【数字で見る】ユネスコ公認 “芸術の街”アートいっぱいトロントの魅力 |春のイベント特集「五感を刺激できる場所、トロント。」

【数字で見る】ユネスコ公認 “芸術の街”アートいっぱいトロントの魅力 |春のイベント特集「五感を刺激できる場所、トロント。」

トロントの街を歩くと、いたるところにカラフルなウォールアートを見かけることがあるだろう。また、ロイヤル・オンタリオ博物館やAGOといったアート施設から、トロント国際映画祭やローカルのワークショップなどの機会まで、私たちの周りには実はアートに触れる素晴らしい環境がそろっていることに気づく。2017年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)により「メディア芸術の創造都市」に選ばれているトロント。世界的にも映画、音楽などの分野でのリーダーシップを評価されているのだ。そんなクリエイティブに富んだ街にどんなアートがあふれているのか、世界的に見てトロントのアート業界がどれだけ盛んなのかなどをまとめて見ていこう。

1. ザ・クリエイティブな街として世界5位

ビジネス名や店舗名作成サイトであるBNGが公表した「クリエイティブな世界の都市」ランキングで、トロントが5位にランクインした。このランキングは、「クリエイティブな仕事数」「クリエイティブ職の給与」「家賃を除く生活費」など複数の指標を数値化して作られたもの。ロンドンやパリといった世界的に芸術の街と呼ばれる都市に続いて、見事トロントがランクインした。1位はなんと東京。クリエイティブな仕事数が多いことやワークショップの数が多いこと、博物館や美術館の多さを評価されている。東京と比べるとトロントは劣る点が多数あるものの、他都市より比較的多くワークショップが開かれている点や一人暮らしにかかる生活費が安く抑えられる点は評価されていると言えるだろう。トロント近郊で開催されているワークショップは、例えば子どもを対象にしたスケッチ教室(The Art of Still life for Kids)や、アーティストたちの作品制作を対決方式にしたもの(Art Battle Toronto)、アーティストや職人の作品を実際に見て購入できるワークショップ(SPRING POP UP by Toronto Art Crawl)まで多様なものが展開されている。

2. 25万件以上のクリエイティブな職はオンタリオに

Statistics Canadaなどの2020年データによると、クリエイティブな仕事が多いカナダ国内の都市としてオンタリオ州がダントツの1位を記録している。具体的な数字を出すと、2020年はカナダ全体の42.5%を占める25万5000件近い職がオンタリオ州に存在していた。その中でも特にトロントに職が集中する傾向にあり、実際にトロントには他の都市より93%多くアーティストが住んでいるという調査結果もあるほどだ。2位は23.4%を占めるケベック州、3位は17.1%を占めるブリティッシュコロンビア州と続くが、国内にあるクリエイティブ職のほぼ半数近くがオンタリオに集まっているのは驚くべき事実だ。

3. 文化GDP50%はオンタリオ州

Statistics Canadaなどによる指標によると、2020年の文化分野におけるGDP総額は555億ドル。その中で特にオンタリオ州は他のどの州よりも文化的な側面でのGDP貢献率が高いとされていて、カナダ全体の文化GDPのうち約49%(270億ドル)を担っている。2位のケベック州ですら全体の20%を占めるにとどまり、オンタリオ州がいかに芸術的な面で盛んな地域かということがわかるだろう。また、オンタリオ州はカナダの文化的分野での雇用数が国内全体の43%に達しており、カナダにおける芸術的中心地であることはあきらかだ。コロナ禍以前の2010~2019年の10年間でオンタリオの文化GDPは30%以上増加したとされ、今後ますます文化的な側面での成長が期待される。

4. カナダで最も盛んなのは“映像産業”

美術系から出版、音楽までさまざまなカテゴリーのあるアート業界だが、カナダで最も盛んなのは何だろう。アート系の各仕事が全体のGDPに占める額を計算したStatistics Canadaなどのデータを見ると、「遺産と図書」「オーディオや視覚メディア」「創作や出版」「美術や応用アート」「サウンドレコーディング」「ライブパフォーマンス」の6分野に分けたとき、「オーディオや視覚メディア」が最も多く205億ドルもの規模を誇ることがわかった。このカテゴリーには映画や放送(ブロードキャスティング)が含まれている。カナダはアメリカの隣国であり、映像産業が盛んなことが一因とみられる。次いで美術や写真、デザインを含む「美術や応用アート」のカテゴリーが111億ドルで2位だった。

GDPではなく仕事数でみてみても、映画や映像系の職が合計約16万件と圧倒的に多く、それだけカナダ国内でのその分野の市場規模が大きく、カナダが誇れる分野でもあるということがわかる。

5. オンタリオ市民90%、プラスの芸術効果を信じる

Ontario Arts Council(OAC)が発表した最新レポートによると、オンタリオ州に住む人々がいかにアートと自分たちの生活を強く結びつけ、アートの大切さを実感しているかが読み取れる。約90%のオンタリオ市民たちが、芸術活動は生活の質を豊かにするのに貢献していると考えている。音楽やアートイベントに参加することで自分の幸福度が上がったり、子どもにとっては芸術教育を通して創造性を育むとても良い機会になったり、さらには多国籍文化であるカナダだからこそ、芸術に触れることが多様な背景を持つ人々とのコミュニティ形成にも役に立つなどの理由から、芸術に対して明るいイメージを持っている人が多いようだ。

