カナダ国民・ 在住者が直面する6つの課題|特集「カナダ移住で知った生活デメリット」

カナダ国民・ 在住者が直面する6つの課題|特集「カナダ移住で知った生活デメリット」

課題5 移民増加で心配されるその影響

96万件近くの求人している職があるが、同時に100万人ほどの無職の人がいる

現在カナダが移民政策で力を入れているのは医療従事者と「Skilled Trades」と言われる建設、メンテナンス関連、電気、農業、林業、シェフなど移民局が指定している職種の人材確保。現在国内には96万件近く求人している職があるが、同時に100万人ほど無職の人がいるという。

無職の人の多くは移民局が希望する「スキル」を持っていない、または求人しているエリアに住んでいないことが原因でポジションが埋められていないという。この先、国は地方活性化プログラムを通じて技能を持った移民を必要とされているエリアに住まわせる予定だという。

カナダは難民受け入れにも積極的に取り組んでおり、毎年発表される新規の永住権保持者の統計と一緒に数えられている。2022年、国はおよそ5万5000人から7万9500人の難民を受け入れることを目標にしていた。今年2月上旬にはカナダ政府がウイグル自治区からの難民を1万人受け入れることが満場一致で可決された。これから増える移民の意思を尊重しながらも国のニーズに合わせてもらわねばいけないことが課題になるだろう。

住宅価格高騰・就職競争激化・公共交通機関の混雑・空気汚染・ゴミ問題

昨年末、カナダ政府は2025年までに移民を年間50万人受け入れる方針を発表。今年から3年間で150万人もの移民が増える予定だ。この方針ではお隣のアメリカと比べて年間受け入れ数が4倍にもなる。近年カナダは日本のように少子高齢化に直面しており、移民を増やすことで人口減少に歯止めをかける考えだ。政治の専門家によると、移民受け入れ政策が成功するために最も大事なのは国民の支持だという。歴史的に見るとカナダ国民は長い間移民増加を祝福してきた。だが最近ではあいにくカナダ全土がこの変化を望んでいるわけではない。

ケベック州知事は移民を年間5万人以上は受け入れないと発表

ケベック州のフランソワ・ルゴー州知事は移民受け入れに対して厳しい目を向けており、州に移民を年間5万人以上は受け入れないと発表。昨年5月に州でのフランス語の使用強化法案が可決され、英語使用が制限されるようになった。移民は入国後6ヶ月以内であれば英語で公共サービスを受けられるが、その期間の間にフランス語を習得せねばコミュニケーションに困る事態になっている。悲しいことにルゴー州首相は移民の苦労を気には留めておらず、5万人以上移民人口が増えた場合公用語のフランス語が危機にさらされるということ信念だけを貫き通している。

人口増加で引き起こされるのはケベック州が心配する文化的な変化だけでない。主要都市のトロントやバンクーバーでは住宅価格高騰もすでに大きな問題になっている。職を探す人も増え、競争率が高まっている。この先電車やバス、空港も混み合うことが予測される。環境面から考えても車を使う人やゴミを出す人が増え、空気汚染や街の衛生面などが心配されるだろう。これら全ての注意点に国や州がどう対応するかが気になるところだ。

ペット数の上昇

ペット数が上昇していることもこれからの注目点だ。2022年のCanadian Animal Health Instituteの調査によると、パンデミック中にペットを買う人が増え、今では国の60%が少なくても犬か猫を一匹飼っているという。2020年から2022年の間、犬の数は770万匹から 790万匹に上り、同じく猫の数も 810万匹から 850万匹に上った。癒されたいと思ってペットを飼うのは万国共通だが、犬の糞の始末などしない人が増えると街が衛生的になる可能性も否定できない。そして始末をしていても、エチケット袋やオムツ、使い捨て防水シーツなどプラスチックゴミが増える。ペットフレンドリーなカナダだからこそ、環境問題は人間だけの問題ではないのだ。

