長野県白馬村の今 スキーと温泉三昧|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』

子どもの頃家族でスキーに行ったのが私と山の始まりだった。高校時代は数学の教師がスロープをなめるように回転していたのに心を奪われた青春時代。夏には大雪渓を登らされ、もう二度とこんなところへくるものか、と呪った。これが白馬・五竜連山との出会いである。七年前の夏、カナダ生まれの娘を連れて白馬の八方池までトレッキングしたことがある。私は登山家ではないが世界中何処へいっても山が見えると心が躍る。青春のカケラだろうか。それに日本にいれば山と切り離せないのが温泉だ。とくに高年になった今は。

姫川から眺める白馬五竜スキー場
姫川から眺める白馬五竜スキー場
スロープから白馬村を見下ろす
スロープから白馬村を見下ろす

この春モントリオールから日本に来た娘からスキーの誘いがかかった。日本には500以上ものスキー場が有り、その数では2位の米国、3位のオーストリアをしのぐ。それほど多いスキー場のなかから迷うことなく白馬の八方尾根スキー場に決める。1998年の長野冬期オリンピック大会では世界中のアスリート達がこのスキー場で技を競った。今では高速バスが全国から何本も白馬八方バスターミナルに乗り入れる。日帰り客も増えた。仕事帰りに身ひとつで出かけてもスポーツウェア、スキーやスノーボーダー用品すべて現地でレンタルできる時代だ。

右:八方尾根スキー場のオリンピックロゴ 左:白馬岳登山道にあるおびなたの湯
右:八方尾根スキー場のオリンピックロゴ 左:白馬岳登山道にあるおびなたの湯

オーストラリア、ニュージーランド、香港、台湾など海外からの客が多いため、村全体としても外国語をはなせるスタッフを配置し翻訳されたパンフも目につく。団体客をスムーズに移動させるためシーズン中は母国から同胞受け入れに出稼ぎにくる海外の案内人さえ住むようになった。カナダ人もその中にいる。かれらはスポーツだけでなく世界に類のない日本の温泉文化も視野にいれているのだ。

ゲレンデよりも私はまず地図を広げ、めぼしい湯元に印をつける。白馬周辺の源泉は全部で5種類有り、そのうち温泉場として一番配湯が多いのが八方温泉。私達が泊まったホテルの温泉もそのうちの一つ。どれもアルカリ性の美人の湯で知られる。近年天然水素の溶存が確認された「おびなたの湯」は巨大な岩風呂として宣伝されているが大きいのは岩で脱衣場も露天風呂もかなり小さいので極少人数向き。木流川の上流、白馬岳登山口方面にあり、おじいさんが小さな小屋で切符を売っている。

天神の湯。左に五竜岳右に白馬岳
天神の湯。左に五竜岳右に白馬岳
白馬温泉倉下の湯 
白馬温泉倉下の湯 

昭和初期にできた風呂屋感覚の「倉下の湯」はバスターミナルから30分歩いた所にあり、年季の入った檜の大きな湯殿は貫禄。八方温泉の透明なお湯と違い茶褐色をしている。この炭酸水素温泉は本当に肌をツルンツルンにしてくれる。鏡を見なくても自分が美人になったことが分かる!ほどまた行きたくなるお湯だ。ちょっと離れているが比較的新しいシエラリゾートホテルの敷地にあるナトリウム炭酸水素塩温泉「古民家の湯」は江戸時代の建物を移転したもので黒々とした梁や柱に囲まれて時代の変遷を瞑想できる大人の湯。お帰りはホテルのシャトルでどうぞ、とオーストラリア人のイケメン受付君が「おもてなし」をご披露した。

帰りの新宿直通の発車時刻まで時間がたっぷりあったのでもう一軒行ってみる。白馬連山を背に駅の裏を歩くこと10分程で姫川の清らかな流れにでる。民家や畑がのどかな調和を保つこの佇まいが懐かしく鼻歌気分にさせる。来た道を振り返えれば商店街や電線に邪魔されずに北アルプスの雄大な山並が180度堪能できる。姫川沿いの高台に白色の白馬ハイランドホテルが立つが私達の向かったのはその中にあるナトリウム塩化物温泉の「天神の湯」。柵も塀もない露天風呂は浸かったままで目前にアルプスを一望でき、旅の終焉を飾るには最高の温泉だった。

オリンピック後の国際化と共に高速バスやJRでも手軽に行けるため、白馬は自然や温泉体験をしたい海外の友達にも紹介できる恰好の地だ。私達がアプレ・スキーで巡っていた温泉はどこも立寄りオーケーで入浴料は600〜1000円だが、一冊2000円の入浴利用券を買えばお得かも。営業時間が短いところもあるので要注意。