新しい『公益』 資本主義とは?|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第44回

新しい『公益』 資本主義とは?|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第44回

経営のど真ん中の話

 昨年、日本で岸田新政権が発足し「新しい資本主義」を掲げたのは記憶に新しいところです。中身がないというような批判や、株価の低迷といった問題はありますが、たしかに格差の拡大や、大学で借金を抱えた若者が社会に放り出されてしまうような見過ごせない状況や、もっと酷い話も世の中にはいくらでもころがっていて、資本主義はこのままで良いのかという疑問が湧いてきます。

 そもそも資本主義とは、政治的、経済的なシステムで、基本的には自由な経済活動を前提としている事から、国家の市場介入はなるべく避けるのが好ましいというのが原則です。であれば、経済活動の主体である消費者や事業経営者こそが考えるべき問題では、というのがきっかけで、新しい資本主義について興味を持ちました。もちろんマクロで見れば政治の役割は大きいと思いますが、ミクロで見た場合、どのようにビジネスを行うのか、という極めて自分事の領域で、さらに「成長と分配」とは、まさに経営のど真ん中の話でした。ですので今回は、政治的主張を抜きにして、新しい資本主義について書いてみたいと思います。

事業家・ベンチャーキャピタリスト 原丈人さんの提言

 まず、資本主義にもいろいろあって、株主資本主義や金融資本主義というような形態があり、これらの体制が今の世界を形作っています。しかし、格差の拡大やマネーゲームを助長したのも事実で、それが冒頭にあげた問題につながっているという面もあります。事業家でベンチャーキャピタリストの原丈人さんは、これらの資本主義を否定して、まさに新しい「公益」資本主義という考えを提唱しました。

 これは、短期的な利益を追い求めてマネーゲームに走らず、持続的な成長を見据えた、①中長期投資、それから、会社があげた利益を株主や経営陣のみ分配するのではなく、社員をふくむすべてのステークホルダーに分配するという、②社中分配、そして、時代の変化に沿って事業そのものを変化させたり、新しいことにチャレンジをする、③起業家精神による改良改善、という3つの骨子が中心となった考え方です。

社中分配という考え方

 自分的になかなか衝撃的だったのが、②の社中分配という考え方です。現場の社員やパートさんが売り上げを作って利益を出しているのにも関わらず、独立したいけどお金がという話だったり、家を買いたいけど頭金がという話を社員から聞かされると、もっと給料を払えるようにしなくてはといつも思っていました。利益を従業員に分配することで、これらの問題が解消され、より事業にコミットメントしてもらい、中長期での成長をみんなで考えていければ、それが何よりです。会社は株主のもの、というのが法的な解釈ではありますが、常々、従業員や顧客のものでもあると思ってきたので、自分としても違和感のない施策になります。

 この原丈人さんによる公益資本主義ですが、大事なポイントとして、資本主義それ自体を否定しているわけではありません。資本主義という名のスマホに、どんなアプリをインストールしてカスタマイズするか、というようなイメージが近いのだと思います。アメリカの先の選挙では、バーニー・サンダースやAOCといった政治家が、いわゆるミレニアル世代、Z世代から指示を集めましたが、彼ら若者は、社会主義や共産主義にもポジティブな感情を抱いています。SNSのアルゴリズムによって、意見の偏りが顕著になりやすいこの時代で、社会としてどんな道を選ぶのか、という非常に難しい問題ではありますが、まずは自分の出来る範囲で、考え、決断し、行動していこうと思います。