不動産、今買うべきか、待つべきか?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

不動産、今買うべきか、待つべきか?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 カナダ人が最も熱心に耳を傾けるトピックスは不動産であろう。自分の所有する物件が上がればうれしい半面、持ち家一つしかなければいくら上がっても儲からない。そこで投資用に買う人も多いし、今、買わないと一生買えなくなると焦る人もいる。さて、カナダの不動産、あなたならどう見る?

 私は不動産事業者としてカナダにきて本当に良かったと思っている。何故なら過去30年、私のベースであるバンクーバーの不動産は見事に右肩上がりを示しており、何度となく下落すると言われたのに小幅な調整を経て、再び上昇軌道に乗ることがほとんどだからだ。

 一時期は中国本土からの移民が不動産を買い上げたものの中国の外貨持ち出し規制があり、急速にその勢いが止まりかけたが、決して大きく下がることはなかった。何故、カナダの不動産はこんなに上がるのだろう、そして今後、5〜10年でどうなるだろうか?大胆予想をしてみたい。

移民国家カナダ

 まず、カナダの不動産市場が堅調なのは移民国家として移民が毎年押し寄せるからだ。2021年度は40万人の移民受け入れを目指している。特に2020年はコロナにより移民目標が半分程度しか達成できず、21年度は学生など若年層への特別枠を設定し、カナダに経済的便益をもたらすような人を多く受け入れる。これらの人たちは当然、住宅が必要となり、賃貸なり購入なりを進めていく。となれば住宅の絶対戸数への需要は常時高い水準が維持され、それまで賃借だった人たちが必要資金を貯めたのち購入に移るという経済の循環がそこに生まれる。

 つまり、移民した人たちがすぐに住宅を購入するケースは限られるが、何年か経ち、それらの人たちの生活が安定すれば待機組が押し出されるように購入する流れがこの国にはある。

中古住宅が高騰するシナリオ

 次に住宅の供給側の事情がある。この1年半、住宅デベロッパーはその計画の見直し、凍結、さらに役所の人材不足により開発申請のプロセスが大幅に遅延した。私も現在、バンクーバー近郊で開発申請をしている案件があるが、遅れはざっと1年ぐらいとなっている。つまり、現在、建築中の物件の工事は順調に進むが、着工予定の物件は大幅に数が絞られているため、シビアな供給不足が2〜3年後に到来する。エリアにより購入できる新規物件がない、という事態も想定している。

 現在自動車業界でも半導体が足りなくて新車が供給できず、代わりに中古自動車の価格が上昇している。アメリカでは今年既に35%も上がった。同様にカナダでも近い将来、中古住宅が高騰するシナリオが描ける。

物価の上昇

 三つ目に物価高による建設費の高騰がある。この1年、あらゆる物価は上昇している。また便乗値上げも逞しい。春にはウッドショックなどということも騒がれたが、ピークから木材の先物価格は6割ぐらい下げているが、それでもコロナ前の2倍近くの水準となっている。また役所が求める開発申請にかかる各種費用は増大し、コンドミニアムでは洒落たデザインと複雑な形状がより建設費を引き上げることになる。

 ところが不動産市場は概ね統計的表記となるため、建物の個別の価格表示は二次的な扱いとなる。Aという建物の価格が高ければ近隣のBもCも上がるという流れが強い。これは潜在需要が強いことがその背景にあるが、常に不動産を求める人たちが虎視眈々と物件を探していることを考えると結局、エリアで不動産価格の動静は決まると言ってよいだろう。

 他にも金利が安いということもあるし、大手デベロッパーは都市部においては買手が手を出しやすい1ミリオンドル以下の価格設定を目論むケースが多い。しかし、その場合、部屋のサイズが小さく、バンクーバー近郊では700〜800sfの2ベッドルームで70万ドルから90万ドルといった値付け戦略を取っている。

 あの手この手で不動産を買わせようとしているのだが、長期的にみて本当に大丈夫なのか、という疑問に日本、カナダで35年間不動産の仕事をしてきた者として「上がる」という以外に選択肢はないと申し上げたい。

 最も重要なことはカナダが世界でも最も人気のある住みたい国の一つだということ、政府が総人口の1%以上も移民を受け入れているということ、国民が不動産好きであること、居住用の不動産は税制上、いろいろなメリットがあること、不動産を持つことで社会的信用の尺度にすらなりえることなどなど枚挙にいとまがない。

 ちなみに私は日本でも不動産事業を行っているが、日本の不動産市場については専門的視野から対応しない限り不動産で儲かることは原則ない、と公言している。一時的に上昇することはあるが、人口減が顕著であり、移民国家ではないこと、住宅の償却が22〜40年と短く、中古住宅にローンがつかないといった制度上の問題を抱えており、一般の人がマンションや戸建てを買ってもその物件を死んだとき売却するという前提で考えると賃貸住宅と大きく差が出る状況にない。

 その点からすれば我々はカナダに住んでいるのだからそのアドバンテージは大いに生かすべきであろう。

 最後にコロナで郊外型住宅が売れている。トロントでは19年7月から20年7月の間に都市部人口が5万人減少する事態も生じている。しかし、私は一貫してその動きには異論を唱えている。人間は共生することを古代から当たり前としている。つまり、どれだけコロナで苦しんでも人々はまた集積する。これは人間の性だ。価格が安いからと言ってむやみに郊外に出るのは将来、売却のしにくさを含め、要注意だと申し上げておく。では、御幸運を祈る。