【第9回】ハーグ条約を知ろう 1 トラベルコンセントと公正証書|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

【第9回】ハーグ条約を知ろう 1 トラベルコンセントと公正証書|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

 国際結婚ならずともカナダで暮らす母親たちの間では、日本などへ母子で旅行する時には父親のトラベルコンセント(渡航同意書)を入手することが一般的になってきました。もちろん父子が国外に出る時にも母親のトラベルコンセントが必要です。

 今年4月、エキスパート弁護士、ケン・ネイソンズの「ハーグ条約と夏休み」についてのお話を掲載しました。次はその抜粋です。

「片方の親が子どもと一緒に国境を超える場合には、同行しない親から子の海外旅行を許可する手紙をもらう必要があります。ハーグ条約でおなじみの親による子の誘拐の取締りが厳重になった昨今、このもう一方の親の許可は、ますます大切になってきました」   

 そこで親による子の誘拐を疑われないために必ず携行したいトラベルコンセントについてさらに詳しく聞いてみました。

別居家庭とトラベルコンセント

 トラベルコンセントとは本来、父母が子供の海外旅行を許可する文書です。しかし、ここで取り上げるのは、別居家庭での親子旅行に対する他方の親からの渡航許可です。

 「夏休みに子供との一時帰国を予定していたのに、子供の父親の許可が得られず断念した」というトラブルは、めずらしいものではありません。
 父親が子の渡航を許可しない理由として頻繁に挙げられるのが、そのまま戻ってこないかもしれないという懸念、つまりフライトリスクです。
 このフライトリスクという概念は、ハーグ条約の浸透と共にすっかり定着したようですが、ほんとうにそうなのでしょうか。

ハーグ条約の浸透?

 
 ハーグ条約が日本でも施行されてから6回目の秋を迎えました。しかし、日本国内では、国際結婚に興味を抱く女性にさえ「ハーグ条約」を知らない人がいるようです。さらにワーキングホリデーなどでカナダを訪れる女性も、ハーグ条約と自分の未来を結びつけることは少ないと聞きます。

 ハーグ条約では、子の連れ去りが発生したときに父母と子が生活していた国をその子にとっての常居住国だとみなします。「子の親権や面会交流などについては、子を常居住国に戻し、その国の法律に沿って手続きを進めよう」というのがハーグ条約の概要です。

 日本がハーグ条約を批准する前は「日本がハーグ条約を批准すれば、カナダの父親たちもフライトリスクを恐れることなくトラベルコンセントを出すようになるだろう」という声も聞かれました。しかし、実際にはトラベルコンセントについての理解はあまり深まっていないようです。

トラベルコンセントの内容

 トラベルコンセントで大切なことは、誰が誰にどんな許可を与えるのかを具体的にすることです。
 まず、渡航許可を与える子の名前と生年月日、パスポート番号、カナダ生まれの子の場合には出生証明書番号など、子供の情報を最初に書きます。
 もし子供に同行者がいる場合は、同行者と子の関係や同行者のパスポート情報を加えます。滞在先で使用できる携帯番号やEメールアドレスも記載しておくといいでしょう。

 また出発日と帰国日を明確にしなければなりません。さらに渡航中の滞在先の住所や電話番号などの詳細が必要です。家族旅行などでいくつかの場所を訪れるなら、その旅程や宿泊先の住所と電話番号も記載します。

 例えば、子供が母親と日本を訪れる場合は、父親は、「我が子が母親と一緒にX月X日からX月X日まで日本の母親の実家に滞在することを許可する」という手紙を書くことになります。しかし、母親(旅行する側)がこれらの情報を記載した文書を準備し、父親がこれに署名するのが一般的です。

トラベルコンセントは必ず公正証書に

 トラベルコンセントを公正証書にすることで、その同意書を法的に認められた正式な書類にすることができます。公正証書は最寄りの法律事務所で作成してくれますが、公正証書を専門に扱う業者もあります。

 このとき気をつけたいのは、コンセントへの署名は公証人の目前で行わなければならないということです。運転免許証などIDも必要です。最後に公証人の正式印を押してもらえばそれで公正証書の完成です。

 この手続きが省かれた同意書は、ハーグ条約に関連した問題が発生した場合、その法的有効性を問われることになります。

【ハーグ条約や渡航同意書に関する過去のTORJA記事】
ハーグ条約と夏休み:https://vanja.jp/choosing-lawyer-04/
ハーグ条約のおさらい:https://vanja.jp/marry-abroad-17/

ケン・ネイソンズ: B.C.L, LL.B, LL.M(Family Law)

 日本人の国際離婚を多く手掛ける。ていねいに話を聞く姿勢は 移住者女性に好評。ネイソンズ・シーガルLLP設立パートナー。趣味はモデルカー収集。

野口洋美: B.A. M.A.

 ヨーク大学で国際離婚とハーグ条約に関する研究に携わる。国際結婚に関する執筆多数。ネイソンズ・シーガルLLP所属。趣味は日本語ドラマ鑑賞。