カナダ初 「世界を股に掛ける表現者と“10歳の女の子”の歩み」人形使いとして参加した世界で芸術活動を続ける 逢坂 由佳梨さん|Luminato Festival 2023 Walk with Amalプロジェクト

カナダ初 「世界を股に掛ける表現者と“10歳の女の子”の歩み」人形使いとして参加した世界で芸術活動を続ける 逢坂 由佳梨さん|Luminato Festival 2023 Walk with Amalプロジェクト

神戸とニューヨークを拠点に国際的に舞台芸術活動を続ける逢坂由佳梨(おおさか ゆかり)さん。今回トロントで開催されたLuminato Festival 2023の中のWalk with Amalプロジェクトに唯一の日本人として参加。Amal(アマール)はシリア難民の10歳の女の子。母親を探して世界中を旅している約3.6mのパペットだ。2021年7月以降、これまでに13カ国以上を訪ねておりカナダへの訪問は今回が初めて。プロジェクトについてのお話から逢坂さん自身のこれまでの経験、今後の展望までお話を伺った。

アマールの気持ちをチームで表現していく

All Photos : Little Amal in Toronto – ©Luminato Festival, The Walk Productions.
Photography by Taku Kumabe

ー体を動かす人とそれぞれの腕を動かす人、合計3人でアマールを動かしていますよね。どのように連携を取っているのでしょうか。

真ん中の人が基本的には中心となって動いていますが、外からアーティスティックディレクターがインカムを使って指示を出してくれることもあります。例えば「こっちにお子さんがいるからハグしに行こう」など。また、誰か一人が気づいたものに他の二人が反応して動くこともあります。腕を持っていった先に木があったらそちらに行って少しもたれかかってみたりとか。いかに周囲のものに気付いて臨機応変に対応できるかです。

今回のトロントツアーで、私は主に腕を担当しています。真ん中の人がこう行きたいと思ったところにうまく寄り添って、なおかつ10歳の女の子であるアマールらしさを表現することを心がけています。可動域が限られているのと、6㎏くらいあって重いのが大変な部分ですね。体力が必要な肉体労働です。

ー動かす人が変わっても、アマールのキャラクターが変わることはないですよね?

人による違いはありません。ただ同じ劇を繰り返している訳ではなく状況によって彼女の気持ちも変化するはずなので、それを表現するようにしています。例えば、夜遅ければ「ちょっと疲れてるかな?」とか、誰もいない砂浜だったら「故郷を思い出して寂しいかな?」とか、明るい音楽とたくさんの子どもたちがいたら「アマールも楽しくなってるかな?」とか。このように想像してチーム一丸となって表現しています。

ー普段言語化していないことを論理的に考えてみるということ?

それもありますが、アマールはシリア難民の女の子だからヘリコプターの音を聞いて不安に思ったり、ちょっとした物音にすごくびっくりして反応しちゃったり、そんなこともあるよねということです。

一つの目標に向け、国籍を超えて進む

ー芸術監督はパレスチナ出身、パペット監督は台湾出身、プロダクションはイギリスと多国籍な環境の中でのコミュニケーションの取り方を教えてください。

私自身、実はコミュニケーションを取るのが得意ではないんです。ただ、アマールを一つの目的地に向かって動かしているからこそ違う国籍でもコミュニケーションが取りやすいかなと思います。スタート地点からゴール地点まで足元が悪かったり小さい子が来たりと何が起きるかわからない中で、それらを乗り越えるという現実的な目標に向かって日々一緒に取り組んでいます。

ー日々活動をされる中で、文化の違いを感じることはありますか。

ありますね。日本はたくさん自然災害が起きますよね。私も子供の頃に阪神淡路大震災を経験しています。自然災害が原因で住むところがなくなったり移動せざるを得なくなったりするという状況に、言い方が難しいですが慣れているというか、頭でも心でも分かっていますよね。ただ、人的要因によって家がなくなるという状況は全く違うことです。

現在も所属しているダンスカンパニーのYaa Samar! Dance Theatreはニューヨークとパレスチナの二拠点の団体です。そのため、コロナ前はリハーサルや公演で1年に1〜2ヶ月程度パレスチナに行く機会がありました。また、今回はいらっしゃらないですが、アマールのチームの中にもシリア出身の方がいます。日本人にとって難民という言葉は身近じゃないかもしれませんが、​​そういう方と知り合うことで、100%心で理解できてないとは思いますが、知ることが多かったです。

ー実際に出会える方って少ないですよね。今回のようなアートをきっかけに難民の問題について考える人も増えるのではないでしょうか。

出会っていたとしても、そのようなお話しをしなければ知ることができませんからね。そういうことが実際に起きてるんだなと知ってもらえるきっかけになればいいなと思います。

また個人的にはいつか日本にも行きたいと思ってます。日本は人口が減っていて、移民を受け入れようという動きもありますよね。移民の受け入れと、難民に対する理解が日本でも広まるといいですよね。日本人の私がいることで、少しでも関心を持ってもらえたら嬉しいです。

興味に従って舞台芸術の道を歩み続ける

ー今後はどのような活動をしていきたいですか?

