デザインオフィス nendo 代表 デザイナー 佐藤オオキさん|カナダでの生活経験を糧に現在国際的な活躍をする著名日本人

ミラノ万博日本館クールジャパンデザインギャラリー」、バンコク大型商業施設「Siam Discovery」をはじめ、バカラ「アルクール アイス(グラス)」、ルイ・ヴィトン「サーフェス(照明機器)」、カッペリーニ「リボン(スツール)」などの世界的に有名なブランドのデザインを手掛けるなど、国際舞台で大活躍する佐藤オオキさんは、父親の仕事の関係でカナダ・トロントで生まれ、少年時代をここトロントで過ごした経験を持つ。

今や、Newsweek誌の「世界が尊敬する日本人100人」「世界が注目する中小企業100社」に選出されるなど、目覚ましい活躍をみせている佐藤さんに、トロント時代の思い出や、少年時代にこのトロントで生活したことがどのように今に至るまで影響したかなどのお話を伺った。

少年時代をトロントで過ごされていますが、印象的な思い出を教えてください。

よくひとりで近所の森に出かけて、白樺の木の樹皮を黙々と小銭で削り続けていました。どうしてそれをやっていたのか、今でもわかりません…。笑
最終的にはその森の白樺の一角がすべて普通の黒い木になって、とても満足していたことを憶えています。

日本に帰国された際、トロントとの違いに驚かれた、逆カルチャーショックを受けた、ということはありますか。また、現在のお仕事にトロント時代のこんな経験が活きている、というようなエピソードがありましたら教えてください。

10歳までトロントで過ごしたのですが、そこではたまたま全巻持っていた「ドラえもん」を繰り返し読んでいました。そして、11歳で東京へ引っ越してきたとき、一目見て「うわ、『ドラえもん』の世界だ!」と、ものすごく興奮しました。日本の街並みや家具に馴染みがなかったため、漫画の中だけの世界だと思っていた風景が、目の前に広がっているのを目の当たりにし、「ドラえもんの世界」に自分が飛び込んでしまったような衝撃を受けたのです。

このときの体験で、自然と「ごく普通のものを面白がって見る姿勢」が身についたのだと思います。

デザイナーとしてグローバルに活躍されていますが、デザイナーになろうと決めたきっかけ、経緯を教えてください。

2002年、早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻を卒業した年に友人たちと旅行で訪れたミラノで、たまたま開催されていたミラノサローネに感銘を受けたことがきっかけです。大学から大学院にかけて建築を勉強する中で、デザイン、特に建築に対しては、「すべて論理的に、かつアカデミックに考えなければならない」と、限られた人だけに許されるものであるかのような考え方が染みついていました。ところが、サローネでは一般の人々が会場で自由に感想や意見を言い、家具メーカーの関係者やデザイナーもまた、それを素直に受け止めていました。その様子を見て、「デザインは最終的に、人に喜ばれるものであるべきだ」ということを痛感したのです。

そこで、建築やデザインといったジャンルを越えて、人の感情に訴える自由なものづくりをしたいと考え、「今ここにいるメンバーで、いつかサローネに出展しよう」と、チームを結成しました。その時の「粘土のように形が変わったり色を混ぜたり、自由で柔軟な活動をしたい」という思いに加えて、英語でも日本語でも発音しやすい言葉ということで「nendo」と名付けました。

デザインをする上で大切にしているモットーは何ですか。

モットーというような大げさなものではありませんが…。

情報にアンテナをはるというよりは、空気清浄機のフィルターになったみたいな感覚で、さまざまな物が自分を通過するようにしています。たまにフィルター掃除をしてみるとそこからアイデアが見つかって、掃除をしたことで次のアイデアが引っ掛かりやすくなる。そういう感覚に近いかもしれません。

