日本茶に特化したイベント「日本茶祭り」が11月26日、日系文化会館で開かれた。日本人には昔から馴染みのある日本茶が世界で認知度と人気を高める流れにある中、ここトロントでも例外ではない。イベントにはなんと1000人近いお茶を愛する人たちが来場。来場者は、緑茶から玄米茶やほうじ茶の試飲、和菓子、お茶を使ったお菓子の試食から文化的な体験までを楽しみ、さまざまな“日本茶”と触れ合う時間を楽しんだ。簡単なルポ形式で紹介する。
飲み比べで好みのお茶探し
今回のイベントのテーマは「日本茶を飲み尽くす。知り尽くす。楽しみ尽くす。」ということで、来場者にさまざまな機会を提供。日本茶を飲むだけではなく、プロによる日本茶を作る工程やおいしくいただく方法のデモンストレーション、茶道の着物の着付けワークショップや日本茶のお菓子販売などのコーナーが設けられていた。
イベントに出展したベンダーは、ほうじ茶専門店や、世界中のお茶と合わせて日本茶も扱うカナダのお茶屋など。ここでの楽しみは、ずばり飲み比べだ。多くの来場者がそれぞれのベンダーで日本茶、ほうじ茶、玄米茶など多種多様なお茶を試し、味の違いや深みを楽しんだ。
日本茶卸売業者の「HOKUSAN」によるココナッツミルク抹茶ラテをまずいただくことに。宇治抹茶を使って作ったオリジナルの飲み物で、甘さの中に少し抹茶の苦味のような味も感じられる非常にマイルドなお茶だった。同社オーナーのRikko Osakiさんは「小さな生産者を盛り上げたいといつも思っている。お茶を飲んでほっとしてもらえたら嬉しい」と話した。
日本の農園からお茶を輸入している「Genuine Tea」ではバタフライピーの試飲があり、濃い緑色をしたお茶からはほんのり特徴的な香りがするものの、味はすっきり。
また、京都産のほうじ茶専門店「Hojicha Co.」では、クラシックほうじ茶と深くローストされたほうじ茶の2種類のお茶を提供。2つの違いを来場者たちは楽しみ、「ほうじ茶を初めて飲んだ」「ここのお茶が一番おいしい」などといった声が聞こえてきた。お茶を飲むことで、気持ちがリラックスでき誰もが笑顔になれるものだと感じた。
日本のベンダー以外にも、カナダ現地のお茶屋も出展した今回。「Lemon Lily」は、日本からもお茶を輸入してオーガニックにこだわった製品を提供している。オーナーのジェイソン・ジョンストンさんは「お茶のコミュニティーを広げることにも繋がり、イベントはとてもユニーク」と笑顔で語った。
それ以外にも、日本人なら誰もが知っている伊藤園の「おーいお茶」の試飲や、抹茶を使ったお菓子の販売も。慣れ親しんだ日本の飲み物や食べ物を楽しむことができるなんて、幸せなことだと感じた。
貴重な伝統芸の手もみ披露
今回のイベントのハイライトの1つは、手もみ茶のデモンストレーションだ。今回日本からトロントに来られた手もみ職人の比留間嘉章さんは、なんと手もみで日本一に輝いたこともある。この道40年という比留間さんによると、手もみ作業はほぼ休むことなく6時間ずっと揉み続ける体力勝負だとのこと。焙炉(ホイロ)と呼ばれる専用の台に65度の温度に設定された和紙を敷き、その上でスムーズに茶葉を乾燥させつつも表面にしっとりとした水分が残るよう絶妙な加減を保ちながら揉んでいく。
比留間さんが繰り返し丁寧に揉んでいく様子を来場者たちはじっくりと観察。時には「揉む時のこつは?」「どこでお茶を買えるのか」などといった質問も飛び交い、来場者と積極的に交流しながら伝統的な技を披露していた。手揉みすることで、最初は水分を含みしなやかさのあった茶葉が6時間経つ頃には針のように尖った状態へと変化した。比留間さんは「海外の人はリアクションが良い。より興味本位で見てくださるので、もっと日本茶の認知度が上がるよう発信したい」と語った。
イベントでは、トロント裏千家による茶席や静岡県から高鳥真堂煎茶道黄檗弘風流のお家元が来加してのお点前も開かれた。参加者たちに抹茶がふるまわれ、実際の格式高いティーセレモニーがどんなものかを実演してみせたり、季節に合わせたほうじ茶でもてなしたりといったお茶の席を通し、来場者を日本の伝統的な文化の世界へと誘った。
目を楽しませる和菓子も
