ハリウッド映画の世界で活躍中! フォーリー・アーティスト 小山吾郎氏 インタビュー | 特集 カナダ・Professionals

ハリウッド映画の世界で活躍中! フォーリー・アーティスト 小山吾郎氏 インタビュー | 特集 カナダ・Professionals

フォーリー・アーティストの小山吾郎氏は1973年に生まれ、高校卒業と同時にいつか映画に携わる仕事をすることを夢に単身カナダへと渡った。現在は世界を代表するフォーリー・アーティストとして活躍しており、2012年にはエミー賞受賞、そして2017年には『ブレードランナー2049』の効果音を担当した。効果音のプロフェッショナル、小山氏に現在に至るまでの経緯や仕事のやりがいなどについてお話を伺った。

ーそもそもフォーリーとは?

映像の動きに合わせて音を入れることです。効果音を付ける際、サウンドエディターはコンピュータ上のライブラリにあるものを頑張って使うのですが、どうしても少し足りない。それを、人間がまねして映像に合わせて作る。その最たる例として足音があります。足音を切って貼ることはできないので人間がやったほうが自然になるのです。

ーカナダに来たきっかけは?

高校を卒業していざ進学という時に映画製作について勉強したかったのですが、日本で進学をする気になれず、外国に行ってみようと考えていました。

ハリウッド映画に携わるためにまずは英語の勉強が必要だと感じ、当時の英語の先生に相談したところ、語学留学を紹介していただき高校卒業と同時にたまたま申し込み先だったカナダのオタワに行くことになりました。

足音の録音用に用意されている靴
きっかけになった映画は『ロッキー』でした。

ー映画をつくることに興味を持った背景を教えてください。

きっかけになった映画は『ロッキー』でした。ロッキーが大好きでそこからアメリカの映画ばかり観るようになりましたね。そしてちょうど『ロッキー4』というロッキーの続編ができた。映画館に行くとたくさんの人がいて、立ち見をしました。スクリーンが半分見えないような混雑具合にびっくりして、日本人が外国映画を大興奮でみていることが不思議で、上映中にお客さんの顔を見ることもしました。当時中学校2年生だったのですが、「映画ってどうやって作ってこうなるんだろう」と作る人に興味を持ちました。

ー大学を卒業されてからフォーリーに出会うまでの経緯は?

サンダーベイの大学で2年間勉強し、卒業してから1994年にトロントサウンドスタジオに入社しました。元々監督になりたかったので、サウンドにはあまり興味はありませんでした。ですが、当時は学生ビザでカナダに滞在していたので、仕事を見つけない限りはビザが下りない。なんでもいいからたくさんの会社にアプローチをしていた際に紹介されたのがこのサウンドスタジオでした。

そこで初めて『スターゲイト』という映画に音を入れているアンディ・マルコム氏を見たのですが、率直におもしろかったです。その場でここに置いてください、とお願いしましたね。

ー当時の小山さんはフォーリー・アーティストにどのようなイメージをお持ちでしたか?

とにかくおもしろい仕事だと思いました。それまで、この仕事をやりたいとも、そもそもそういう仕事があるということすら知らなかったので真剣に考えたことはありませんでした。監督が映画をつくった、というのがそれまでの考えでしたが、映画は様々な専門家が集まってつくられているのだと気づき、フォーリーのアナログさや体を使う所に魅せられました。

僕らがいい仕事をすればするほど誰も気づかないんです。

ーフォーリーをやられている中で好きなことは何でしょうか?

やはりそのアナログささが好きですね。『ブレードランナー2049』でもそうなのですが、全ての場面にコンピューターで作ったような映像が入っているのに音は生を使いたいという作品が増えています。一時はサウンドエディットで殆どカバーできてしまうのでフォーリーはなくなってしまうのでは、と言われていたこともありました。

音は生を使いたいという作品が増えてきた背景には、映像のコンピューター化が進む中、作品に人間味を持たせるためには人間が作った音は何にも代えがたいという認識になってきたことがあるのかもしれませんね。

例えば足音なんて積極的に聞く音じゃないし、日常のさりげない音ではありますが、そのさりげない音を入れてあげることで映像に親近感ができて気持ちが入りやすくなる。

俳優さんのセリフしか入っていない映像に無かったものを入れてあげて、そのシーンを普通の生活音にあふれた普通の場面にしてあげる。人に気づかれないような些細なことだけど、その満足感っていうのは大きいですね。僕らがいい仕事をすればするほど誰も気づかないんです。

ー独立をされてから不安だった点を教えてください。

お客さんがこっちにきてくれるかが不安でしたね。最初はやっぱりスローでした。スローだった時期は長かったように感じますが、だいたい1、2年ありました。大きいスタジオはパッケージでもうファイナルミックスをする契約があれば全部そこに任されるのですが、私達はフォーリー専門なのでそれだけを持ってきてくれるお客さんを見つける必要がありました。こちらがいい仕事をしたかどうかでお客さんがもう一度仕事を持ってきてくれるかが決まるので、ひとつひとつの仕事を丁寧に確実にしていました。

私達が一生懸命やっていることが伝わることが嬉しいです。

ーその中で2012年にエミー賞受賞をしていますが、これはひとつの転機でしたか?