今回のアマールを含め、広い意味での舞台芸術の業界で、作る側としても演じる側としても長く活動を続けたいです。そのひとつとして、神戸でパフォーマンスユニットENTERARTを始めました。東京のような都会であればオーディションもありますが、地方だとあまりないんです。でも地方にも素敵なダンサーやアーティストはたくさんいます。そんな方々をもっと知ってもらえる機会を作れたらいいなと思って神戸を中心に活動しています。作品を通して素敵な方々を紹介できるようなイベントやパフォーマンスを続けていきたいですね。

ENTERART Photo by Shigeyuki Ushizawa

ー今後も肩書きが増えそうですね。ダンサーだけではなく、幅広く表現をされるようになったのはなぜでしょうか。

何をやっている人なのかわからなくなりそうです(笑)。元々はバレエダンサーでしたが、19歳くらいの時に「バレエが好きだからバレエダンサーをしている訳ではなく、表現することや舞台芸術全体が好きだからこの業界にいるんだ」と気づいたんです。きっかけは、かつて所属していた貞松・浜田バレエ団です。そこでは昔から創作バレエや現代舞踊を取り入れることに力を入れていて、その一環としてYuri Ngという香港の振付師を招いて作品を上演することがありました。彼の作品がとても興味深くて、そこからバレエにこだわる必要はないと思い始めましたね。

ー興味深いと思ったことに向かって進んでいくことが多いのでしょうか。

逆に、興味がないと真面目に取り組めないタイプです(笑)。ENTERARTもそうで、自分の中でこういうことやりたいなと考え始めたら芋づる式に進んで行くというか、気づいたら始まることになっていました。このプロジェクトで大きかったのは同じ兵庫県出身の建築家・津川恵理さんとの出会いでした。考えていることをお話ししたら、彼女が舞台美術に興味があるということで、「一緒にできますね」と。人を巻き込むと止められないので、そこから話が進んでいきました。興味を持てなかったら進めないと思いますね。

ーこれまでにカナダやトロントにいらしたことはありますか?

カナダに来たのは今回が初めてです。トロントは住んだら好きになるだろうなと思いました。都会だけどニューヨークの忙しない感じがなく、道が広いし公園も多い。そして水が近くにある。便利に集まっているけど、全体的に広くゆとりがあるところに、故郷の神戸と繋がるものを感じてリラックスできます。今回はイベントが終わった翌日の午前中にはニューヨークへ戻るので、街をゆっくり回る時間は取れませんでした。ニューヨークとは近いし時差もないので、またプライベートで来たいです。

ー最後に、読者のみなさんへ一言メッセージをお願いします。

トロントもたくさんの移民の方がいらっしゃる土地だと思います。もし今回アマールがいた間に街角でアマールに出会った方が楽しんでくださっていたら嬉しいです。今後はアマールと一緒にノルウェーに行くこととアメリカ横断をすることが決まっています。アマールはこれからも世界の色々なところを旅していくので、よろしければ応援していただけると嬉しいです。

©Jesus Cruz

逢坂 由佳梨(おおさか ゆかり)

舞踊家・演出・振付家・ダンスインストラクター ・人形使い・パフォーマンスユニットENTERART代表・マルチメディアコンテンポラリーダンスカンパニーYaa Samar! Dance Theatreの創設メンバー

貞松・浜田バレエ団に在籍後、2003年に渡米。現在はニューヨークと地元神戸を拠点に国際的に活動している。舞踊家、演出・振付家 、ダンスインストラクター 、人形使い、パフォーマンスユニットENTERART代表、マルチメディアコンテンポラリーダンスカンパニーYaa Samar! Dance Theatreの創設メンバーという顔を持つ。2021年、神戸の三宮駅前広場のリニューアルオープニングパフォーマンスを共同演出・振付した。”Walk with Amal”には昨年のNYCツアーから参加している。