カナダで店を成功させたい!|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

カナダで店を成功させたい!|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 カナダでビジネスを28年もやっていて思うことはアメリカはいいな、日本はもっといいな、ということかもしれない。なぜかといえばそこには人がいるので消費してくれる可能性は高く、ビジネスがうまくいく確率は当然高くなるからだ。今回はこの秘密を解き明かしてみよう。

 秋葉原にオタク系の店が集まっているのはご存じだろう。「ああいうものを誰が買うのだろう」と思いきや、そこに行けばそれを求めて遠くから来た人がたくさんいる。仮に日本の人口1億2000万人のうちあるオタクグッズに興味を持つ層が1000人に一人いるとすればその潜在的な顧客になりそうな人口数は12万人に達する。東京ドームを2杯満席にする以上の数だ。

 オタクグッズが秋葉原にしかない、あるいは秋葉原の品ぞろえが全国で圧倒しているとすればあくまでも仮定の上だが、この12万人はみなアキバで買い物をするかネット注文するだろう。つまりアキバの商圏は日本全国であり、その市場占有率は100%ということになる。しかもファンだから購入する率は高い。これは極端な例なのだが、ビジネスが成功するかどうかはまず、このフェアシェアという考えを知ることが大事だ。

 例えばトロントのある一角にラーメン屋が5軒密集しているとする。このラーメン屋に来るであろう商圏のサイズをまず推測する。そしてその商圏にオフィスや大学など人が集まる施設があるかどうかも検証し、その円で描いた商圏の人口を数えるのだ。さて、ここからが問題だ。5軒のラーメン店すべてが価格も評価も同じだとしたら店のフェアシェアは20%となるからその商圏の人口でラーメンを食べる人の5人に一人が潜在的に顧客になると計算されるのだ。

 もちろん、この潜在顧客の数が多いに越したことはない。私が冒頭、アメリカや日本はいいな、といったのはこの数がカナダに比べて圧倒的に多いからだ。

 ところが世の中すべての店がティムホートンズではないので同じ商品を出しているわけではない。ここにラーメン店5軒の熾烈な戦いが行われるのだ。これを学問ではレッドオーシャンという。戦うので血の海ということだ。それぞれの店は様々な工夫するだろう。味を工夫するか、価格か、はたまた居酒屋風ラーメン店にするか、バーを兼ねたラーメン店にするか色々である。事実、バンクーバーでは多くの店がその工夫でしのぎを削っている。

 その際、商圏の人口特性を調べることも重要だ。例えば中国人が多いのならば何味が良いのか、彼らはスープより麺を重視するかもしれない。白人の女性が多いところなら健康志向かもしれない。ここに力を入れることにより潜在顧客の数を増やし、人気店になることで血の海から一抜けできるかもしれない。もちろん、商圏内のラーメンを食べたことがない非カスタマーにマーケティングすることも大事だ。

 私の顧客にスパがある。この店はご多分に漏れず割引クーポンを配りまくっている。その中でどのクーポンが効率的でどれだけリピーターが多いかはよく分析している。やみくもに割引券を配っても一回だけの客で終わってしまうのだ。クーポンによるリピーター率は1割とも2割とも言われる。骨が折れるセールス方法だが非カスタマーを取り込むには欠かせないツールだろう。

 次に考えなくていけないのは客は永遠ではない、ということである。私も長年バンクーバーでカフェを経営していたがいつも来るレギュラーさんが近所の違うカフェにいるのを見つけると寂しい思いをした。なぜ「浮気」されたか、いや、浮気だけならまだ帰ってくるが、「離婚」されたとすればそれなりの理由があるだろう。売り上げがいつの間にか下落しているということはよくあることでその理由は案外、経営側にあると見た方がよさそうだ。

 人は飽きっぽいと考えた方がいい。選択肢がある限りにおいてどうしてもその店に来なくてはいけない明白な理由はない。美味しいとSNSあたりで注目された店は顧客の離脱率が大変高くなるはずだ。一度は長い時間並んでも食べたいと思うが、二度目になるとそのモチベーションは異様に低くなる。これは心理学を勉強すると出てくる。私はこれを潜在顧客の剥離と称している。何度でも並んで食べたいと思わせる工夫は並大抵ではないということを肝に銘じるべきだろう。

 行列で有名な東京ディズニーランドは行列することに一種の美徳すら感じさせるものがある。これは別次元であって一般店では30分待ちとなれば違う店に行こう、という判断を下すだろう。よって飽きさせないために看板メニューがあればその次、また次…と作り続ける工夫も人気を維持する秘訣かもしれない。

 最後に価格だ。値付けほど難しいものはない。居酒屋に行くと本日のメニューとグランドメニューの二種類がある。概ね本日のメニューはグランドメニューより価格を盛っているものだ。だが、最近、価格を盛りすぎている店をよく見かける。客からすればこんな珍しいものがあると調子づいて「あれも、これも」と注文すれば精算するときは結構な金額となり、「あの店、高くない?」という印象が先行しやすい結果となる。つまり、価格戦略を間違えるとせっかくおいしいものを提供し、よいサービスをしても評価が落ちてしまうことになるのだ。

 飲食店の話を中心に展開したがどんなビジネスでも基本的にこの流れは当てはまる。人口の少ないカナダでビジネスをするにはどうしても知っておくべきハウツーではないかと老婆心ながら書き綴ってみた。カナダで数少ない日本人の経営者や起業家が効率的で上手な経営をして成功者をたくさん出してもらいたいと願っている。