アメリカンフットボール・キッカーの佐藤敏基選手(中編)|Hiroの部屋

ヒロさん(左)と佐藤さん(右)
ヒロさん(左)と佐藤さん(右)

先月から登場いただいてるのは、昨年行われたグローバルドラフトにてトロント・アルゴノーツから指名を受け、日本のみならずトロントでプレーしながら、NFL(National Football League)入りに挑戦中のアメリカンフットボール・キッカーの佐藤敏基さんです。

ヒロ: 前回までは甲子園ボールで味わった大きな挫折の話を伺いました。社会人リーグに入団し、キッカーとして成長されていくわけですね。

佐藤: 入団してから2ヶ月ほどして、元NFL選手で現在もNFLのキッカーを輩出しているアメリカのマイケルコーチが日本で行ったキャンプに参加する機会がありました。そこで結果を出せて、コーチから「会社を辞めてNFLを目指してみてはどうか」と声をかけて頂きました。それでNFL挑戦への決意が固まり、日本でも第一人者の先生に指導して頂き、自分の技術力が向上していくと同時に自信も取り戻したように思います。

ヒロ: 美容師は自分の天職だと信じて、トロントで生きていくと決めた身である僕からしても、今のお話から〝一心不乱〟のように自分の心に素直に迷いなく邁進するという事が大事なのだと感じました。交流のあるアスリートはもちろん、他業種でも第一線でご活躍なさる方々の共通点は、常に前を向くポジティブさ。それが自信に繋がっているんでしょうね。

ヒロ: 会社を辞めて、NFL挑戦の1本で行くと決めた時、周囲の反応はどうでしたか?

佐藤: 家族は、「自分の人生、好きに生きなさい。だからと言って甘えさせることは無いからね」という言葉をもらって、一番優しい言葉だなと思いました。尊敬している祖父からも、全国大会の決勝でキックを外したからこそフットボールで挑戦する意義があるんじゃないかと言ってくれました。

ヒロ: 敷かれたレールの上でなく、己の信じる独自の道が良いですよね。実は僕も高校卒業時、合格した理系国立大には入学せず美容院に就職しました。その際、恩師や友人は心配しましたけど、僕たちは〝普通〟や〝常識〟は関係なく、ただ自分に素直に生きたいんでしょうね。

ヒロ: 2017年の渡米経験で成長したそうですね。

佐藤: 日本でキッカーをしていてキック力で負けることはほぼないという自信があったんですけど、サンディエゴでのトレーニングでは現役NFL選手や、NFLキャンプ経験者ら世界のトップキッカーが集まっていて、平気で自分の距離を越されるし、もうボコボコにされた気分でした。

 ボールも日本のものと比べると大きいし、重いしで周りに負けないぞと張り切って蹴ったら怪我をしてしまうこともありました。

 しかし、世界レベルで優秀な選手、指導者の中で練習をしていると、日本で学んでこなかったことを学べましたし、ピラティスなどを始めて自分の身体への理解を深めることで着々と上達して、日本に帰国する頃には失っていたキッカーとしての自信を取り戻しつつありました。

 帰国後、社会人リーグの全国決勝戦の歴史上で1番遠くからキックを決めたのですが、その前に頭の中でこれまでの甲子園でのトラウマや、プレッシャーなんかがプツッと切れる音がしてそれから吹っ切れた気がします。

ヒロ: 一流アスリートとして挫折を乗り越えて培ってきた強みを感じますね。

佐藤: カナダという異国の地で日本人のみならず多人種のお客さんを相手にしているヒロさんの強みはなんだと思いますか?

ヒロ: よく言われるのは、コミュニケーション能力ですね。考えてみれば根っからの人好きで、会話するのも好きだからコミュニケーション能力が自然に上がっていくのかもしれないですね。

佐藤: ヒロさんはトロントで長く活躍されて、現地のカナダ人からも好評を得ているところが凄いですよね。

ヒロ: ありがとうございます。佐藤さん、言葉の違いはアメフトの世界ではどう影響が出てきますか?

佐藤: コミュニケーションは問題ないのですが、フィールドではスピード感が大事ですし、ミスをしたときにこちらでは日本と違って、主張が必要なんです。なんで、こういうミスをしたのかと言葉で瞬時に説明できないと使えないやつだと思われるので、その辺りが課題ですね。

ヒロ: なるほど!それは面白いですね。

 ミスの言い訳と思われるのではなく、その主張がミスの原因追求と、再発防止への改善、プロセスを行う大事な部分なんですね。そこは、どの業界・職業にも通ずることですよね。

 

ヒロ: 佐藤さんがアルゴノーツに指名されてトロントに来てくれたこと、本当に嬉しく思うのですが、実際指名されたときの心境は?

佐藤: ドラフト前のやり取りなどからトロントは脈ナシだと思っていたのでアルゴノーツから2巡で呼ばれた時には、喜びというよりも驚きが大きかったです。同時に安心もしましたし、カナダに来て周りをみても自分が勝負出来るところにいる確信があるので、今年はしっかり結果を出したいと思っています。

(聞き手・文章構成TORJA編集部)
対談はサロンを貸切にし、撮影のため一時的にマスクを外して実施しています。

佐藤敏基選手

 神奈川県出身。幼少期はサッカーと剣道を経験し、高校からアメリカンフットボールを始める。高校2・3年時は全国優勝、大学4年時には全国準優勝。大学引退後は一度不動産会社に就職するがNFLを目指すために辞職、海外挑戦と並行して日本ではxleagueの「IBM BIGBLUE」に所属しており、2019年には日本記録となる58ydのFGを成功している。2021年グローバルドラフトでトロントアルゴノーツから指名されて所属し、カナダでもプレーしている。