北米初公開『ウスケボーイズ』単独カナダインタビュー!“映画つくりのきっかけはいつも感動から”

北米初公開『ウスケボーイズ』単独カナダインタビュー!“映画つくりのきっかけはいつも感動から”

 トロント日本映画祭8月のショーケースとして、日系文化会館にて柿崎ゆうじ監督の『ウスケボーイズ』が北米で初めて公開となった。この作品は桔梗ヶ原でワインを造る日本ワインの革命児たちの物語で、マドリード国際映画祭など海外でも数々の賞を受賞している。

 今回の公開に合わせて監督をはじめ出合正幸さん、伊藤つかささん、竹島由夏さんが来加し、舞台挨拶やQ&Aでは、監督やキャストの皆さんのコメントからワインへや作品への情熱がにじみ出ていた。映画を鑑賞し終わったファンからは、「日本人の方がモノ作りに真剣に向き合っている姿、そして情熱や皆さんの演技にとても感動しました」という声が寄せられた。

インタビュー

―今回カナダで北米初公開となりますが、心境はいかがですか?また、カナダ滞在中に楽しみにしていることはありますか?

柿崎監督: とても嬉しく思います。日本ワインの素晴らしさや、日本人のワイン造りにかける情熱はすべてのモノづくりにつながるので、その姿をトロントの皆さんに見てもらいたいですね。

出合さん: 日本公開時も登場しましたが、海外で出演する映画を観てもらいお客さんの前に立てるのはとても貴重だと思います。『ウスケボーイズ』は日本のワインを題材にしているので、役者として作り手の想いを皆さんに伝えたいです。

伊藤さん: トロントは今回が初めてですが、素敵なところに来れてよかったです。滞在中に、ナイアガラに観光に行きたいです。

竹島さん: 私もトロントは今回が初めてですが、国際映画祭のイメージがありますね。また、日本の文化を丁寧に伝えている日系文化会館でこの映画を上映できるのは嬉しいですね。

〝原作に忠実に描いた〟

―原作『ウスケボーイズ』の映画化に当たり、心がけたことはありますか?

柿崎監督: 原作を映画化するのは初めてだったので、原作との付き合いには苦労しましたが、どちらかというと原作にもこだわって忠実に描きました。

―今作品で皆さんが演じたキャラクターは個性的ですが、自分自身の性格とキャラクターを比べて似ていると思う点、違うなと感じる点はどこですか?

出合さん: 作品完成後、自分の役のモデルの方やその方をよく知っている人にも似てると言われてとても嬉しかったです。自分で感じている限りでは、キャラクターと自分は性格が真逆だと思います。モデルの方は性格がおっとりしていますし、質問にもよく考えて答えてくださる方です。

レッドカーペットの様子

竹島さん: クランクインの前にモデルの方を取材しましたが、主人公のモデルの方と仲たがいをして別々の道に進みしこりがあったりしたので、そういったプライベートなことを表現することにおいて受け入れてくれるかわかりませんでした。でも、ワイン造りに情熱を注いでいたところに尊敬の念を抱きました。役を演じさせてほしいと申し出て、竹島さんがやってくれるならと承諾してくださいました。

伊藤さん: ご存命の方の役を演じるときは覚悟がいるというのはキャストの皆さん意識していると思います。その方のキャラクターが間違えて伝わらないように心がけました。麻井宇介さんご本人にはお会いしてないですが、お嬢様が喜んでくださって安心しました。

〝柿崎監督はディスカッションの時間を多く設けてくださった〟

―出合さんはカナダの俳優キアヌ・リーブスが監督を務めた『47 RONIN』の映画に出演していましたが、ハリウッド映画と日本映画との違いは感じましたか?

出合正幸さん

出合さん: ハリウッド映画の撮影現場ではそれぞれのトップが同じ位置にいて、監督と照明のトップ、監督と衣装のトップがよく喧嘩していました。また、直接言われたわけではありませんが、俳優は俳優の仕事を全うしてほしいと言われているように感じました。仕事を明確に分けてやり切るといったところに違いを感じましたね。『ウスケボーイズ』の撮影では、柿崎監督が相談に乗ってくださる時間やディスカッションする時間をつくってくださったので、とても有意義でした。

〝芸能界でない空間も大事にしている〟

―伊藤さんは過去音楽活動やCM出演などをされていますが、それらの幅広い経験が映画での演技に活かされていることはなんですか?

伊藤つかささん

伊藤さん: 気が付いていないところで何かしら役には立っていると思います。芸能界だけじゃない空間も大切にし、引き出しになればいいと思っています。

〝日本の良さを役者を通じて世界に発信したい〟

―竹島さんは、過去ご自身のブログにおいてオードリー・ヘップバーンさんが目標と書いておられました。

竹島由夏さん

竹島さん: 以前は部屋にオードリーの大きなポスターを飾っていました。使命に邁進している、難民や子供たちの支援をしている姿に惹かれました。私自身は日本生まれ日本育ちのよさにここ最近気づいたので、今後は日本の良さを役者を通じて世界に発信していきたいですね。

―監督は経営している警備会社での実経験から映画を作ったり、ワインに関心を持ってから今回の『ウスケボーイズ』を映画化していましたが、日常生活から着想を得て映画を製作されることは多いですか?

柿崎ゆうじ監督

柿崎監督: そうですね。今まで、心の中にあるモノから描いてきたつもりです。普段の生活で本を読んだりして自分自身が感動し、映画を作ろうと思う瞬間があります。きっかけはいつも感動ですね。

―太平洋戦争を舞台にした映画を製作されていますが、なにか日本人の戦争や平和に対する意識に感じていることはありますか?

