バンクーバーに拠点を置くメイド・トゥ・メジャー・ブランド『INDOCHINO』最高経営責任者 Drew Green氏 インタビュー

バンクーバーに拠点を置くメイド・トゥ・メジャー・ブランド『INDOCHINO』最高経営責任者  Drew Green氏 インタビュー

 カナダ・バンクーバーに拠点を置く「メイド・トゥ・メジャー」のブランドとして知られる『INDOCHINO(インドチーノ)』。「より多くの人にカスタムウェアを」という信念と共に拡大し続け、「メイド・トゥ・メジャー」専門としてはグローバル・アパレルブランドとして成長を遂げ、現在北米には30以上のショールームを構える。2018年には米国三井物産が北米におけるブランドの認知度向上や、世界展開やサプライチェーンへの投資を行うためインドチーノに出資を行なったことは日本でもニュースになった。

今回は最高経営責任者(CEO)兼プレジデントのドリュー・グリーン氏が生まれ故郷であるスカボローにあるスカボロー・ショッピングセンターにショールームをオープンするタイミングでインタビューを敢行。グリーン氏が「メイド・トゥ・メジャー」に込める想いや、日本を代表する総合商社による投資で見えてくるこれからの展望などについて伺った。

今年2月にはScarborough Town Centreに新店をオープン
今年2月にはScarborough Town Centreに新店をオープン

成長の原点は「服が体にフィットすること」

ー「メイド・トゥ・メジャー」のブランドとして北米では既に確固たる地位を築いているインドチーノですが、このコンセプトが多くの人に響いている理由は?

アパレル業界における一番の課題は「フィット」です。店で買った服がぴったりフィットする、ということはなかなか難しいこと。それはどんな体型の人でも言えることです。消費者からすれば、購入した服のうちの4分の1を返品するとも言われていますが、この数字がその難しさを物語っていると思います。一方で、我々が手掛ける服が返品されることはほぼ皆無です。「服が体にフィットすること」。それがインドチーノがここまで成長できた大きな理由だと思います。

もう一つ考えられる理由としては、ミレニアル世代が育った環境が「カスタム」で溢れかえっているからだと思います。買い物するにしても、テレビやネットフリックスを見るにしても、自身の好みや関心によって全てが「カスタマイズ」されつつあります。「メイド・トゥ・メジャー」の服はその延長線上にあるのではないでしょうか。

また、ミレニアル世代は自分自身のことを「ブランド」として捉えている印象を受けます。SNSや動画投稿サイトなどで彼らは自分自身を象徴しているように見受けられます。つまりそれは自分自身の「ブランド」を築き上げているのです。インドチーノはブランドではありますが、その魅力はお客様自身が自分好みの服や「ブランド」を作り上げることができることにあると思います。

企業をさらに成長させ海外へ展開するためには「小売」が必要

ー「インドチーノ」を創業した当初に抱いていたビジョンがあれば教えてください。その中で達成したもの、もしくはまだその過程にあるものはありますか?また、新たに加わったビジョンはありますか?

創業した当初はオンラインに特化するつもりでした。D2C(Direct to Consumer)と呼ばれる方式で、我々のサイトから直接お客様に商品を提供することを考えていたのです。ただ、事業が成長するにつれ、いくつか気づいたことがあります。中でも、企業をさらに成長させ、海外へ展開するためには「小売」が必要で、小売において我々独自の戦略を作り上げる必要があるということがその中の一つでした。創業して12年経ちますが、小売においては開始してからまだ5年しか経過していません。それにも関わらず、ここまで成長できたことはやはりその重要性を物語っているのだと思います。

事業や企業を成長させる過程において、チャンスや課題は付き物です。重要なのは、それらのチャンスや課題に対してどのように対応していくかということです。これまでのインドチーノはその時々で柔軟に対応してきたと思います。米国三井物産とのパートナーシップもそうです。これからも新たなパートナーシップを通して我々の事業をさらに拡大していく予定です。

米国三井物産とのパートナーシップは素晴らしいチャンスだった

ー2018年には米国三井物産の投資によりパートナーシップを組むことになりました。このパートナーシップに期待していることはありますか?

米国三井物産とパートナーシップを組むことができたのは我々のブランドにとっても幸運なことだったと思います。実は三井物産を知ったのは2015年で、それ以来彼らとは強い関係を築いてきました。三井物産は我々としても大いに尊敬している企業です。過去百年以上の歴史において手がけてきた事業ももちろん、カルチャーも素晴らしいと思います。そのような背景から彼らによる出資の話が出た際には「素晴らしいチャンスだ」と思いました。

「カスタム」というコンセプトは日本の消費者が重要視するのではないか

ーこのパートナーシップを踏まえ、日本をはじめとするアジアへの進出も可能性としてあるかと思いますが、アジアマーケットの魅力や課題があれば教えてください。

もちろん、国によって特徴は全く異なるので一概には言えませんが、例えば日本はとても魅力的な市場だと思います。その大きな理由は日本には「スーツ」が文化として根付いているからです。一方で、北米をはじめとする他の国において「スーツ」と言うと、クローゼットの重要な一部ではあるものの、日本のように毎日着るものではありません。聞いたところによると、日本のスーツ市場は年に600万から700万着を販売しているそうです。これはとても大きな市場です。

