アフターコロナの「新しい日常」|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第20回

 日清食品の創業者・安藤百福

チキンラーメン、カップヌードルの産みの親であり、日清食品の創業者・安藤百福が手を出したビジネスは多岐にわたります。チキンラーメンを開発するまでに、戦前は伸縮性のある繊維素材、問屋、蚕の栽培、ヒマシ油、そして戦中に幻灯機、炭、バラック住宅、軍用機用エンジンの部品に着手し、焼け野原となった戦後の日本で、製塩、漁業、交通技術専門学校、栄養食品、さらには信用金庫の理事をも勤めました。名前を貸した信用金庫が経営破綻し、全てを失ってチキンラーメンに着手したのは、48歳の時のことです。

彼のビジネスの多くは、時代のニーズを押さえて軌道に乗るものの、戦争という個人には到底あらがう事の出来ない圧倒的な厄災によって、撤退を余儀なくされています。

また、一見すると何の脈絡もない事業の数々ですが、激動の時代の流れの中で、世のため人のためになる仕事を嗅ぎ分け、事業として成長させていった事が彼の伝記には記されています。信用金庫の倒産後、「失ったのは財産だけではないか。その分だけ経験が血や肉となって身についた。ある日そう考えると、また新たな勇気がわいてきた」と、安藤は振り返っています。

 今後、歴史はコロナ以前と以後で明確に変容していくはず

立場上、長期的な視点をもって物事を考え、決断することを常日頃から心がけてはいるのですが、ここまで先行きが見えない状況というのは、言葉通り想像すら出来ませんでした(3月23日現在)。

物事はその速度を上げ、速いことそれ自体が価値となり、世の中はより良い世界に向かっていたはずでした。しかし、格差社会という形でひずみが生じ、それでも世界はスピードを緩めず、あらゆる越境に挑んで人類はシームレスな環境を構築していきました。皮肉にも、それが今回の事態を招き、いま世界は分断されています。

ただ、それでも長い目で見れば、さらに世の中はスピードを上げていくことでしょう。今後、歴史はコロナ以前と以後で明確に変容していくはずです。

アマゾンは救世主となりアメリカで10万人の雇用を生みました。株価はいずれ戻るだろうし、リモートワークで効率は上がるだろうし、UBERのようなギグエコノミービジネスは格差をより一層広げるだろうし、感染リスクはアウトソーシングされていくでしょう。そして、飲食店は在り方や存在意義を問われていくことになります。

そういった意味で、安藤百福がすべてを失って魔法のラーメンの開発に着手し、成功を収めたことは、今の状況においてとても示唆的です。

 サバイブしていく気満々

いま、自分をはじめ、たくさんの人たちが生き残りをかけて奮闘していることと思います。長い長い地球の歴史を振り返ると、環境の変化に対応して進化を遂げた生物のみが生き残ってきました。

厳しい考え方ですが、自戒を込めて書きます。アフターコロナの「新しい日常」はもう始まっています。その現実を直視し、この新しい世界に対応して生き延びるんだ、と腹に覚悟を決め、これまでの前提条件や常識を疑い、内側から変化を起こし、乗り越えた者の生き様だけが答えとなる事でしょう。

なんだか、しみったれた文章になってしまいましたね。こんな時ですのでご容赦ください。ただ、決して悲観しているわけではありません。むしろ、サバイブしていく気満々です。長期的な視点をもつということは、すなわち物事を達観することで、こういう時にこそ新たな勇気が湧いてきたりするものだと実感しています。

「雷神」共同経営者 兼 店長 吉田洋史

ラーメントークはもちろん、自分の興味や、趣味の音楽、経営の事や子育てのことなど、思うままにいろんな話題に触れていきます。とは言え、やはりこちらもラーメン屋。熱がこもってしまったらすいません。