課題6 ひっ迫する医療

オンタリオ州ではおよそ180万人がかかりつけ医(Family Doctor)を持てていない

カナダの医療現場では現在深刻な変化が起きている。現在オンタリオ州ではおよそ180万人がかかりつけ医を持っていないと推定されている。この問題はオンタリオ州で勤めていたファミリー・ドクターのおよそ3%(385人)がパンデミックの始まり(2020年の3月から9月の間)に退職したことが引き金になったと言われている。2010年から2019年で辞めた割合はわずか1.6%で、コロナ禍の半分だった。

かかりつけ医の高齢化。6人に1人が65歳以上

昨年12月の「The Globe and Mail」の記事によると、カナダではかかりつけ医の平均年齢が上っており、6人に1人が65歳以上で定年退職が近い年齢だという。過去20年で40歳から49歳のファミリー・ドクターの人口が34%から22・6%へと減っている中、65歳以上のドクター人口は6.5%から15%へと倍増している。

特にニュー・ブランズウィック州とケベック州で医者の高齢化が進んでいる。後を継いでくれる若い医者がおらず、定年退職できずにいる医者が増える一方だ。医者の人口が激減し始めたのは1992年にもさかのぼる。カナダ全土で医療に使われる出費を抑えるため医学部への合格生を10%減らしたため、それ以来、医科大学の入学生、卒業生とともに卒業後の研修に入る人数も大幅に減少した。

かかりつけ医がいない場合一番困るのは専門家への紹介だ。そんな時に便利なのがWalk-in Clinic。基本的に予約なしで順番を待てば診てもらえるが、コロナ禍のせいで数日前から予約を入れておかないと行けないクリニックもある。Walk-in Clinicで紹介状をもらうこともできるが、婦人科など一年以上の予約待ちが存在する専門もある。かかりつけ医がおらず定期的な検査が受けられずにいると病気にかかった場合救急救命室にいく羽目になったり、入院する確率も高くなったりする。それ以前にも、Walk-in Clinicではどの医者に当たるか分からないので自分の病歴を何度も繰り返し伝える必要があることもしばしば。コロナが広まってからバーチャルケア(電話やビデオ電話を通じて医者に診てもらえるシステム)が広まった。ファミリー・ドクターが急に減った溝を埋めるように増えていったが、医者は心拍や血圧も見ることなく、ほぼ目隠しで医療に携わっている。それでも交通費が浮くので便利、と思う人もいれば物足りないと感じる人もおり意見は分かれている。

カナダの医療で不足しているのはファミリー・ドクターに限らない。
病院やクリニックの様々な場面で人手が足りておらず、それが人の命を救えるかどうかに影響している

昨年12月、ノバスコシア州では37歳の女性が腹痛を訴えER(救急救命室)を訪れた際、CTスキャンで体内出血が見つかったにも関わらず処置が施されず死亡するケースがあった。

それから間もなく今年1月、ノバスコシア州の別の病院で67歳の女性が救急救命室を訪れたところ、7時間も待たされたのち翌日の朝まで医者に診てもらえないと言われ、諦めて帰宅した直後に死亡した。

そのERでは本来は60人の医療スタッフがいるはずなのだが、最近では15から17人しかいない状況が続いているという。

医療従事者の移民増加で解決できる問題ならまだしも、移民が増えれば患者も増える。これではさらにファミリー・ドクターも必要になってくる。この先、持続可能な医療現場を築くには課題が山積みだ。

【おわりに】日本で県外に越すと方言や風習など文化的な違いを感じることは多いかもしれないが、カナダのようにここまで人々の暮らしが劇的に違うことはあまりないのでは?カナダをもっと深く知ったところで「別に住みにくいとは思わない」と思う読者も「意外」という読者もいると筆者は想像する。どちらの感想にせよ、この記事が読者自ら経験している「日本から離れた生活」そして「カナダ生活」を振り返る機会になれば嬉しい。

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