キャリア初勝利は20歳の誕生日!日本人初のカナダダービージョッキー福元大輔騎手(中編)|Hiroの部屋

福元さん(左)とヒロさん(右)
福元さん(左)とヒロさん(右)

 先月から登場いただいているのは、昨年、日本人騎手として初めて「カナダダービージョッキー」に輝いた福元大輔騎手。福元騎手はダービー制覇後、 プリンスオブウェールズSでも勝利し2冠を達成。今年9月には国際G1競走で初勝利を挙げる快挙を成し遂げるなど、今注目の若き日本人ジョッキーだ。

キャリア初勝利は20歳の誕生日!
ヒロ: 競馬は圧倒的に負けが多く、一回のレースで落ち込んでいるようではジョッキーに向いていないということですけど、福元さんは気持ちの切り替えが上手なのですか?

福元: 僕は割と無頓着のほうかもしれませんね。レースに勝ちたいという気持ちより、いいレースをしたいと思うようになってから勝てるようになった気がします。

 というのも、始めは全然勝てなくて、ゼロからのスタートだったんですよ。いろんな方のサポートもあって、騎手の免許も取れて今こうしてジョッキーとしてレースに出て勝てたりもしていますけど、最初は誰にも相手にされませんでした。さらにレースで騎乗していくためにはエージェントをつけなければいけないのですが、僕もカナダでは素人同然なのに、当時のエージェントも素人同然だったんですよ。

ヒロ: それでも、やはり彼との出会いが大きかったですか?

福元: そうですね。もともと日本からカナダにやってきてジョッキーになったという人もいなかったですし、僕自身も本当にジョッキーになれるのか?という状況でしたから、彼がいなかったらジョッキーにもなれていなかったと思います。

 もちろん、ゼロからのスタートだったので衝突もありましたけど、彼を信じてハードワークして一緒に勝てればと思ってやってきました。もっと上手いやり方もあったのかもしれませんが、彼のサポートも大きかったので、今も一緒に彼がエージェントとしてやってくれています。

福元: ヒロさんもカナダで、ターニングポイントと言える人との出会いはありますか?

ヒロ: ヴィダルサスーンの美容師 ジョセフですね。彼に出会った頃の僕は、まだトロント1年目で、英語は下手で美容師歴も5年目。でも何故か、そんな僕を気に入ってくれて、すぐに仲良くなれました。世界的有名美容師チームのヘアショーへの招待や舞台裏ツアーをしてくれたり、雑誌・メイク・アート・音楽など様々な業種が集うパーティーへも誘ってくれました。このジョセフが、トロントでの僕を次のステップへ導いてくれた人ですね。

ヒロ: キャリア初勝利はご自身の20歳の誕生日だったそうですね。

福元: 家族からは最悪英語の勉強をしてこい、と送り出してもらったわけですが、いろんな人と出会い、ジョッキーになれて夢の舞台で20歳の誕生日に初勝利できて、運が良かったのかなと思っています。

運って大事ですよね。
厩舎にて
厩舎にて

福元: 競馬は特にそう思います。実はダービー馬も本当は、他の人が騎乗するはずだったんです。本当にラッキーでした。レース中は、一番手で駆け抜けて、後でみんなが抜いてくるのを待っていたんですが、誰も追いついてこないので勝ったと思いました。

 ダービーに相当するクイーズプレートは、カナダでも最大のレースでお祭りのような雰囲気で、勝ちたいと思ってもなかなか勝てるレースではないので、とにかく楽しもうと思っていました。イベントの雰囲気を味わいながら、ちょっとでもいいレースができれば良いなという感じだったんですが、それが良かったのだと思っています。

海外でやりたいという気持ちだけ

ヒロ: 英語も大して喋れない中で目的のために突き進んでこられたようですが、不安とかありましたか?

福元: 英語がほとんど喋れない中で、馬の世界に飛び込んでいったわけですが、怖さなどはとくにありませんでした。というのも、日本では口先ばっかりとか、もうジョッキーをやらないんじゃないかとかずっと言われてきて、競馬学校にも合格できなかったりと結構崖っぷちだったんですよね。それでも僕にあったのは、「海外でやりたい」という気持ちだけ。もちろんカナダでは実績もないので、最初は相手にもしてもらえませんでした。だけど、自分はやれると信じていましたし、馬に乗ることには自信があったので不安はとくにありませんでした。

対談後はKOYOIでトロント元祖のもつ鍋を食べながら熱く語り合いました
対談後はKOYOIでトロント元祖のもつ鍋を食べながら熱く語り合いました

ヒロ: 〝無知の強さ〟っていうやつですね。まだ若く荒削りだった、でも、だからこそここまで登ってこれたのかもしれませんね。ピュアな夢と、根拠のない自信が、最大の武器のような。

福元: でも、のちのち英語は大事だなと気付かされることになるんですけどね(笑)。

ヒロ: ご自身が初めてカナダに来た時を思い出して、今から英語力がゼロでも海外に飛び込んでいく人に伝えたいこととかありますか?

福元: 夢であったり目的を持ってチャレンジしたら良いのかなと思います。僕もそうしてきましたし。なかなか上手くいかなかったり、上手くいくことの方が少ないでしょうけど、目的に向かって進んでいくことが大事です。

 もし海外でやっていくと決めているのであれば、やっぱり英語を勉強してから来た方が楽だと思いますね。ぼくは実際できなかったんですが、でも痛感することがたくさんあったので、これから来る人たちにはちゃんと準備してからの方が良いと言いたいですね。

ヒロ: もちろん英語が話せることに越したことはないですけど、若くして海外でチャレンジすることも本当に大切だと思います。海外の方が英語力アップできるのだし、来れるタイミングで、さっさと現地に来て学ぶ。英語が話せないからとかの理由で、先延ばしし続けないことですね。それより自分のやりたいこと。僕なら美容師で福元さんならジョッキーというように、自分の職業や目標を見つけた上で、最短距離でベストな試みをすることが大切かなと思います。

(後編につづく)

(聞き手・文章構成TORJA編集部)
対談はサロンを貸切にし、撮影のため一時的にマスクを外して実施しています。

福元大輔さん Daisuke Fukumoto

 カナダを拠点に活躍する騎手。福岡県出身。小学2年生の頃から騎手になりたいと志す。中学生の時にJRA競馬学校を受験するが、二年連続で不合格となり、 海外で挑戦したいという小学生の頃からの夢を叶えるため、2015年17歳のとき観光ビザで来加。その後ワーキングホリデービザを取得し、ウッドバイン競馬場の調教師のもとで調教や騎乗の手伝いを2年間続け、2017年7月20日にカナダの騎手免許を取得した。

 2020年6月6日、クイーンズプレートステークスで マイティーハートに騎乗し、優勝。日本人騎手として初めてカナダダービージョッキーとなった。同年9月29日にはカナダ三冠の第2戦となるプリンスオブウェールズステークスでも、マイティーハートに騎乗して勝利し2冠を達成した。そして2021年9月18日には、ウッドバインマイルでタウンクルーズに騎乗し、国際G1競走初勝利を挙げた。