ジャスティン・トルドー・カナダ首相三度目の倫理規定違反の調査対象に

ジャスティン・トルドー・カナダ首相三度目の倫理規定違反の調査対象に

COVID-19パンデミックで影響を受けた学生のために用意された9億ドル以上の助成金制度において、トルドー首相やビル・モルノー財務相とカナダを代表する非営利団体「WE Charity」との間で利益相反疑惑が取り沙汰されている。

 トルドー首相が倫理規定違反の調査対象となるのは今回で3度目となる。一度目は2017年に富豪の慈善家が所有する島でクリスマス休暇を過ごした件、二度目は2019年に大手エンジニアリング・建設会社のSNCラヴァラン(SNC Lavalin)の刑事裁判をめぐる司法介入疑惑である。

9億ドルの予算と「WE Charity」

 カナダ学生サービス助成金制度(The Canada Student Service Grant)は、新型コロナウイルス禍において連邦政府が学生に向けて秋から大学などの中等後教育のために経済的な援助を提供するよう設立された制度で、その規模は9億ドルにも及ぶ。助成金額は、最高5千ドルで学生がどれだけの時間をボランティア活動にかけたかで変わる。

 政府がこのプログラムにおいて第三者管理機関として契約したのがカナダで創設され、特に発展途上国や若者の教育支援などで国内はもとより国際的に活動する非営利団体「WE Charity」だ。しかし、この発表から間も無くしてトルドー政権に対し野党や他の慈善団体からこの制度を第三者管理機関に委託すること、そしてそれがトルドー首相や他の閣僚の家族と関係のある機関であることが問題視され批判の声が上がっていた。現在すでに政府と「WE Charity」はこの契約を破棄し、連邦政府側はこの決断は「WE Charity」によるものでその意思を尊重すると述べている。

「WE Charity」とトルドー首相家族の関係

 「WE Charity」は当初、トルドー首相の妻で慈善事業家として活躍するソフィー・グレゴワ・トルドー氏の旅費はカバーされたことがあるが、その他の首相の家族は誰も謝礼金を受け取っていないと主張していた。これまでにトルドー首相だけでなく、特に首相の母であるマーガレット氏や弟のアレクサンドル氏は数々のチャリティーイベント「WE Day」などに参加してきており、妻のソフィー氏は“WE Well-being”のアンバサダーとしてメンタルヘルスに関するポッドキャストを配信している。

 しかし、問題が明るみになるとともに「WE Charity」とその加盟団体がマーガレット氏やアレクサンドル氏に対して、過去4年間に渡り計30万ドルを講演料として支払ってきたことが明らかになった。

 野党は、会計検査院長官や連邦調達監視機関に今回の制度において「WE Charity」に与えられた独占契約に至った経緯や利益相反行為規定の違反があったかなどの調査を求めており、7月初旬にはカナダ倫理委員会のマリオ・ディオン委員はこれを受けて捜査を開始したと発表した。

 特に保守党のピエール・ポワブル議員は、これはもはや利益相反行為だけの問題ではなく、首相は自分や自分の家族と関係のある団体から利益を得るために権力を乱用しているという重大な問題だと指摘した。さらに保守党は2017年からこれまでに「WE Charity」が連邦政府から受け取ってきた計500万ドルに及ぶ全7つの補助金プログラムの捜査も要請したほか、ブロック・ケベコワ党は一連の問題が解決するまでトルドー首相はいったん任務から身を引くべきだと主張している。

 トルドー首相はこの問題に関して第三者機関との契約をめぐる際の交渉から辞退しなかったという事実を認め、自らの家族と同団体の活動履歴を考慮し、そのディスカッションから直ちに身を引かなかったことは間違いであり心から謝罪すると表明。さらに、若者も含め国を良くしていく人々の手助けをしたいという意思で政界に入ったが、今回の件で不必要な論争や問題を引き起こしてしまったこと、そして若い世代の人々にも多大な悪影響を与えてしまったことを大変申し訳なく思うと述べ、政府は全力でこの制度の運営管理を迅速に遂行していくとした。

モルノー財務相も深い関係4万1366ドルの旅費返金と謝罪

 トルドー首相とそのスタッフ、そしてモルノー財務相は、政府の財政管理を検討する連邦下院財務委員会で証言するよう要請され、モルノー財務相の証言は7月22日に行われ、トルドー首相は7月末に予定されている。

 22日の証言からモルノー財務相は近年「WE Charity」に夫婦で2回5万ドルずつの寄付をしていたことを明らかにした。さらに2017年に家族連れで同団体に同行し、その施設や慈善活動のための訪問をしていたことも発覚。財務省の妻と娘がケニアへ、その6ヶ月後に家族全員でエクアドルを訪れたという。そしてその際の旅費の一部計4万1366ドルを「WE Charity」に返済しておらず、証言直前にそれを返済したと述べた。

 「WE Charity」は、献金の見込みのある有力者に国際的な活動を見せるために無料で招待をすることは普段からあることで、その返済や報告などはそれぞれの責任であるとしている。モルノー財務相はこれに関して旅費が支払われていなかったことは知らなかったとし、それでも返済をしっかり確認するべきであったとし、不適切で間違いだったと謝罪した。

 しかし、大臣はこのような旅行も含めスポンサーされた旅行に行くことは完全に禁止されており、野党からは利益相反法を読んだことがあるのか、今になってそれが違法であったと気がついたのか、タイミング的にもこのような多額の費用の返済がされていなかったことを知らなかったというのは信じがたいなどと厳しい批判がでており、辞任を求める声もあがっている。

「WE Charity」専用に企画されたものだったのではないかという疑惑も浮上

 倫理委員会の元委員であるメアリー・ドーソン氏は、過去の疑惑も含め、トルドー首相をはじめ現リベラル連邦政府は利益相反問題となると“盲点”があるようだとし、そもそもこういった場面で自ら身を引くことは利益相反行為法上、義務とされているのが常識だと述べている。

 また、現地報道によると、トルドー首相もモルノー財務相も非常に裕福であることを考慮するとこれを機に金銭的な利益を得ようとすることは不必要だとも考えられるが、なんらかの影響力を得ようとしたのかといった疑いの声が上がっている。また、もはやこの助成金プログラム自体が「WE Charity」のために企画されたものであったのではないかという疑惑も浮上している。

 一方で「WE Charity」側は一連の問題に対して、契約の続行で助成金プログラム自体が打撃を受け始め、それによって機会を得られる学生たちにマイナスな影響が出ることを懸念していると述べてている。同制度は、応募開始1週間で3万5千人以上、うち64%のビジブル・マイノリティー、10%のLGBTQ2+といった多様性に富んだ応募者が集まっており、毎日3千人の新しい応募があるほか、83の非営利団体と連携し2万4000以上のサービスが設けられたりと、プログラム開始の成功や運用体制もある程度整ったとし、第三者機関としての契約を終了し今後の運営を政府に任せるという結論に至ったと発表している。

 さらに「WE Charity」は、今回の騒動で自らのミッションを再確認・リフォーカスするために第三者からのコンサルティングも受けながら組織の再構築を行っていくという。