ファンタジア国際映画祭出品作品 『スペシャルアクターズ』上田慎一郎監督スペシャルインタビュー第二弾 〜ネタバレ編〜

『スペシャルアクターズ』日本版劇場公開ポスターと上田慎一郎監督。このポーズと水色ロングTシャツの意味するところは、映画を見てのお楽しみ。
『スペシャルアクターズ』日本版劇場公開ポスターと上田慎一郎監督。このポーズと水色ロングTシャツの意味するところは、映画を見てのお楽しみ。

 昨年の第32回東京国際映画祭の時期に上田慎一郎監督にインタビューを敢行し、その模様はTORJA誌1月号に掲載した。実はあのとき、映画『スペシャルアクターズ』について深掘りした大変興味深い話を聞いたものの、ネタバレなしには語れない内容だったため、泣く泣く掲載を見送った映画コラム担当のみえ記者。

 今回、ファンタジア国際映画祭で『スペシャルアクターズ』の上映が決定し、カナダ在住の皆さんにも映画をご覧いただけるようになったことを受け、ネタバレ編の秘蔵インタビューをついに発表!!映画本編のネタバレ満載の内容のため、映画をご覧になった後で読むことをおすすめする。

*以下、「上」: 上田監督、「み」: みえ/インタビュワー

映画『スペシャルアクターズ』の脚本や物語展開について

ー今回の物語展開は、『カメラを止めるな!』以上に二転三転する驚きの連続で、往年の名作『スティング』を思い起こさせる展開でした。脚本を書く段階で、物語展開について意識していたことはありますか?

:『スティング』はよく言われますね。『カメラを止めるな!』のときは、ゾンビ映画と、ものづくりのバックステージものという自分の好きなジャンルを詰め込んだ感じでした。今回も、スパイ映画とか『スティング』など詐欺師のコン・ゲームものとか、あとはヒーロー映画といった自分の「好き」を詰め込もうと思っていました。

:なるほど。ただ、今回は、あっ!と驚いた1回目の展開のあと、さらに2回目の展開があったということに、すごく驚きました。

:そうですね。そのへんは『カメラを止めるな!』があるので、やっぱりある程度は見る人に構えがあるということを想定していました。

:じゃあ、その期待を裏切らないように、あの展開にしたのでしょうか?

:期待を裏切らないようにというか、超えないといけないな、というのはありました。『スティング』を思わせるのってたぶん、刺したり撃ったりしたけど実は生きていて、実は敵だと思っていた人が味方だった、みたいなところですよね。撃たれたと思ったけど生きていたっていうのは、もう100万回繰り返されているような話法なんですよ。

 たぶん普通は、主人公たちがトラブルやピンチに陥るだろうというお客さんの映画の見方があるんですね。エンターテイメントとして。展開としてピンチに陥らないと面白くないじゃないですか。でもそのピンチだと思っていたものも計算の中に入っていたっていう話法というか。

 『スティング』って1回も計画がほつれてないんですよ。ほつれている部分、トラブルが起きているというそのほつれやトラブルもすべて計画の中に組み込まれているっていう…コン・ゲームものってそれが多いんですけど。だから『スティング』やスパイ映画といった自分の大好きな映画を見直すことはしましたね。ただそれは、プロットができてからですね。大枠ができてから、「あ、これはちょっと『スティング』が入っているかもしれないな」と思って見直した感じです。最初から入れようと思っていた感じではないです。

映画『スペシャルアクターズ』で扱う題材について

ー劇中、ムスビルという集団が登場しますが、演技を見せて解決するという物語なら、ねずみ講やオレオレ詐欺など、いろんなパターンが考えられると思います。その中で新興宗教を選んだ理由を教えてください。

:なんていうんですかね、怪しい、よくわからない、不可解なものへの恐怖というか、そういうカルト感が好きなんだと思います。コンビニに500円とかでちょっとしたオカルト本があるじゃないですか。都市伝説とか、芸能界の隠された裏話とか。なんかそういう、カルト話みたいなのが好きなんだと思いますね。

 ねずみ講やオレオレ詐欺というのは、カルトではないじゃないですか。明確に悪いことをしていて、わからないことはないですよね。基本的には、ねずみ講やオレオレ詐欺は、やっているほうに利益があって、誰も救ってはいないじゃないですか。新興宗教の場合は、そうではない。

 『スペシャルアクターズ』の彼らは、新興宗教を装った詐欺集団なんです。一応自分の中で線引きをしたのは、新興宗教ではないということです。彼ら教祖や幹部が、その信仰を信じていなくて、裏では酒や煙草をやっている、という。だから、はっきりと詐欺です。これが、自分たちの教えを信じているうえでやっていたら、咎めるのが難しくなってくるじゃないですか、詐欺かどうか。でも、はっきりと詐欺にしないといけないな、というのはありました。

 難しい問題になるのですが、新興宗教だと、スペシャルアクターズがつぶすことで信者にとって不幸せになるのではないかという問題が発生します。だから、まずは彼らが詐欺集団である、お金のためにやっているということをはっきりと見せる必要がありました。

 あとは感覚的にやっぱり、なんかこう、ガゼウスポッドみたいなものだったり、ムッスーってやっていたり、同じユニフォームを着ていたり、ビジュアルイメージが怪しい世界というか、そこに踏み入っていく感じが作りたかったんだと思います。

:今すごく納得しました。教団幹部が本当に新興宗教を信じている人たちだったら、倒すことが話として成り立たなくなる、勧善懲悪みたいにできなくなるという点が、なるほど、と。

:そうですね。ただ、彼らが詐欺師だったとしても、それを信じてムスビルの会員になっている人たちにとっては、幸せかもしれないじゃないですか。そこがすごく気になっていました。

 つまり、若女将の身を救出したとしても、ムスビルを信じていた若女将の心の救出ができたのかという問題が残ってしまう。相手がテロリストやヤクザだったら、身を救出するだけでめでたく終われます。

 でも、あの若女将にとっては、スペシャルアクターズが居場所をなくしてしまったんじゃないか、という思いが消えませんでした。だから、それらをすべて不問にするどんでん返しが必要だったんです。全員を救うには。新興宗教なんてなかったんだ、というどんでん返しが。

:いや、今お聞きしていて、すごいなと思いました。あの最後がなければ、主人公は気づかずに終わって、それこそ若女将は救われたんだろうかと思ってしまうところを、ひっくり返しているわけですよね。

:そうですね。信者の人たちにとっては、スペシャルアクターズがムスビルの裏側を暴いてしまったことによって、居場所がなくなる人もいるかもしれないじゃないですか。なんとなくわかっていたけど、わかっていて騙されていて、幸せな人もいたかもしれない。その人たちのことを考えると、あそこでは終われなかったんです。

:そこをチャラにするラストだったというわけですよね。誰も不幸にならない。

:そうですね、全員を救うためのウルトラCが必要だったというか。あの教祖やお父さんも救わなきゃいけないというのもありました。

:いや、すごいお話を聞かせてもらって、ありがとうございました。

●上田慎一郎監督プロフィール
 1984年生まれ、滋賀県出身。劇場長編デビュー作『カメラを止めるな!』が2018年に大きな話題となる。そのキャストを再度起用し完全リモートで製作した短編『カメラを止めるな!リモート大作戦!』が2020年5月にYouTube配信で公開され、再び注目を集めている。『スペシャルアクターズ』は2019年10月に日本公開された劇場長編第2作。