとして有罪になっているという。「アンガー(怒り)・マネジメント(管理)」と呼ばれる、感情を抑えるための心理療法を受けることや銃や爆発物などの所持を禁じられていた経歴もあったことが分かっている。

なぜ早期に警報・緊急事態アラームが発令されなかったのか?

 今回の事件の中で多くの住民や州民が首を傾げているのが連邦警察の対応だ。中でも、警察が早期に警報を出さなかったことについて、「事件発生当初から警報が出されていれば死傷者の数を抑えることができたのではないか」と疑問を抱いている。

 これに対し、連邦警察は、二日間に渡って起きた事件の状況は「変わりやすく」「不安定」であったため、住民への情報発信が遅れたと述べている。記者会見でこの質問をされた際、主任は「警報を準備していた最中に犯人が射殺された」と答えた。ノバスコシア州のスティーブン・マクニール首相は「警報を発令する決断は連邦警察に委ねている」とコメントした。

RCMP Photo by Iouri Goussev
RCMP Photo by Iouri Goussev
追加情報や緊急アラームもなく、すでに解決されたことだと思っていた

 初めて「銃撃者」がいるという可能性が示唆されたのは4月18日夜22時半ごろで、連邦警察がツイッターに投稿した「銃関連の苦情」だ。同時に、外出を控えるようにと住民に呼びかけた連邦警察。しかし、その後の8時間、警察は事件に関する警告・追加の情報発信を一切行わなかった。銃撃者に関する新たな情報が更新・報告されたのは翌朝19日午前8時すぎのこと。その時点では、多くの住民が「すでに解決されたことだと思い込んでいた」という。

もし犯人がまだ捕まっていないとわかっていれば、妻を仕事に行かせなかった

 CTVのインタビューに答えたニック・ビートンさんは今回の事件で愛する妻を失った。犯人がまだ捕まっていないと分かった時には、妻のクリステンさんは既に仕事へと向かっていたという。公開された犯人の写真をクリステンさんに急いで送ったニックさんだったが、既に手遅れだった。彼女の遺体が見つかったのはその日の午後だったという。「もし犯人がまだ捕まっていないとわかっていれば妻を仕事に行かせなかった」と涙ながらに答えた。

被害者の横顔が報じられる度に心が痛む

二人の子どもは母親を失い、夫は妻を失った。両親は娘を失い、他の多くの人は大切な友人と同僚を失った
Photo RCMP
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 犠牲者の中には、事件の調査に当たっていた連邦警察のハイディ・スティーブンソン巡査も含まれる。23年もの間、地域のために貢献してきたスティーブンソン巡査は、二人の子どもを持つ母親でもあったという。彼女の上司にあたるノバスコシア州のリー・バーガーマン司令官は彼女の死を受け、「二人の子どもは母親を失い、夫は妻を失った。両親は娘を失い、他の多く人は大切な友人と同僚を失った」と述べた上で、「彼らの痛みに値する言葉はない」と追悼の意を表した。また、トルドー首相も「彼女は周り人たちを守り命を落とした」と追悼した。

 また、犠牲者のうちの二人は高齢者などの在宅ケアサービスを担う介護士だったという。そのうちの一人、ヘザー・オブリエンさんは准看護師だった。

「看護師として17年間、彼女は人を思いやる気持ちを持ち続けた」と彼女の雇用主は述べた。もう一人のクリステン・ビートンさんは介護助手であり、母親でもあったという。事件の被害に遭ったのは、患者のもとへ向かっている最中だったそうだ。ノバスコシア州の労働組合は声明にて、「彼女はノバスコシア州の中で最も助けを必要としている人たちの世話をすることにキャリアを捧げた」とした上で、「彼女は今回のコロナ禍の中、とても必要とされていた仕事をしている最中に命を落とした」と悔やんだ。

地域コミュニティー内で軋轢はあった

 殺害されたうちの一人であるリサ・マッカリーさんの妹はインタビューに対して「まさか自分が銃撃事件の被害者になるとは思わなかった」と答えた。また、「まるでナイフで刺されたみたいに痛烈」と痛む胸中を説明。この姉妹は犯人とは知人程度に過ぎなかったという。また、詳細は明かさなかったものの、コミュニティー内で軋轢があったことをマッカリーさんの妹は認めた。「そうだとしても、これは許されざる行為」と加えた。マッカリーさんの葬儀は家族の間で執り行われた。新型コロナウイルスの影響で大人数で集まることは禁じられていたため、友人や仕事仲間はオンラインで参加したという。

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