柿崎監督: 多くの日本人に共通していると思いますが、調べたところ、正しいと言われていた歴史が間違っていることが多いと感じていました。正しい事実を多くの人に知ってほしいです。カナダも含めどこの国でも平和を願っていますが、日本では戦争をして家族を守った人を弔うことは公には言えないですからね。

〝日本とポーランドの友好の話や、冷戦が舞台の映画を製作予定〟

―戦争や友情など幅広い題材の映画を製作されていますが、今後撮っていきたい映画はありますか?

柿崎監督: 一つは日本とポーランドの友好の話で、来年ポーランドに行って具体的に進めていく予定です。もう一つは東西冷戦が舞台の映画です。日本の北海道で起きた事実が語られていない事実に気づいたので、映画化しようと思います。

〝橋爪さんが大先輩だった〟

―皆さんが撮影中に体験した印象的なエピソードがあれば教えてください。

出合さん: 麻井宇介役を演じた橋爪功さんが、小学校の大先輩だったという事実です。年齢的にはすごい先輩ですが、聞いて驚きました。

柿崎監督: ワイナリーを自分で取材して周ったのですが、主人公が演じたモデルの方は取材NGで有名で会えないと思っていました。ですがあっさり会うことができ、意気投合したのが良い思い出です。

満員の会場

―最後に、トロントにいる多くの日本人の方々に向けて何か激励のメッセージをお願いします。

竹島さん: トロントはたくさんの人種の方がいるという印象を受けました。人種差別もほとんどないですし、店員さんも親切でウェルカムな印象で、とても素敵な国だと思います。日本人はシャイで一歩引いてしまう方も多いですが、日本のよさを海外に伝えてほしいと思います。

伊藤さん: トロントは街中の人がにこにこしていると感じました。昔に比べたら留学する人が少なくなっているからこそ、そういった人たちがこれからの日本を支えていってほしいですね。

出合さん: 自分の若いころは留学は考えなかったので、こちらに来ている方はそれだけですごいと思います。自分の求めていることを追って、楽しんでほしいですね。

柿崎監督: 日本の良さを伝え、カナダの良さを持ち帰ってほしいです。

舞台挨拶

 柿崎ゆうじ監督はトロントでファンと対面できた喜びを語り、「家族や友人とのきずなや師弟愛が題材になっているので、楽しんでください」と述べた。「Hello, everyone!」と元気よく挨拶した出合さんも、「質問をよく考えておいてください」とファンとの交流を心待ちにした様子だった。

Q&A

Q 日本といえば日本酒やビールが典型的ですが、今回の題材としてワインを選んだのはとてもユニークだと感じました。何か理由はありますか?

柿崎監督: 元々ワインが大好きで、今回日本ワインを飲んでおいしいと思ったきっかけがありました。また、彼らのストーリーに感動して作りたいと思いました。

伊藤さん: 私もワインが大好きで若いころもお酒をよく飲んでいましたが、この映画をきっかけに日本ワインを飲むようになり、ますますワインが好きになりました。

竹島さん: 私もこの映画で日本ワインがもっと好きになりました。

出合さん: I love wine, too!…実は、この映画の前はお酒はあまり飲めませんでした。ですが監督から出演のオファーをもらい、少しずつ飲むようになりました。今ではときどき家で飲んでいます。

Q 映画の撮影で実際の畑やブドウに触れる機会があったと思いますが、何か印象に残っているエピソードはありますか?

柿崎監督: 作品の中に出てくるワイナリーは全て本物です。みんなで実際に畑作業をしたり、撮影中は全部で千本は飲みました(笑)。撮影後もみんなでワインを飲みながら、撮影や映画ではなくワインの話をしてましたね。まさに、ご覧になった映画のシーンのような会話を本当にしていました。

出合さん:撮影期間は1か月でしたが、撮影後は、「飲みに行こう!」ではなく、自然な感じで飲みに行く流れでした。普段の撮影よりもキャスト同士が密になれた稀な現場だと思います。

竹島さん: 日本で初めての女性のワインメーカーの役を演じましたが、オリジナルの役の人に当時の心境を聞いたり畑にお邪魔したりしてお世話になり、今でも強いきずなで結ばれてるので出演できてよかったなと思います。

Q 私はプロのソムリエですが、今まで何千本もワインを飲んできました。仕事柄テイスティングの時に吐き出さなければいけないのですが、この映画では実際どうだったのか教えてください。

柿崎監督: 最初ジュースを撮影で使っていたのですが、俳優たちの芝居に違和感があったので、テストの時から本物を使うようになり、芝居がグッと良くなりました(笑)。一年間で千本しか作られていないワインもあるので、NGのたびにボトルに戻したりしていました。

Q この映画が上映されたことで、日本での日本ワインの販売は増えましたか?

柿崎監督: これは聞いた話ですが、日本のワインマーケットが倍になったと聞いています。

Q 皆さんが今後撮影を控えている作品はありますか?

出合さん: 三池監督の『初恋』です。トロント国際映画祭でも上映予定です。ヤクザ役でパンチパーマの恰好をしているので、違いを楽しんでいただければと思います(笑)。

竹島さん: 私は柿崎監督の次回作に出演します。

伊藤さん: 私も同じく、柿崎監督の次回作に出演します。また、舞台『ちびまる子ちゃん』のちびまる子の声優・たらこさんの作品の舞台に毎年出ていますが、12月に東京で出演します。

柿崎監督: いくつか製作予定ですが、1976年の冷戦時のソビエトの戦闘機が日本に亡命した事件を舞台にした作品を作ります。