井口 慎太郎さん ゲームプログラマー・カナダ滞在歴6年|私のターニングポイント第15回

モントリオールでゲームプログラマーとしてキャリア17年の井口さん。最初は英語面接で悔しい思いもしたが、その後も勉強を続け、はじめはワーキングホリデー制度を利用、その後転職などを経て、現在は当初決意した日本の年収の2倍を達成したそうだ。

「会社を辞めて海外に挑戦したいと思っている」
「君にそんな事ができるわけない」

 専門学校を卒業した後に日本国内のゲーム会社でプログラマーとして働いていたのですが、元々パソコンで海外のゲームを遊ぶのが好きだったこともあり、海外のゲーム会社になんとなく憧れを抱いていて、ある時に上司に「会社を辞めて海外に挑戦したいと思っている」と話をしたら、「君にそんな事ができるわけない」と言われ、何も言い返せずに悔しい思いをしたままその話はなかった事になりました。その後も英語の勉強をすすめたり、準備のための時間がとれるよう一度転職もしました。

 結局、実際にカナダに来るのに時間がかかってしまいましたが、最初に思い立った時は本当にまともな準備も下調べもしていなかったので、上司が反対してくれた事がかえって良かったと今では思っています。反対や批判にぶつかった時は、それをバネにすればきっと結果はついてくると分かりました。

初めての英語面接は不採用で悔しかったが、自分のレジュメに興味を持ってくれる人がいることが嬉しかった

 プログラマーとしてのスキルは仕事の中で学んでいけますが、日本にいながら英語で職探しをしたり、ジョブインタビューをパスできる英語力を身に着けるのはやはり難しかったです。

 私の場合はTOEICのスコアを上げたり、個人の先生のマンツーマンレッスンを受けたりする以外にも、リンクトインのアカウントを作って英語でレジュメを書いたり、送られてくる勧誘のメッセージに返信したりすることで、より実践的な英語のコミュニケーションの練習になりました。

 まだ日本にいた頃にリンクトイン経由でまったく知らないドイツのゲーム会社のポジションの勧誘を受けて、初めて英語でスカイプ面接をしたのですが、明瞭な受け答えがまったく出来ず結果はもちろん不採用でした。悔しくて恥ずかしかったですが、自分のレジュメを見て興味を持ってくれる人がいることが嬉しかったですし、次のチャンスがあればもっとうまくやってやろうと思えました。

トロントで働くイギリス人ゲームプログラマーの一言
「カナダに来てから給料が2倍になったよ」

 この一言が、最終的に私がカナダ行きを決める最後のひと押しになりました。トロントを訪れた理由は、海外で仕事をしてみたいと思った時に日本を出たことが無い自分が果たして住めるのかどうかという下調べのためでした。カナダを選んだのはアメリカと日本に次いでゲーム業界の規模が大きい上にワーキングホリデー制度があったからです。

 このトロント旅行をきっかけとして、さらに準備をして1年後にワーキングホリデービザで入国し、ワークビザの更新や転職を経て今に至ります。結果として、少し時間がかかりましたが本当に日本で最後に勤めていた時の年収の2倍になりました。

 その理由は地域的なものが大きくて、第一にモントリオールには現在多くのゲーム会社が開発拠点を構えているので人材獲得競争が起きていること、第二にケベック州ではビデオゲーム等の産業に対して従業員の給料の約3割の補助金を出していること(Multimedia Tax Creditと呼ばれる制度)があります。

 これらを踏まえると、ただの数字に慢心しない事は大切ですが、労働環境・会社の従業員に対する姿勢・休暇の取りやすさなどを考えても、ここモントリオールで働く方が自分に合っていると思っています。あの時「カナダにチャンスがあるぞ」と教えてくれた友人には本当に感謝しています。

■ いまの自分に点数をつけるとしたら?

100点 朝起きて仕事してるだけで100点満点です(笑)

■ もし人生をやり直せるとしたら、いつ?

 自分の性格上、やり直しのチャンスが与えられてもうまくやり直せるとは思えないので、やり直したいとは思いません。もし海外就職を諦めていたら、今やりなおしたいなと思っていたかもしれませんね。

■ 人生で大切なことは?

 「人生でこれが大事だよ」という大人の言葉は話半分くらいで聴くことです。むしろ「その人は何故それを大事だと思うようになったのか」ということに思いを巡らせると、思いもよらぬ世の中の仕組みの発見があるなど、感情で人の意見に流されたりすることを回避できます。

■ 学生時代のエピソード

 とにかくテレビゲームとパソコンが大好きな子供でしたね。小学校の時はスーパーファミコン、中学生でプレイステーション、高校生になるとパソコンでゲームをしたりホームーページを作ったり簡単なプログラミングをして遊んでいました。パソコンとゲームで遊んでばかりだったので高校生の時は勉強にも全然ついていけず先生にも親にも怒られましたが、それが今カナダでゲームを作っている土台になっているわけですから面白いですね。

■ 将来の夢・ライフプラン

 カナダではボランティアやチャリティーが盛んで、例えば会社の行事としてチャリティーオークションを開催したり、従業員が名乗り出て若者のメンターをする文化があるので、自分もお金や物の寄付以外にも何かカナダに恩返し出来ることがあればやりたいと思っています。あとは日本の母校にも何か寄贈したりできたら面白そうですね。

-座右の銘: 未来は、明日ではなく今日、あなたがする事によって作られる。
-好きな本: 『自分の中に毒を持て』岡本太郎著
-尊敬する人: とくになし
-感謝している人と一言メッセージ: 今の自分を作ってくれた友達・同僚・家族。カナダで私の仕事ぶりが評価されるという事は、日本で私の事を育ててくれた先輩や同僚が間接的に評価されている事だと思っています。今ここで通用しているのはその人たちのおかげです。カナダに来てからできた友達とは一緒に楽しい時間を過ごしたり、似たような悩みを共有したりして、この場所での生活を充実したものにしてくれる事に感謝しています。
-カナダの好きなところ: 日本と比べて、労働時間が短く、休暇が取りやすく、給料が高いところ。世界中から色んなバックグラウンドを持った人が移住してくるので、日本人(外国人)だからという理由で浮いたりする事がないところ。