もちろん「課題」はありますが、「課題」は「チャンス」だと捉えています。「生地」はその一例です。日本や中国、そしてアジア諸国に展開する際に我々が重視したいのは「その国の消費者に合った生地を提供する」ということです。例えば、北米で提供している生地と同じ物を提供しても、日本の消費者の心は掴めません。様々な生地を吟味して、その市場や消費者に合った生地を提供するのが我々の役割だと思っています。

また、日本の文化と人において尊敬することが「細部までこだわること」、そして「品質を重視すること」です。「カスタム」も日本の消費者が重要視する点なのではないかと考えています。日本へ展開する際には、これらの特徴を捉えた商品を提供していきたいですね。

「EC」を活用することにより、来店時に記録した採寸や好みを元に、再び自分にあった服を手軽に入手することが実現

ー時間と手間を要する「メイド・トゥ・メジャー」が注目を浴びていると同時に、速さと手軽さが魅力の「EC」も近年拡大しつつあります。この二つの関係性についてはどう考えますか?

この二つに関しては、共存することがとても重要なのではないかと思います。この5年間、小売を展開してきて感じたことは、消費者は自分の服に使われている生地に触れ、自分の服を手掛ける人に会うことを重視しているということです。もちろん、我々のビジネスの核は「EC」ですが、小売により初めて消費者に我々のブランドを紹介することができているのだと思います。小売を通して唯一無二の経験を提供し、それによりリピーターを増やしていく。インドチーノで服を作ってもらい、その服が心から気に入り、またインドチーノに戻ってくる。店舗を構えたことにより、初めて「経験」や「体験」をもとにした我々独自の小売を展開することが可能になったのだと思います。

他方で「EC」を活用することにより、来店された際に記録した採寸や好みのデザインを元に、再び好みの服を手軽に入手することが可能になります。それが「EC」の魅力なのだと思います。ただ、インドチーノが他の「EC」と少し違うところは、配送期間が二週間ということです。ECサイトだと当日配送や翌日配送が一般的になりつつありますが、我々は違います。全てカスタムのため、注文が入ってから製造を開始するので、その分時間がかかります。しかし、その分、品質も高く、値段も手頃で、お客様にも満足していただいているのだと思います。

インドチーノは「メイド・トゥ・メジャー」専門ブランドとして初めて店頭販売とECを両立させるオムニチャネル方式を取ったブランド

ー北米のみならず日本そして世界で「メイド・トゥ・メジャー」の知名度が上がりつつありますが、これからアパレル業界はどう変わっていくと思いますか?

アパレル業界の将来はやはり「カスタム」にあるのではないでしょうか。最初に申し上げました通り、消費者はとにかく「フィット」を求めています。「独自のスタイル」もそうです。人が集まるパーティーなどに行って、他の人が自分と同じ服を着ているのを見るのが嫌と感じる人は多いのではないのでしょうか。

アパレル業界が「カスタム」や「フィット」を重視したものにシフトしつつあることも我々の成功の要因の一つだと考えています。インドチーノは「メイド・トゥ・メジャー」の服を初めてオンラインで販売したブランドであり、「メイド・トゥ・メジャー」専門のブランドとして初めて店頭販売とECを両立させる「オムニチャネル」方式を取ったブランドでもあります。これらに関しては我々がとても誇りに思っていることです。

Yorkdale Shopping Centre店内
Yorkdale Shopping Centre店内

「D2C」において重要なのは多様性

Drew Green
Drew Green

ーインドチーノの事業の核となっている「D2C」マーケティングはアパレル業界においても成長しつつあります。これからの「D2C」についてはどのように考えますか?

「D2C」において重要なのは「多様性」だと思います。様々なチャンネルを活用することはもちろん、それぞれのチャンネルにおいてパートナーがいるということも大きな影響力を持つと思います。紙媒体、オンライン、テレビ、ラジオなど、インドチーノも今まで様々なチャンネルを活用してきました。ポッドキャストもやっていて、紙媒体においてはポストメディア・ネットワークとの提携が功を奏したと思います。このように、多様性を意識することにより、「D2C」における認知度を高めることができたのだと思います。

ー日本発のアパレルブランドとしては「ユニクロ」がグローバルブランドとして成功をおさめておりますが、同じファッション業界として彼らの服、スタイル、そして機能性についてはどう思いますか?

個人的にも「ユニクロ」は素晴らしいブランドだと思います。日本のみならず、世界においても屈指のブランドなのではないのでしょうか。彼らが手がける「ファストファッション」のモデルはアパレル業界の過去20年間において偉大な影響力を持ち続けていると思います。ただ、彼らも最近になって「カスタム」を取り入れたと聞いたので、これからどのように進化していくのかが楽しみです。

ー最後にTORJA読者にメッセージをお願いします。

日本でも屈指の大企業である三井物産とパートナーシップを組めたことはとても誇りに思っています。カナダの企業であるインドチーノとしても日本の文化はとても尊敬できるものだと思っているので、これから先、この繋がりがさらに強固なものになることを願っています。日本人の方々にも我々の「カスタム」コンセプトを見て触ってそして是非一度着用してもらえれば嬉しいです。