起業、してみますか?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

起業、してみますか?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 コロナで1年半、棒に振ったと思っている起業家の方は多いだろう。だが、いよいよそのトンネルの出口も近くなってきた。ビジネスを立ち上げる上で何に気をつけなくてはいけないのだろうか?私がアメリカとカナダにおいて30年で10種類ぐらいのビジネスを経営してきた中でそのツボを皆様とシェアしたい。

 私がバンクーバーに着任した1992年、ある日系の銀行に挨拶に行った。支店長が無知な私を諭すように「カナダの日系企業で黒字の会社はほとんどないんですよ。ほら」といって資料を見せてくれた。確か黒字は1〜2割ぐらいだった記憶がある。そしてこう続けた。「逆に言えばカナダで成功するビジネスなら世界のどこでも通用するともいえるんじゃないか」と。「ほう、そういう見方もあるな」と強い印象を持ったのを記憶している。

 だた、シビアなマーケットという銀行の支店長のいう統計的データについていろいろ考えてみた。日系企業は日本人スタッフを大量に投入した日本的アプローチで日本人や日本企業向けのビジネスが多いのではないか、と。あるいはバブル時期に仕込んだビジネスで高値掴みや風呂敷を広げ過ぎたのではないか、とも考えた。

 それを踏まえて当時の私の職務であった大規模住宅開発において肝に銘じたことは二つ。一つは販売先は日本人ではなくカナダ人である。もう一つは風呂敷は広げず、とことん費用を絞り込みローカル化することに徹した。結果としてはこの大前提は正しく機能した。私の15年に渡る不動産開発事業に於いて顧客の98%は非日系であった。

日本発の商売ネタが難しくなってきた2000年代

 90年代から2000年代初頭は日本がまだまだ崇められていた時代である。クールジャパンであり、世界の最先端を行っていた。第三世代の携帯電話、「Foma」が登場し、私はカナダ人に自慢しまくっていた。「どうだ、日本の技術は!」と。ところが時代はそこで急変する。アップルが第二世代の技術でiPhoneを発表したからだ。この辺りから日本の技術やマーケットシェアは暗転する。

 その後は皆さんがご存知の通りで、日本発の商売ネタがだんだん難しくなっている。カナダで起業する多くの日本人は日本の〇〇をカナダで売るというコンセプトが多いと思うがこれが万能ではなくなったのだ。冒頭、銀行の支店長が赤字の日系企業が多いと申し上げたが、このころからもっと悪いことにカナダで日本人起業家がガクッと減る。起業があっても大半は飲食系だ。つまり、日本の〇〇をカナダで売る商材は食材などにいよいよ絞り込まれたともいえる。

 では今日、日本の食材をテーマにした起業はどうであろうか?ラーメン屋は飽和しつつある上、ラーメン店を出店するにもバンクーバーなら50万ドルぐらいは用意する必要がある。そんな多額の資金を投じてレッドオーシャンのラーメン店に進出するのだろうか?

 バンクーバーで成功している飲食店を見ると初めに小さくスタートし、成功したら大きな店舗に拡大していくケースが目立つ。当地のとんかつ屋や韓国式ホットドッグ(ハットグ)は極めて小規模な店からスタートし、大行列で話題をさらっている。日系ではあの「ジャパドッグ」がかつて屋台一つでご夫婦がトイレも我慢しながらビジネスを始めたのは有名な話だ。

失敗しない起業とは

 アメリカのGAFAの経営者たちは新アイディアや新製品は70%ができたところでスタートさせる。理由はマーケットの反応を見るためだ。もしも期待に沿わず、話題にならなかったり多くの否定的コメントが来た時、それを反映し、残りの30%でうまく調整するようにしている。つまり昔風のいい方ならばマーケットテストをきちんと実行していると言える。

 失敗しない起業とはここにある。起業家は大いなる野心と自信を持っている。それは重要だ。しかし、過信という弱点があるのも事実だ。私は日本のあるビジネス系週刊誌を過去20数年、全ページ、一週間も欠かさず完読している。何故かと言えばそこにあらゆるビジネスのエッセンスがちりばめられており、失敗例が星の数ほど掲載されているからだ。そして私の記憶する限り、多くの失敗は「思い込み」に原因がある。

 成功するビジネスとは誰も評価できなかったビジネスだともいえる。何故なら誰もやっていないから評価しようがないともいえる。とすれば起業家はマーケットを読み、今の流行を追うのではなく、5年後、10年後の社会や消費動向を予想することが大事だ。

 2020年代は社会が劇変する時代となる。カーボンゼロが提唱され、自動車は電気化し、ユニセックス化はより進む。量子コンピューターで情報革命が起きる。IT化による消費者の購買方法は変わるし、今定着しつつあるフードデリバリーは更に変化するだろう。人々はリモートワークを取り込むが、人との接点も欠かせないため、遠隔地に住むことがトレンドになるかはまだ判断できない。それらを考え合わせながら起業ネタを実現化させていく、それが今後、起業をする最大のキーだ。

 最後に日本とカナダ、両方で事業を行う私が見るビジネス環境、どちらがやりやすいか、といえば一長一短だ。知恵があるならカナダ、そしてその後、アメリカに進出するのがベスト。これは無限のチャンスがある。一方、日本は入り口のハードルは異様に低いがその後、津波のように襲ってくる競合や価格競争に勝ち抜くのはたやすくない。個人的にはニッチビジネスの余地が大きいカナダはまだまだ発掘の余地があると考えている。

 皆さんの頑張りにエールを送りたい。