不動産所有はやっぱり王道か?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 昨年からの金利上昇で不動産ローンを抱えている人には厳しい状況となっているかもしれない。払えなくて手放す人も出てくる可能性も指摘され、その上、景気後退の波が打ち寄せてきたらひとたまりもない。不動産はやっぱり魔物か、それとも我慢して所有し続けるのが王道か、少し考えてみよう。

 あらかじめ、お断りしておくが、私はカナダのリアルターではない。バンクーバーと東京で35年間、不動産開発事業と運営事業をやっている身であり、リアルターやモーゲージブローカーとは違う目線で不動産を見続けている。よって私の意見はあくまでも一面を捉えたものとして受け止めて欲しい。

 全部読むのは面倒くさいと思う方に究極の私の主張を一言をお伝えする。それは不動産所有はやっぱり王道だ!と。

 なぜそうなのか、簡単に説明しよう。

カナダは人口が増えている

からだ。2025年には年間50万人もの新規移民を受け入れようと計画されている。これは人口の1.5%近くにもなる。毎年これだけの人が移民すれば当然、所有、賃貸に関わらず住宅の需要が生まれるが、新移民層の需要だけで年間約10万戸は必要になる。

 では建築会社がカナダ全体でどれだけの住宅を建築しているのかといえば年間約20万戸だ。それでも建築会社は追いつかないほどの建築需要とされているが、今後、移民がさらに増えてくれば建築会社も許認可を発する市町村の業務も追いつかなくなるのは目に見えている。

 実際、昨年秋に当選したバンクーバー市の新しい市長は公約の一つが許認可プロセスの迅速化だ。ちなみに私がバンクーバー郊外で現在建築中の高齢者向けグループホームの許認可取得には議会に4回かかり、合計2年半かかった。日本なら1、2カ月だろう。

 当然ながら開発側から見る建築費や設計費、ソフトコスト、金利はうなぎのぼりになる。また、最近、当局は環境問題や安全対策を重視するため建築に余計なコストがかかるようになっている。許認可申請費用の値上がりも甚大だ。当局の都市計画部隊は一流の設計家が設計し、街の中をあたかも美術館か博物館となるような美しい街並みを目指そうとする。都市計画担当者は芸術品にこだわるのだ!

 その結果、最終消費者である住宅購入者は否が応でも高い建築費や許認可申請費を払うことになる。さらに、最近は3D型高層住宅やねじれた形状など、奇をてらった建物も建築されるが雨もりや水道管の水漏れが起きやすく、それにかかる保険料は垂直上昇している。つまり、値上がりは全ての社会的要請と諸条件に於いて避けられない事態なのである。

最近の住宅価格の下落をどう捉えるか

 一方、昨年からカナダで住宅に対する価格の下落に対する懸念が広まっているが、これをどう捉えるかだ。トロントの場合、2022年に平均価格133万ドルをつけ、その後、下落基調に入り、現在は105万ドルあたりになっているかと思われる。ピークからは21%下回っている。これを不動産価格の逆回転と捉えるのか、といえば否だと考えている。

 カナダの不動産は長期右肩上がりで何ら揺らいでいない。但し、トロントはバンクーバーに比べて価格のボラティリティが高い。何故かといえばトロントの方が勤め人が多く、住宅ローンを借りるウエイトが大きいからだ。バンクーバーは金持ちの移民がローンを要しないで購入するケースが多い。私がバンクーバーで開発した物件では550戸ぐらいを売主として引き渡したが、住宅ローン付保者は3割程度であと多くは現金一括だ。

 不動産価格が長期右肩上がりの場合、15〜20%の「価格の揺れ」は調整の範囲でしかない。理由は不動産は株式取引と違い、売り買いのサイクルが長いからだ。株価が日々数%ブレてもそれで下落とは言わないのと同じだ。つまり、不動産に於いては2割ぐらいの価格の揺れは「ゆらぎ」であって下落とは言わない。またカナダのモーゲージのシステムは盤石であり、金融不安も起きにくい。

今、不動産は買い時か?

 では今、不動産は買い時か、と聞かれたらケースバイケースだ。例えば今すぐ住むために中古の住宅を現金一括で買うなら買い手市場なのでよい交渉ができるであろう。また3年先に完成するコンドミニアムの頭金を現金で預けるならこれも悪いとは思わない。なぜなら3年後に今の金利水準が維持されているとは現時点では想像できないからだ。

 但し、今、住宅ローンを組んで今住む住宅を買うのはよく検討した方がいい。理由は住宅ローン金利だ。物件は安く買えるかもしれないが、ローン金利がキャッシュフローを悪化させる。ここはお財布や将来プランをじっくり考えてアプローチした方がいいだろう。

 個人的には需要と供給の問題、特に供給側に立つ者として建築のクオリティが下がってきており、その補正コストが今後、膨大になるとみている。平たく言えば「下手料」だ。これが積みあがるはずなので残念ながら建物のコストは上がるから住宅価格は上昇せざるを得ない、というのが答えだ。

 最後に、皆さまへの知恵であるが、建物の形状が複雑なデザインは水のトラブルが起きやすいことは要注意だ。個人的には木造のタウンハウスないし、低層コンドミニアムが価格的にも入門者向きではないかと考えている。良い物件に出会えることを祈る!