ライブ・シアターと歴史を巡る|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第70回

ペネタングイシンのキングス・ワーフ劇場
ペネタングイシンのキングス・ワーフ劇場

ドレイトン・エンターテインメント―『サウンド・オブ・ミュージック』や『オズ』も

 トロントの北西に点在する6つの劇場をご存知だろうか。300人から700人近く収容できる劇場でドラマ、コメディ、ブロードウェイ・ミュージカルなどが一流の役者たちで毎年上演されている。カナダにいれば毎年一回はどれかに行っていたがここ数年忙しかったのとコロナで行けていないので思い切って友達を誘って出かけることにした。今の時期コロナが完全に収束しているわけではないので入場を制限しながら開演している。9月号で紹介したストラットフォード・フェスティバルとはまた少し違った趣があるので私は気に入っている。

 ドレイトン・エンタテイメント(Drayton Entertainment)が持つ劇場は、Drayton Festival Theatre(Drayton), Hamilton Family Theatre(Cambridge), Huron Country Play House(Grand Bend 50年目), Kings Wharf Theatre(Penetanguishene), St. Jacobs Country Playhouse and Playhouse Theatre(St. Jacobs)の6つで、上演シーズンは5月から12月まで。『サウンド・オブ・ミュージック』(The Sound of Music)のように人気のある出し物は繰り返し上演され、今年の夏の公演は9月4日で終わり、秋のシーズンが11月24日からケンブリッジ(Cambridge)で始まる。今回私が選んだのはヒューロン湖畔のペネタングイシン(Penetanguishene)にあるKings Warf Theatre劇場。近隣のミッドランド(Midland)に住む友達と合流して『On Golden Pond』を観に行く。ちなみに『オズの魔法使い』(Wizard of Oz)は同劇場で11月10日から始まる。

ペネタングイシン(Penetanguishene)ってどんなところ?

鉄刑務所の入り口―奥には格子に囲まれた広大な囚人舎が
鉄刑務所の入り口―奥には格子に囲まれた広大な囚人舎が

 過去に幾度ここに来ただろうか。青い空に映える赤塗りの劇場はヒューロン湖畔の小さな街、ペネタングイシンにあり、昔と変わらない姿で私を迎えてくれた。トロントから約1時間半で着く手軽さと今回は友達のところに泊めてもらうのとで気楽に出発。私のように長くカナダに住んでいる人はペネタングイシンと聞くとペニテンシャリー(Penitentiary刑務所)を連想するかもしれない。2001年にオープンしたセントラル・ノース・コレクション・センター(Central North Correction Centre)には、約1200人の囚人が刑に服している。建物の周りに張り巡らされた高い鉄格子に人影はなかったが、運動したり日光浴する受刑者を想像してみた。ヴァーチャル・ツアーがあるのでネットで見ると参考になる。自分がオリの中に入れられたような気持ちにゾッとするが。

ペネタングイシンの港でゴールデンアワーを楽しむ
ペネタングイシンの港でゴールデンアワーを楽しむ

 刑務所とはかけ離れた別世界がいとも穏やかなペネタングイシンの港。プレジャー・ボートやツアー・ボートが停泊する中、友達のお勧めの水際レストラン、Dock Lunchで開演前のはらごしらえにフィッシュ・アンド・チップスをほおばる。劇場を出て彼女のご主人の運転でドライブした後、またここに帰ってきた。水平線に落ちていく太陽とさよならする時間を惜しみながら私はカメラのシャッターを切りつづける。ヒューロン湖の太陽に会うのは今年はこれでおしまいかもしれない。もうじきこの同じ太陽と私はは東京の空で再会できるのだが、その時何を考えるだろうか。

ボート族が集まる水際レストラン「ドック・ランチ」
ボート族が集まる水際レストラン「ドック・ランチ」

セントメリー・アマング・ザ・ヒューロンズ(Sainte-Marie among the Hurons)

17世期のカトリック伝道士の要塞:セント・メリー・アマング・ザ・ヒューロンズ
17世期のカトリック伝道士の要塞:セント・メリー・アマング・ザ・ヒューロンズ

 ここは、17世紀にニュー・フランス(New France)と呼ばれた新天地カナダにフレンチ・ジェズイット・ミッション(French Jesuit Mission―カトリック)が布教のため、要塞のような形で現在のミッドランドに建設した歴史的な場所だ。教会、集会場、住宅などを建てたのだが、勢いのいいイロクワ族(Iroquois)の度重なる激しい襲撃に耐えられなくなり、早くも10年後には閉鎖して焼き払う運命を辿る。

ヒューロン族はヒューロン湖にあるクリスチャン・アイランド(Christian Island)へ逃げ、神父や信者たちはケベックに逃亡したという。幸い建物跡は3百年もの間きれいに残されていたため、再現されカナダの歴史の一部として一般に公開されている。当時の住民のような格好で仕事をしているのはコロナで学校にも行けなかった若者たち。サマージョブとして17世紀の衣装をまとい、当時の歌を披露したり、料理、物作りらしき仕草をしているのが印象的だった。白人の彼らにとってこの歴史は何を意味するのだろうか。

17世紀の要塞でサマージョブに勤しむ女学生
17世紀の要塞でサマージョブに勤しむ女学生