ちょっとうれしい、ちょっとラッキーという日常で起きる小さな非日常的な出来事のようなものは普段からそうやって自然と採集しています。

また、デザインの本質は、日常的なものに対して別の視点を提供することだと考えています。自分の場合、いわゆる〝作品〟的なものなど、特別なものを見てもアイデアは生まれてきません。むしろ、ごく日常的で地味なものにこそ、人の感情を揺さぶる要因があって、そこに焦点を当てるだけでもデザインの力を発揮できるのではないか、と思っています。

デザインをするためには日々、新たな発見をする瞬間があるのかと思いますが、「発見」するために常日頃から心がけていることがありましたら教えてください。

ふだんの生活ではできるだけルーティンワークを大事にしています。お昼ご飯も同じそば屋で同じメニューを食べて、そのあと同じカフェで同じコーヒーを飲んで…。ルーティン化できる要素は、すべてそうしています。仕事がイレギュラーの連続なため、ふだんはできるだけ変化を減らすようにしています。そうすることで、細かな違いや変化に気づくようになるのです。

国際舞台で活躍する佐藤さんですが、グローバルの観点から佐藤さんの目にはカナダまたはトロントはどのように映りますか?

やはり自分が生まれ育った場所は特別です。それだけではなく、自然と「ごく普通のものを面白がって見る姿勢」や「なんの変哲もない日常におもしろみを発見する」という、今のデザイナーとしての仕事にも繋がる要素を育ててくれた場所という意味でも、特別な思いがあります。

常に新たな技術が生まれている中、デザインの役割とは何でしょうか。

デザインには接着剤のような働きがあると考えています。人と人、人とモノ、人と空間などをいかにしてつなぎ合わせていくか。つまり、これまで気付いていなかった可能性や、当たり前だと思っていたことの魅力を、わかりやすい形に変えて可視化していく、それがデザインの役割です。その可視化をする中で、新しい技術はあくまで「道具」の一つだと考えています。

nendoの社内にも3Dプリンターが5台あり、24時間体制で稼働しています。また、スカイプやiPadのようなタブレット端末などによっていつでもどこでもデザインをチェックしたり、クライアントとコミュニケーションを頻繁にとることもでき、ものづくりのスピードは大幅に早まっています。

とはいえ、この技術の扱い方を間違えたり、過信したりすると、逆に翻弄され、本来のデザインの価値が見失われてしまう恐れがあるため、そうならないように、気を付けるようにしています。

今後挑戦したいこと、今後の展望を教えてください。

自分にとっての挑戦的なプロジェクトとは、まだ自分の中でも想像がつかないようなことだと思っています。今、自分の中でイメージできているものを超えたプロジェクトに挑戦していきたいです。

目の前のことに全力で取り組むことで、未来が自然と良い方向に開けてくると信じています。

H-horse for Kartell

高層ビルや鉄橋などの大型建造物に使用される「H型鋼」と呼ばれる鉄骨材は、 文字通り「H」の形をした断面形状によって少ない素材量でも高い強度を持つ、力学的に効率が良い部材である。 その考え方をそのまま子供用遊具であるロッキング・ホースに応用することで、最小限の要素でありながら、 機能と強度が充分備わったカタチが生まれた。

合理的な要素を、遊び心をもって全く別の用途に変換する。 それは、高い機能性を持った化学実験用器具の製造販売にはじまり、 今では世界中で愛される樹脂製の家具やアクセサリーを手がけるメーカーになったという、 Kartell社の歴史にもなぞられるデザインプロセスかもしれない。

Photographer : Akihiro Yoshida

looking through the window for Taiwan Design Center

台北市内の歴史的建造物が数多く残る松山文創園区に位置する台湾デザインミュージアムで開催されたnendo大型個展。

6つのギャラリーからなる述べ1420㎡の館内を使い、322点以上に及ぶ作品が展示された。日本統治時代に煙草製造工場として使用されていた同建築は、それぞれのギャラリーが長い廊下で数珠状に連なった構成で、さらにその廊下に面してずらりと木枠の窓が並んでいる様子が特徴的であったことから、「ギャラリー」自体ではなく、「廊下」とそこに面した「窓」を主役にした展示空間を考えた。

