暗号資産(仮想通貨)の時代はやってくるのか?ー秋の夜長に仮想通貨の未来を考えるー|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

暗号資産(仮想通貨)の時代はやってくるのか?ー秋の夜長に仮想通貨の未来を考えるー|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 ビットコインが市民権を得られるか、中米のエルサルバドルがビットコインを9月7日に法定通貨にするという壮大な実験を開始させた。ただ、それ以外にも暗号資産の是非論は世を二分している。我々の通貨は将来いったい何になるのだろうか?奥深いこの問題に少しだけ足を踏み入れてみよう。

テスラCEO イーロン・マスクの動き

 ビットコインなど暗号資産を使ってモノが買えるというニュースが流れるたびに大きな話題になるもののすぐに萎んでしまうのは実際には「やっぱり無理」という問題があるからだ。

 テスラのイーロン・マスク氏がビットコインでテスラが買えると述べ、その舌の根が乾かぬうちに撤回したのはなぜか、その最大の理由はビットコインの値動きが荒いこととビットコインの絶対量が足りないことであろう。絶対量が少ないということはビットコインへの需要が高まれば値上がりしやすくなり、モノの価格も大きく跳ね上がることになる。「通貨」供給量の不足よるインフレと同じ構図で問題解決には対応できないということだ。

 テスラの価格をドル建て表示でその時の相場でビットコイン建てで購入できるようにすればインフレにはならない。但し、売り手、買い手とも多大なる相場変動リスクを負うことになる。コーヒー一杯ならまだしも自動車のような高額商品となればためらう人は多いだろう。

 では価格変動が少ないステーブルコインの場合はどうだろうか?こちらは値動きこそほぼ固定されているが膨大な需要となるコインを供給することができない。

 ここで我々が使っている通貨の歴史を振り返ってみよう。昔は物々交換だった。あるいは日本では江戸時代までは年貢という制度があり、米や野菜で税金の支払いをしていた。世界では金が間接的な通貨としての役割を果たす。日本はジパングと言ってヨーロッパからは憧れの国だった時代もあるが、金を掘り尽くし、その限りある資産の限界を肌で感じてたのも遠い昔の話だ。

 その後、通貨は国の保証という形で「法定通貨」が各国で発行される。これは国の保証があればいくらでも通貨を発行できるので第一次大戦後のドイツではコーラ1本買うのにリヤカー一杯のお金が必要だったという笑い話もあったし、南米などではハイパーインフレと言って一年に物価が何十倍にも跳ね上がるような問題も生じた。これは紙幣は輪転機を回せばいくらでも刷れるがその分、インフレが起きるということだ。

なぜ暗号資産が着目されるようになったか?

 では最近、暗号資産が着目されるようになった理由はなぜなのだろうか?1つはドルへの一極への疑問だ。中国やロシアは基軸通貨ドルを良しとしない。アメリカがアメリカでいられる理由の一つはドルの発行国だということだ。ここが揺らぐと大混乱が起きる。アメリカはドルを守るため、暗号資産に慎重なのだ。

 もう一つは政府保証の通貨は国家間で送金する際の手間やコストが高い。外国への出稼ぎ労働者が簡単で安価に本国にお金を送れる方法を模索したわけだ。

 ただ、ビットコインが通貨として根付く可能性は現時点では低い。それは制度的問題、供給量の調整機能、発行量の限界、値動きの激しさなどいろいろある。ただ、暗号資産への取り組みは将来のデジタル通貨時代の到来を考えればその第一歩であり、このまま廃れるとも思えないのだ。

 私はデジタル通貨の本命は各国の中央銀行が発行するデジタル通貨、つまりデジタル元やデジタルユーロの展開だとみている。国が発行するデジタル通貨は紙幣の代わりにカード、ないしスマホにストアされたお金を現金のごとく使う仕組みだ。これが出来るといわゆるスマホペイのメリットはほとんどなくなる。敢えて言うならマーケティング戦略として特定スマホペイを使えばポイントが貯まる特典だが、加盟店が嫌がるだろう。デビットカードはなくなる。一方、クレジットカードは一定期間分をまとめて払うという機能が評価されて残るはずだ。

暗号資産とは何なのか?

 日銀は「暗号通貨」とは言わず、「インターネット上でやり取りできる財産的価値」と定義している。「通貨」ならば日常使いという意味合いがあるが「資産」なので持つことに価値があるとする。金を店先に持っていってもモノは買えない。とすれば金同様、限りあるビットコインは将来希少価値の資産の意味合いがより強くなるのかもしれない。

中国の動き

 ところで中国がビットコインのマイニングを禁じたためそれまで世界の7割の生産量を誇ったビットコインの発掘は新時代を迎えている。環境負荷をかけない方法が様々なマイニング会社でアナウンスされている。これは一つの技術的進歩なのだろう。

 中国政府がマイニングをやめさせた理由はデジタル元の早期普及が背景だとみている。政府通貨のデジタル化の最大のメリットは監視できるということだ。中国はご存知の通りあらゆる形で個人の行動を把握しようとしている。その仕上げの一つがお金の流れであり、不正なお金はデジタル化することで全て掌握できる。中国の女優が巨額脱税で莫大な罰金を科せられたのもマネーの不正を取り締まるためだといってよい。

 デジタルマネーも便利さの裏に必ずその意味するところがあるということだ。我々はデジタルという蜘蛛の巣にがんじがらめになっていくのだろう。そうなると紙幣の価値がアナログ資産として将来、暗号資産より値上がりするという冗談のような話があってもおかしくなさそうだ。