場2階には、お茶以外の日本の伝統的な着物やペーパーカットナイフ、かんざし、書道コーナーなど、日本文化を手に取って直に見ることができるコーナーが広がっていた。その中で特に人々の目を奪っていたのは、フランスに拠点をおいて活動する和菓子職人、村田崇徳さんによる和菓子のデモンストレーションだ。クリスマス前ということもあり、ツリーの形をしたクリスマスツリーの実演を見せてくださった。白あんにインゲンを柔らかく炊いて緑色になったものをザルでこして紐状にし、黒あんに重ねるようにするとツリーの葉の部分の出来上がり。そこに金と銀の丸い砂糖などを装飾すると完成だ。
「日本茶と和菓子を合わせてアピールしたい」と話す村田さんの見事な芸術作品に、見守っていた人々は興味津々だった。
その他、ワークショップでは割れた器を漆と純金で修復する技術「金継ぎ」の金継ぎ師、Shuichiさんによる講座や、トロントの陶芸家SecretTeatimeによる豆皿作り体験なども開かれた。お茶に限らず、日本の伝統を実際に来場者に見て体験してもらう貴重な場になったのではないかと思う。
来場者にお話を伺ってみると、「お茶が好きなので、こういったイベントでお茶を紹介していただけるととても良い。いろんな人にもっと知られてほしい」、「日本茶は他のお茶と一線を画していると感じる。日本茶により親しみを持つことができた」と嬉しい反応が返ってきた。日本茶がこんなにも海外で愛されているという事実に、胸が熱くなった。お茶だけではなく日本の伝統品にも触れることができ、ますます来場者と日本が繋がる良い機会になったのではないだろうか。今後このようなイベントがもっと増えることに期待したい。
【主催者コメント】
今回のイベントを主催したのは、オンラインで日本茶の販売を続ける吉田桃代さん。イベントを終えてのお気持ちや、次回に向けての思いを聞いた。
―大盛況のイベントでしたね。振り返っていかがですか?
たくさんの方から「楽しかった」「良いイベントだった」という温かいお言葉をいただくことができ、嬉しく思っています。当日は想像以上にたくさんの方にお越しいただき、日本茶へ対しての関心の高さを改めて実感しました。初めてのことで、運営サイドで段取りが悪かったことも多々あると思うのですが、ご来場いただいたお客様をはじめ、ご参加いただいたベンダーさん、ボランティアのみな様のご協力のお陰で無事に終えることができ、心から感謝しております。
―今回のイベントの意義や目的が、今後どのように発展することを期待していますか?
このイベントは日本茶とそれにまつわる日本の文化を盛り上げていきたいという大きな目的があります。その志は今後もぶれずに大切にしていきたいです。日本茶ファンを増やすことによって、ゆくゆくは日本のお茶産業の発展に繋げたいですね。小さな最初の一歩ですが、この最初の一歩を大切にして今後に繋げていきたいと思っています。
―ベンダーさんなどの反応はいかがでしたか?
ベンダーさんや総勢70名のボランティアの方から「来年もぜひ参加したい」「とても楽しいイベントだった」と言っていただいたことは、とても嬉しく光栄でした。このイベントがきっかけになって日本茶に興味を持ったと話していた若い世代の方のコメントもあり、大変嬉しかったですね。今回は日本からお茶のプロの方がこのイベントのために来加されましたが、「さすがお茶に関心のある人たちが訪れるイベント。質問のレベルも高く、お茶に対する情熱や関心が高い人が多い」とコメントされており、カナダに住む私からすると、そう思っていただけたことが嬉しく、誇らしい気持ちになりました。
―次回開催に向けての意気込みをお願いします。
頭の中は既に来年のイベントのことでいっぱいです。今年の反省を次回に生かし、回を重ねるごとにいいイベントにしたいです。また、「日本茶」を盛り上げたい気持ちは引き続き強く、美味しい日本茶を提供いただけるお茶屋さんをもう少し増やせたら、と願っています。ビジネスの垣根を超えて、日本茶をプロモーションする「同志」のような気持ちでこのイベントに参加いただけるお茶屋さんが増えたら、お茶愛好家たちにとってもよりお茶の世界が広がり盛り上がるのではと思っています。
このイベントはトロントのティーコミュニティーからも注目された。
次の大きなお茶イベントは2024年10年目を迎えるティーフェスティバル。1/27&28に開催。今回日本茶祭りに出店した殆んどのお茶ベンダーが再集結予定。