第34回東京国際映画祭から 吉田恵輔監督作品を勝手にご紹介|トロントと日本を繋ぐ映画倶楽部【第30回】

第34回東京国際映画祭から 吉田恵輔監督作品を勝手にご紹介|トロントと日本を繋ぐ映画倶楽部【第30回】

 みなさま、今月号の吉田恵輔監督のインタビューは読んでいただけましたか。実は、また私がお話を伺ってきました。だって、日本で今年公開された邦画の中でベスト級に良かった『空白』や『BLUE/ブルー』を撮った吉田監督が、東京国際映画祭で特集されるって言うんですもん。

一体どうやったらあんな映画が作れるのか?あんな映画を作る監督はどんな人なのか?と気になりすぎて、直接お話を聞いてきました。その結果はインタビューを読んでもらうとして、それじゃ書き足りないから、またもや勝手に吉田監督の作品を紹介してしまおう、というのがこのコーナー。

 今年6月のトロント日本映画祭で『BLUE/ブルー』が上映されたので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。すごくなかったですか、あの映画。ちっとも勝てないのにボクシングを続ける主人公を筆頭に、あふれる才能を持ちながらも身体に異変をきたす親友や、二人にとってかけがえのない女性。

幾度となく非情な現実を目の当たりにして、それでもなお手放せないものや、くすぶり続ける思いがあって。なんて居心地の悪い現実を突きつけるのかと思っていたら、それを超えてさらに、観客をぶん殴るようにやってきたのが『空白』でした。

 スーパーで万引きを疑われて店長に追いかけられた少女が、トラックにはねられて無残に亡くなるところから『空白』は始まります。娘の無実を信じて疑わない父親は、死亡事故のきっかけを作った店長を執拗に責め、そんな激情型の父親に頭を下げることしかできない物静かな店長は、世間の冷たい視線も浴びて追い詰められていきます。そんな姿を見かねた正義感あふれるスーパーの同僚は、少々行き過ぎた世話を焼き始め……と、ひたすら居心地の悪い人間模様を見せつけられます。

でも、この苦しさの極みのような物語の中に、人と人との関わりを通して何気ない救いの瞬間が数えきれないほどあって、なんと濃密な映画を見せられたのかと思ったら、上映時間たったの107分。いやほんと、この魂がぶん殴られる感じ、トロントのみなさんにもぜひ味わってほしい。そんなわけで、誰に言えばいいのかわからないけど『空白』をトロントで上映してください(ついでに次の新作もぜひトロントで上映してください)、と声を大にして言っておきます。