近い将来、お金がなくなる?|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第29回

近い将来、お金がなくなる?|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第29回

トロントは再びロックダウン

 11月、トロントが再びロックダウンすることが決定しました。この先、半年から一年はこの状況を覚悟していたので、粛々とやるべきことやるだけ、と平静を保てているのかな、というところです。ただ、こうも状況がコロコロ変わると、短期的なモノの見方しかできなくなってしまいます。今後の見通しを立てる上でも、物事を見誤らないためにも、今日はあえて遠い未来について想いを馳せてみたいと思います。

「2049年 『お金』消滅」

 手元に、「2049年『お金』消滅」という斎藤賢爾氏による著書があります。かなり奇抜なタイトルですが、実際、ユーチューブのような無料のサービスはいくらでもあります。こういったサービスは、広告を非表示にしてよりよいサービスを受けたければ、月額でいくらかのお金を支払うというモデルで、フリーとプレミアムをくっつけた造語でフリーミアムと呼ばれ、特にデジタル領域でかなり一般的になりました。デジタル領域で、と断りを入れたのは、デジタルコンテンツであれば複製コストが実質無料なため、サービス自体を無料にしやすいからです。

 当然、それはデジタルだから可能なのでは、という疑問があります。しかし、モノに関してはオープンソースの設計図を基に3Dプリンターで作ってしまえば、コストは材料の原価のみで、自然に配慮した循環型の原材料あれば、モノが無料になっていくという話はリアリティがあります。鍵はエネルギーと食料になる、と本書には書かれていますが、エネルギーは人類が再生可能エネルギーにシフトして、発電所の一切の手間を自動化しさえすれば可能になります。実際、ソフトバンクグループはインドに設置する太陽光発電所による電力を、供給開始から25年後には無料にすると発表しています。食料にしても、究極的にはエネルギーの無料化と自動化により、限りなくコストがかからなくなるそうです。

あらたな経済圏の創生の萌芽

 ここまでコストの面から、モノやサービスが無料になり、お金の消滅に至る道筋を紹介してきましたが、別の側面からも見てみましょう。最近、皿洗いで飲食代が無料になる餃子の王将が、ファンに惜しまれつつも閉店したというニュースも話題になりましたが、神保町にある未来食堂や、NPOや企業が運営する子ども食堂などは、無料で食事をすることが出来ます。またこういった飲食店では、見ず知らずの人のために飲食代を肩代わりするという贈与の経済も成り立っています。また、ネット上のフリーマーケット・メルカリで売れた売り上げは、メルペイというクーポンを通してコンビニなどでお金を介在しなくとも商品を買うことが出来るなど、あらたな経済圏の創生の萌芽はいたるところで散見されます。

 お金が本当になくなるとしたら、仕事の位置づけはどうなるのでしょうか。現在、自分はグーグルマップとデリバリーアプリが最短化してくれたルートを運転して、冷凍ラーメンを配達しています。その業務自体に仕事の喜びや楽しみを感じることはなく、むしろ機械の下請けになってしまったような感覚すら覚えます。しかし、店内飲食ができない状況でも、たくさんのお客さんに美味しいラーメンを届ける、というまぎれもない意思があり、この状況を乗り越えるべく全力で挑戦しているので、刺激に満ちた、充実した毎日を過ごしていると感じます。

 この本では、お金のない未来はユートピアかディストピアか、という疑問を残していて、それは私たち次第、と結論付けていますが、仕事にお金が介在するかどうかも二の次で、それ以上に仕事の意味ややりがいを持っていれば、案外、自然と受け入れられる未来なのではないでしょうか。