まず、窓の裏に窓と同じ大きさの小さな展示スペースを設置し、家具を手がけたブランドごとに割り当てていくことにした。次に、イタリアや東欧、北米、アジアなど、地域ごとのブランドをまとめた配置とすることで、来場者がひとつひとつの窓を覗きながら歩いていくと、気づいたら世界一周のブランド巡りをしたかのような体験が生まれることを意識した。

まるでウィンドウショッピングのように窓の中を覗き込むワクワク感と、窓の外の風景を眺めた時の心の安らぎをどちらも感じることができるような、そんな展覧会となることを目指した。

Photographer : Takumi Ota

rolling workspace for KOKUYO

ドイツのケルンで隔年開催されるオフィス家具最大の見本市「ORGATEC」のためにデザインした空間インスタレーション。 まずは、どのオフィスにも見られる四角いホワイトボードを見直すことが創造性を誘発する環境を生むキッカケになるのでは、と仮定し、ホワイトボードを円形にすることで自由にオフィス内で転がしたり、壁に立て掛けられるようにすることを考えた。また、このような形になることでアイディアも直線的ではなく、スパイラル状に連鎖したり、放射状に広がるような書き方をしてもらうことにも期待した。

デスクやベンチ、ハイカウンターなども合わせてデザインし、それぞれにスリットを設けることでホワイトボードを手軽に固定してパーティションとしても使えるようになり、裏面がファブリックで仕上がっていることで吸音効果も生まれた。家具だけでなく空間にもこのアイディアを応用し、床面にスリットを入れることで部屋を仕切る「建て具」として使ったり、個室や収納棚の「扉」として利用したり、さらには壁面に多数のスリットを用意することで複数のホワイトボードを「ファイリング」することも考えた。

こうした様々なスリットは自転車のスタンドとして使うこともできるため、通勤に使用した自転車をそのままデスクまで乗り入れることを想定し、コロコロ転がりまわるホワイトボードと相まって、頭の「回転」をくるくると促すような動的なワークスペースとなることを試みた。

Photographer : Akihiro Yoshida

sunset for by | n

普通の白いキャンドルに見えるが、芯のまわりは上からイエロー、オレンジ、レッド、パープル、ブルーという順番で5色に変化する。この色が炎のまわりの白い部分にうっすらと映る。色の変化で夕暮れの光の移ろいを表現し、香りも色に対応してベルガモット、レモングラス、スイートマジョラム、ラベンダー、ゼラニウムと変化する。周囲を照らすだけでなく、時間の経過を光によって体感できるキャンドルになった。

Photographer : Akihiro Yoshida

tangle table for Cappellini

1本だけ脚をひねったような形をしているサイドテーブル。ひねった部分に他のテーブルの脚を通すと、テーブルとテーブルが絡みついたような、手を繋いだような表情が生まれる。1点だけでは見えない関係性が、複数のテーブルを組み合わせると見えてくる。

Photographer : Akihiro Yoshida

佐藤オオキ(さとうおおき)

父親の仕事の関係でカナダのトロントで生まれる。東京学芸大学附属大泉中学校、早稲田大学高等学院を経て、2000年早稲田大学理工学部建築学科を首席卒業。2002年早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻修了と同時にデザインオフィス「nendo(ネンド)」設立。プロダクトデザイン、インテリアデザイン、建築、グラフィックデザイン、企業ブランディングなど幅広く活動を行う。2012年~2014年早稲田大学非常勤講師となる。Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100人」「世界が注目する中小企業100社」に選出された。

2012年、イギリスのライフスタイル雑誌「Wallpaper*」および「ELLE DECO International Design Award」にて「Designer of the Year」を受賞する。 
2013年、「Toronto Interior Design Show」にて「Guest of honor」に選出されたほか、世界的なデザイン賞の数々を受賞。
2017年はベルギーで大規模な回顧展を実施するほか、4月には奈良県天理駅前広場のプロジェクトも完成予定。

nendo ホームページ:www.nendo.jp