さらに市民の88%は、芸術や文化的な活動がコミュニティーの経済的な繁栄にとって不可欠であると信じている。特にビジネスリーダーのうち半数以上の65%が、芸術分野が盛んになれば地域により優秀な人材が集まりやすくなると考えているようだ。これは、スキルのある人材は芸術嗜好がある傾向にあるということを考慮しての回答だろう。また、地域が芸術分野で明るくなるにつれてその土地の観光も潤うという事実もある。実際、オンタリオ州を芸術目的で訪れた観光客は、一般的な観光客よりも2倍の費用を消費し、長く滞在する傾向にあるとOACのレポートは明かしている。オンタリオ州にとって、芸術部門はかなり重要な要素となっているようだ。

6. 街のあちこちに数百ものアート作品

トロント市は、市内のどこにどんなアートがあるのかを詳しく示したマップを公開している。そのマップには410もの作品が紹介されているのだが、やはりダウンタウンに多く集中していることがわかる。ではどんな作品が多いのか。データを分析してみたところ、トロント市内にあるアート作品のうち、約4分の3が彫刻作品であることがわかった。彫刻といってもさまざまなものがあり、人の顔を形取ったものから自由に創造したものまで幅広い。特に有名なものとして、ネイサン・フィリップス・スクエアにあるチャーチル像や、ユニオン駅近くにある移民の家族像が挙げられる。

彫刻だけではなく、ウォールアートもトロントの魅力ポイントである。スパダイナアベニュー/クイーン・ストリート・ウェストの裏路地にあるグラフィティ・アレイ(Graffiti Alley)は、約1キロにわたってアメコミ風や海の中を描いたような”落書き”を見ることができる。またケンジントンマーケットでは、壁全体に大きなウォールアートが施されたものが並んでいて、1つのアートエリアになっている。いろんなアートを探して、トロント街を散策するのも楽しそうだ。

7. 国内文化産業に47億USD 世界トップの支援額


私たちの生活を一変させた新型コロナウイルスによるパンデミックだが、アートなど文化的な面で与えた影響も大きかった。展示会や公演などができなくなり危機的状況を迎えた芸術・文化産業に対し、各国は自国内での緊急救済策を展開。その各国の規模を比較してみると、カナダは47億USドルという世界3位の規模の大きな支援策をとっていたことがわかった(artnet newsによる)。例えば2020年、イベント中止などを受けて芸術団体の財政的負担を軽減するために助成金約6千万カナダドルを前倒しして提供。2021~2022年にかけてはカナダ音楽基金を通してライブ音楽分野をサポートするため5千万カナダドルを支援した。2022~2023年にかけても、芸術や文化分野の団体が収益を向上させるための支援として5千万カナダドルを追加投資すると発表された。

8. 世界5大映画祭にTIFF

毎年9月はトロント国際映画祭(TIFF)の季節。有名俳優や監督などがトロントを訪れ、多くの作品が上映されるのを楽しみにしている人も多いだろう。国際的な映画祭といえば、カンヌ国際映画祭(フランス)やベルリン国際映画祭(ドイツ)などが特に有名だが、実はTIFFも世界5大映画祭の1つである。ロサンゼルスの映画スタジオであるMACK SENNETT STUDIOSが公開した世界最大の映画祭ランキングで、TIFFは4位に堂々ランクインした。

1976年から始まったTIFFは毎年40万人以上が参加する北米最大の映画祭であり、映画関係者らもかなりの数が参加する最高映画祭として知られる。トロント国際映画祭の特徴としては、観客自身が最高賞である「観客賞」の作品を決めることができる点だ。観客賞を受賞した作品はアカデミー賞作品賞の有力候補となることが多いとされ、例えば2020年に観客賞を受賞した『ノマドランド』は、2021年のアカデミー賞作品賞を見事受賞。それほどTIFFが映画界に与える影響は大きいと言えるだろう。

9. 芸術にふれやすい国カナダ、博物館や美術館数で世界9位

現在、世界には9万以上の博物館・美術館があると言われている。国別にその数を見ていくと、なんとカナダは世界9位として挙げられている。メトロポリタン美術館やMoMAなどのあるアメリカが桁違いに多く世界1位、6000以上の施設を持つドイツが2位と名を連ねる中、意外にも日本はあの小さな土地に約5700もの博物館・美術館を持ち、世界的に見ても3番目に多い国として知られている。日本より土地の広いカナダだが、日本の半数以下である2112箇所しか博物館などの施設はない。しかし、世界で9番目に数が多いということは誇りを持てる事実だ。トロントにあるロイヤル・オンタリオ博物館やアートギャラリー・オブ・オンタリオ(AGO)といった大型施設だけではなく、小さなギャラリーや博物館も文化的に貴重な施設として数えられている。一方、カナダの博物館は訪問者数が少ないのは課題と言えるのかもしれない(世界トップ20以下)。とはいえ、街の至るところにアートが点在していたり、博物館が多く存在したりしていることは私たちカナダに暮らす人にとっては大きな魅力ポイントだろう。

10. 芸術系を学ぶならU of T堂々の世界9位

毎年世界の大学ランキングを公表しているU.S.Newsによると、「芸術&人文科学分野」の世界ランキングでトロント大学が9位に選ばれた。総合ランキングでも世界18位のトロント大学だが、芸術部門においても1位のオックスフォード大学(イギリス)、2位ハーバード大学(アメリカ)や3位ケンブリッジ大学(イギリス)といったアメリカとイギリスの超名門校と共に名を連ねた。トロント大学には、340以上のプログラムが用意されているカナダ最大の芸術科学部や、演奏だけでなく作曲なども学べる音楽学部などがある。それらのプログラムを通して「アジア系カナダ人研究」や「仏教学」といったユニークな専攻科目を学べる点も特徴的だと言えるだろう。さらには自分の作品を展示できるギャラリーや、学生が実際に公演に出演する「エリンデール・スタジオ・シアター」などのコミュニティーがあり、芸術をより実践的に学びたい学生にとっては貴重な学びと経験ができる魅力的な場になっているようだ。