『寿司テロ』と メディア、顧客との信頼関係の構築|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第57回

『寿司テロ』と メディア、顧客との信頼関係の構築|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第57回

寿司テロという言葉がメディアを賑わせています。回転寿司店において、醤油さしを直接なめたり、レーンを回っているお寿司に不衛生ないたずらをしたりする動画を、SNSにアップして注目を集めるという非常に稚拙きわまりなく、他のお客さんにとっても、お店にとっても迷惑千万でしかない不愉快な行為なのですが、この度ついに逮捕者が出て、そのニュースは日本のみならず、海外のメディアでも報じられました。

ちょっとした出来心でのイタズラでは済まされない事態

回転寿司店のみならず、そば屋さんや牛丼屋さんなどの業態にもこの寿司テロは飛び火しており、風評被害で売り上げが減少したり、一時的に株価が急落して企業の時価総額が減少するなど、ちょっとした出来心でのイタズラという事では済まされない影響が出ています。お客さんからしてみればただただ不愉快で、企業からしてみれば死活問題、そして加害者も逮捕やネットリンチ、すなわちネット上で私刑にさらされるという社会的制裁を受けるなど、全員が損しかしていない何とも不毛なトレンドです。

社会の不健全な歪みとメディアの責任

トレンドとなる背景には、SNS上で話題になってメディアに取り上げられ、模倣犯が出てくるという悪循環がありますが、寿司テロ行為に及ぶ高校生や若者と、それを取り上げるメディアには、注目を集めたい、という奇しくも共通の目的があり、共犯関係となってしまっている点に、社会の不健全な歪みを見てしまいます。というのも、誰が悪いかと言えばもちろん行為に及んだ当事者である事は間違いないのですが、多くの人にとって知る価値がないニュースをわざわざ取り上げて大々的に煽るメディアの責任も大きいと感じています。

それを無自覚に批判すること自体、壮大なブーメランでしかないので、一応言い訳をしておくと、この度、ようやくトレンドの流れが分水嶺を越えて逮捕に至ったという事で、寿司テロが実はただの犯罪行為でしかないことを知らしめたいがために、キーボードを叩いているわけです。

顧客との信頼関係と飲食業界のイノベーション

ある回転寿司チェーン店は、「今回の逮捕をきっかけに、こうした、お客さまとの信頼関係に基づく仕組みを、根底から揺るがす迷惑行為が『犯罪』であるということが、広く世の中に認知され、今後、模倣犯がなくなることを切に願います」とコメントを発表しました。全くその通りではありますが、一連の犯罪行為が回転寿司、すなわち顔の見えない、顧客との信頼関係が築きづらい業態で起こってしまった事にも一抹の不安を感じています。

というのも、今後、飲食店においても自動化や少人化は避けられない大きな流れで、回転寿司という業態は、まさにその先行事例、飲食業界のイノベーションだったと言えます。そして、この流れに乗って積極的に自動化、少人化を推し進めることは、顧客との信頼関係を築くためのタッチポイントも減少してしまう事を意味します。

信頼関係とは、便利で軽いコミュニケーションよりも、面倒で濃厚なコミュニケーションにこそ生まれると思っているので、テクノロジーの導入に、いかにこの面倒で濃厚なコミュニケーションを挟み込めるか、というのがこれからの飲食における信頼関係の構築に欠かせないプロセスではないでしょうか。