【第16回】国際結婚と財産:自宅の権利は?|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

【第16回】国際結婚と財産:自宅の権利は?|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

 前回、オンタリオ州では、夫婦が別居する際には、婚姻財産を均等に分けることが法律で定められていることを紹介しました。また、夫婦が暮らした自宅は、常に婚姻財産と見なされ、夫婦が同等の権利を有することにも触れました。

 今回はこの自宅に対する配偶者の権利について、エキスパート弁護士ケン・ネイソンズにさらに詳しく聞いてみました。

婚姻住宅とは?

 婚姻住宅とは、夫婦が別居の直前まで暮らしていた住宅を指します。たいていの夫婦にとっては、婚姻住宅は自宅です。そして多くの場合、自宅は夫婦が所有するもっとも高額な財産でもあるでしょう。

 しかし、資産家の別居では、婚姻期間中に夫婦が一定の期間を過ごしていた別荘なども婚姻住宅とみなされることがあります。つまり婚姻住宅は一軒だけとは限らないのです。 

 国際結婚では、カナダの自宅に加え、日本にも住宅を購入し日本滞在中そこで過ごしていた場合などがそれにあたります。他にも、バケーションハウスやファームランドが婚姻住宅として認められる場合もあるでしょう。

婚姻住宅に住み続ける権利

 婚姻住宅には、別居後も夫婦双方が住み続ける権利があります。例えば、夫名義の家であっても、そこが婚姻住宅であれば妻が出て行かなければならない道理はありません。

 一方、出て行った配偶者にも、いつでも婚姻住宅に戻ることが許されています。別居中の配偶者に自由に自宅に出入りされるのは、快いものではないでしょう。しかしこれが、婚姻住宅に対する夫婦の権利なのです。

 

自宅は常に婚姻財産?

 それでは、夫婦の一方が結婚前から暮らしていた自宅で結婚生活を送っていた場合はどうでしょう。単独名義の自宅が、婚姻住宅となった場合を例に挙げてみましょう。

 長年一人暮らしだったAさんは、2019年1月1日にBさんと結婚し、Aさんの自宅で暮らし始めましたが、2021年1月1日に別居しました。別居時のAさんの資産は自宅と預貯金で、Bさんにはわずかな貯金があっただけです。

 Aさんの婚姻財産(ネット・ファミリー・プロパティ)は、2019年1月1日から2021年1月1日の間に蓄えられた預貯金2万ドルと婚姻住宅の別居時(2021年1月1日)の査定額98万ドルの計100万ドルです。一方Bさんの婚姻財産は2000ドルでした。

 AさんとBさんの婚姻財産の差額は99万8000ドルなので、別居に際し、Aさんは自宅を売却して、Bさんへ49万9000ドル支払いました。こうして50万1000ドルがそれぞれの手元に残りました。これをイコーライゼーションと呼びます。

 結婚前に取得した財産は、基本、婚姻財産から除かれます。不動産の場合、その上昇分のみが婚姻財産とされますが、自宅などの婚姻住宅だけは例外で、その全額が婚姻財産となります。

 法律とは、物事に普遍性を与えるためのルールで、すべてのケースに公平であることを目指しているわけではありません。ですからAさんのように、たった2年の短い結婚生活の末、自宅を手放すという残念な状況に追いやられてしまう可能性もあるのです。

 このような結果を避けるため、マリッジ・コントラクトが存在します。夫婦それぞれの経済的背景を反映した財産の行方を定めておくことは、ある意味、より公平であるとも言えるでしょう。

 それぞれが、相手の立場を理解できる同意書を作成することは、二人の将来にとって大変有意義です。それにはまず、自分の法的権利を十分に理解することが先決です。夫婦双方が納得できるマリッジ・コントラクトの作成は、経験豊かなエキスパート弁護士にご相談ください。

(注:文中のシナリオは、婚姻住宅をわかりやすく説明するための例です。実際の別居時には、他にも様々な要素が介入しますので、このようなシンプルな計算は当てはまらないことをご理解ください)

ケン・ネイソンズ: B.C.L, LL.B, LL.M(Family Law)

 日本人の国際離婚を多く手掛ける。ていねいに話を聞く姿勢は 移住者女性に好評。ネイソンズ・シーガルLLP設立パートナー。趣味はモデルカー収集。

野口洋美: B.A. M.A.

 ヨーク大学で国際離婚とハーグ条約に関する研究に携わる。国際結婚に関する執筆多数。ネイソンズ・シーガルLLP所属。趣味は日本語ドラマ鑑賞。