トロントの本屋さん「読書・アートと食テロ漫画」|特集「秋の夜長に」

トロントの本屋さん「読書・アートと食テロ漫画」|特集「秋の夜長に」

 今月の「トロントの本屋さん」もバンクーバーから岩崎ゆかりがお送り致します。今月のテーマは「秋の夜長に読書」ということで、拡大バージョンでお送り致します!

夜長にアート

 こちらバンクーバーでは「Imagine Van Gogh」、トロントでは「Immersive Van Gogh」が開催中です。壁と床一面に広がるゴッホの絵画に囲まれてまるで絵の中に入り込んだような新感覚の展覧会となっています。
 

『たゆたえども沈まず』

原田マハ著(幻冬舎)

を読んでもっとゴッホに近づいてみませんか?

 19世紀末、パリで日本の浮世絵や工芸品を扱う画商・林忠正とその後輩で専務を務める加納重吉が、当時正統派と称されるサロン入選画家を扱う画商に務めるゴッホの弟・テオと出会い物語は進んでいきます。耳をゴッホ自身が切った話は有名ですが、その行為に駆り立てられた背景や、生前に評価を得られなかった当時の画壇の流行を知ることが出来ます。

『雲を紡ぐ』

伊吹有喜著著(文藝春秋)

 羊毛を手仕事で洗い、染め、紡ぎ、織る、世代をつなぐ布、「ホームスパン」をめぐる家族の物語です。母と母方の祖母の「女」の理想を押し付けた教育に息苦しさを感じていた高校生の美緒は、いじめが原因で学校に行けなくなります。さらに居心地が悪くなった家の中で唯一の心の救いは父方の祖父母がくれた赤いホームスパンのショールでした。このショールを母に隠されてしまい、美緒は祖父の住む岩手県盛岡市へと家出をしてしまいます。ホームスパンの職人であった祖父と跡を継いだ美緒の叔母から工法を教わるうちに、自分の将来のこと、家族のモヤモヤがほぐれていく…。

 文豪と言われる作家の著書を読んでみたいけれど、難しそうでどこから始めて良いのか分からない。そんな方におススメなのが、

『文豪の凄い語彙力』

山口謠司著(新潮社)

です。文豪が作中に使った言葉の意味の解説に、漢字の成り立ちや展開の仕方と文豪の略歴の3つで節が構成されています。琴線に触れた言葉を辿って、お気に入り作家を開拓してみてはいかがでしょうか?

 日本固有の演劇で伝統芸能のひとつでもある歌舞伎。歌舞伎役者のドラマ出演・お正月の特番やユーチューブなどでなんとなく知っているけれど、良くわからないからと観劇に躊躇していませんか?

『歌舞伎の101演目 解剖図鑑』

辻和子著(エクスナレッジ)

を読んで、コロナ後に日本への一時帰国が叶った際のMust Doリスト入り間違いなし!イラストを交えて、化粧・衣装に、舞台から屋号の解説まで、そして物語のあらすじも載っています。

 芸術家として食べていけるのは一握りの人間だけだ、とよく聞きますよね。その概念を覆したといっても過言ではない

『芸術起業論』

村上隆著(幻冬舎)

を読んで、芸術をどうビジネスに展開できたのか、アーティストの発掘、育成、世界に認められた戦略の構築など、村上氏の論理と思考が盛りだくさんな1冊です。

夜長にピッタリな食テロ漫画

 仕事は出来る、でも派遣だから正社員からは疎まれ他の派遣からは煙たがれストレスにイライラMAXの剣崎七菜が憂さ晴らしの一杯を求めて迷いこんだ居酒屋「白熊」は閑古鳥が鳴いていた。出てくる料理は美味しいのに、何かが足りない。偶然居合わせた写真家・芦刈鉄雄と店主に請われてお店のアドバイザーに就任します。クラフトビール専門店に方向転換することに。実在するクラフトビールが漫画に登場します。出てくる食事とビールのマリアージュに酔いましょう!

『琥珀の夢で酔いましょう』

村野真朱・依田温著、杉村啓監修(既刊4巻、マックガーデン)

 ドラマが深夜枠で放送され、11月3日に映画が公開される原作漫画、

『きのう何食べた?』

よしながふみ著(既刊18巻、講談社)

 弁護士の史郎さんと美容師の賢二の同棲カップルの食生活が主となっています。節約家の史郎さんはお値打ち食材を買い求め、毎晩数点のおかずを作って賢二と食べるのが何よりの幸せです。クリスマスやお正月などのイベントや誕生日には、お料理も豪勢に、カロリー過多もOKです。調理シーンもふんだんで、置き換え食材やアレンジ方法が掲載されています。

『作りたい女と食べたい女』

ゆざきさかおみ著(既刊1巻、KADOKAWA)

 料理好きな野本さんは、たくさん作りたいけれど実は小食。そして、職場でのストレスに比例して作りすぎてしまう癖があるようで。自棄調理してしまった日に、お隣のお隣に住む春日さんが食べるのが大好きなことを思い出し、思い切って誘ってみると…。大切な人と一緒に食べるといつもの何倍にも料理が美味しく感じますよね。

 こちらは、漫画のみならず小説でも最近注目のシスターフッドを題材にしている作品となっています。(シスターフッド=姉妹。また、姉妹のような間柄。《goo辞書》)

『広告会社、男子寮のおかずくん』

オトクニ著(全7巻、リブレ)

 中規模の広告代理店で働く4人はいつも大忙し、毎日クタクタ。でも週末前の金曜はソワソワと夜が待ちきれないのは、持ち寄りのご飯会があるから。おかず担当の西尾和、汁物担当の東良啓介、ごはん担当の北一平、箸休め担当の南郷正がそれぞれの強みを生かした美味しくてボリューム満点な料理が出てきます。仕事の悩みも食を囲みながら相談することで解決し、良いアイデアが浮びそうですね!

『午後3時 雨宮教授のお茶の時間』

鷹野久著(既刊3巻、新潮社)

 私立青葉学院大学でイギリス文学を教える雨宮教授は英文学とお菓子をこよなく愛し、午後3時のおやつをとても大切にしています。物語に登場するお菓子を、姪のサヤに教わりながら作るのも大好きなようです。子供の頃に読んだ懐かしい『ナルニア国物語』から最近の『ハリー・ポッター』までたくさんの物語とお菓子に出会えます。紅茶をお供におやつの時間です!

 秋の夜長を熱くて深みある紅茶と読み応えある本に囲まれる幸せ、忘れかけていたあのゆったりとした気持ちよ、もう一度、です。スマホを枕の下に隠して自分だけの贅沢なひと時を楽しみたいですね。では、また次号でお会いしましょう。