第17回 ハーフでも補習校ってだいじょうぶ?|カエデの多言語はぐくみ通信

第17回 ハーフでも補習校ってだいじょうぶ?|カエデの多言語はぐくみ通信

 わが家の日加ハーフ2人の子どもたち(現在成人)はどちらも小学1年生から高等部卒業まで12年間トロント補習授業校に通いました。結果は行かせて正解でした。ハーフでも補習校高等部を卒業できます。でもどうやって?そしてハーフなのになぜ補習校にしたのでしょうか?

ハーフなのになぜ補習校?

 15年以上昔は日本語補習校に子どもを通わせる国際結婚家庭は少数でした。補習校で必要とされる日本語力が高いからです。しかし、私は迷わず補習校を選びました。

 当時私が目標にしたのが「日本でも働ける日本語力を付ける」でした。わが家の日本語話者は私1人だけで、それも日中は働いているので子どもたちに十分な時間を割くことはできませんでした。それなら、手に入る最高の日本語環境を用意するしかありません。それが補習校でした。

 トロント補習校は生徒数600人近い大規模校で幼稚部から高等部まであります。世界中に229の補習校がありますが、その中でもトロントのように高等部まである補習校はたった60校ほどしかありません。日本語は高校まで継続して勉強しないと使えるレベルにはなりません。自分の住む街にそのような学校があったことはラッキーな偶然でした。

とにかく遅れさせない

Photo by NeONBRAND on Unsplash
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 国際結婚家庭は日本人永住家庭以上に日本語保持が難しいのは想像できると思います。日本語話者の親が1人で日本語の勉強や宿題を見ないといけないからです。そして、駐在員家庭の子どもたちに混じり、国語・算数・理科・社会の教科を日本の同学年の児童生徒が使う教科書を使って勉強するのです。現地校の宿題もしないとなりません。私が最も心配したのが、勉強が遅れ授業に付いていけなくなることでした。

 私が気をつけたのは、①休ませない、②宿題をさせる、③日本語は大事という態度を徹底する、でした。そして最も大事なことは、④学校任せにしないこと、です。特に勉強が難しくなる小学4年生から中学にかけては「大変」という言葉以外思い浮かびません。ただ、それも高等部になると、アイデンティティとしての日本語の重要性に気付き自覚も見え始め、一気に日本語も伸び、クラスメイトに助けられながら楽しい補習校生活となりました。

大事なのは幼年期の日本語力

 思い返すと、海外での日本語教育で最も重要なのは幼年期だとはっきり言えます。現地の小学校へ上がると瞬く間に日本語力が後退します。それを食い止められるのは幼年期にしっかり根付いた日本語です。

 まだ小さいから大丈夫と「1人1言語の原則(*注)」を守らなかったり現地語中心の育児をすると、学齢期になってから補習校や日本語学校へ入れても日本語が伸び悩みます。新しい教科を習いながら同時に日本語を一から伸ばすのは大変です。そして、授業に付いていけないと嫌になって補習校や日本語学校を辞めることになります。

 わが家の子どもたちは日本語で保育をする池端ナーサリーに6歳まで通いました。母親の私が日本語で十分保育ができないのでナーサリーで日本語を強めてもらいました。卒園後は間を置かずに補習校へ通わせたことで、日本語の後退も見られず移行は比較的スムーズでした。

補習校の課題

 補習校は現在、駐在者の減少と永住者の増加に伴い永住家庭の子どもが増え続けています。それは全世界的な現象で、中には9割以上が永住の子どもという補習校もあるそうです。しかし、そこには大きな問題があります。永住家庭と駐在家庭の子どもの日本語力のギャップです。日本語力に差のある子どもがたくさん在籍するクラスは教師が指導に苦労します。

 また、海外で2つ以上の言葉を使って勉強する子どもたちには、日本のモノリンガルの子どもとは違う言語習得の特徴があります。補習校にはバイリンガル教育の知識のある教師が少なく、日本式のモノリンガル向けの教授法が主流となります。日本の教科書を使い、日本の文化に馴染みがあるという前提の内容が永住の子どもたちに適しているのかどうか等、さまざまな問題があります。

 わが家の子どもたちは幼い頃から日本の文化にも触れさせていたので、特に日本式の教授法で困ったことはありませんでした。しかし、日本語力に関係なく日本の同学年の子どもと同じ教科内容に付いていくのは本当に至難の業でした。

海外から日本に貢献できる人材の育成

 今では永住の子どもが増えたため、補習校は駐在員家庭のための学校という考え方はそぐわなくなってきました。しかし、駐在員家庭の子どもと同じクラスで勉強する環境は変えて欲しくありません。わが家の子どもたちの日本語力が伸びたのは、日本語母語話者の子どもたちと一緒に勉強したからです。

 「補習校に付いてこれなくなったら継承日本語学校への転校を勧める」というスタンスではない、「もう1つの母国として日本に愛着を持つ優秀な人材に、日本語を学習してもらうにはどうすればよいのか」という視点に立つ必要があります。

 「補習校は海外から日本に貢献できる人材を育てる教育機関」と捉える時代に入っています。日本政府は、駐在家庭や外国人の日本語学習サポートに力を入れるだけでなく、「将来の日本の協力者を育てるにはどうしたらよいのか」と、日本の議員や文科省、外務省の職員もしっかり考える必要があるでしょう。

*注:「1人1言語の原則」親がそれぞれ自分の母国語で子どもの育児をする方法