エミー賞は『ヘミングウェイ&ゲルホーン』という作品で受賞したのですが、僕はトロフィーが欲しいわけじゃない。そんなに大事ではないですが、周りが喜んでくれて、私達が一生懸命やっていることが伝わることが嬉しいです。仕事仲間や家族からのおめでとう、それが嬉しかったです。

ー音を入れるときのこだわりはありますか?

私の場合は、作品をもらった時に一番最初足音を入れます。作品の最初から最後まで通して足音だけ入れるのですが、ストーリーやキャラクターがわかることで感情移入ができるのでそういったことを足音に盛り込んでいきます。作品と近づくために一番最初に足音を入れるんです。

また、足音を入れる前に作品や台本を見ないようにしています。前もって観て勉強する方も多いですが、私の場合はそれをしない方がびっくりしたり悲しかったり、楽しかったりという感情がそのまま出せるような気がします。

そして衣擦れは一番最後に、最初から最後まで通してやるようにしています。衣擦れを録音しながら今までの音をヘッドホンで全部聞いて、衣擦れの音を馴染ませるようにします。足音がポンポン鳴る間に衣擦れの音が入ると馴染むんです。

ーフォーリーをやっていて難しいところはありますか?

リアルさやニュアンスの調整が難しいです。場面や作品、監督ごとに違ってくるのですが、ニュアンスについては監督やサウンドエディターと密に連絡を取っています。戦闘シーンはアクション映画のような感じか、それともリアルな感じか。アクション映画であればパンチの一発一発が爆発音になりますが、リアルであればパチンパチン、という音になります。このニュアンスをぴったりつけるのが難しいですね。

ー1つの作品が映画だとして、納品までいくのに何日間掛かりますか?

映画であれば、10日から15日が一番多いですね。30分のテレビドラマであれば1日、1時間ドラマであれば3日です。以前は5日契約であれば夜までやっていましたが、今はサウンドエディターと調整をし限られた日数でできることをするためにも、こちらからできる範囲を指定するようになりました。このような提案ができるようになったのは最近なのですが、独立当時はとにかく先方に気に入ってもらえるように仕事をしていました。ですが、「なんでもやります」という姿勢だと信用されない部分も出てきてしまうのです。

ー小山さんの出世作はなんでしょう?

何だったんでしょう。誰かが映画を観て「あの人の名前よく見るな、いい音だな」という時はクレジットで確認して、というところからですかね。エミー賞を受賞すると、名前を知られていることもあって声を掛けてもらえるようにはなりました。

ー忘れられない作品はありますか?

『クローバーフィールド』という作品です。2009年の作品で、ニューヨークに怪獣が来たのを誰かがビデオカメラで撮影し、その映像が流れているという設定の映画です。悪いクオリティーで音を入れたいというのが面白かったので、わざとガサガサの音を入れたりマイクをわざと倒したり、足音をわざとぶつ切りにしたりしました。

ー難しかった作品は?

海のドキュメンタリーは難しいです。気を付けないと全部のシーンが同じ音になってしまいます。アニメや映画と違って、ドキュメンタリーの世界は存在するものじゃないですか。深海200mの中の音を聞くことはできなくても、見ている人がそこにいるかのように作る。おそらくこの世の中に存在する音、でも現実では聞こえない音を作る。それでいながら本物の説得力を持たせる。想像力で音を作ることがとても難しいです。

ー『ブレードランナー2049』のお話がきた経緯は?

以前仕事をした方からの紹介でした。ロサンゼルスのイベントにマルコム氏と参加してい、ブレードランナーの続編があると昨年の3月頃に言われました。私自身、『ブレードランナー』のオリジナルが大好きなんです。なので大興奮してしまい、マルコム氏にもこの作品は自分が仕切りたいことを伝えました。

しばらくして、テストでワンシーンだけやってもらいたいという依頼がきました。丁寧に音を入れたのですが、監督から「音がいい子過ぎる」という理由で没にされてしまいました。もっとザラザラでガサガサした生の音がいいと言われました。私もその言葉に納得して、オリジナル作品の公開当時、あんなザラザラなSF映画は無い、と感じたことを思い出し、そのザラザラを実現するために新しいチャレンジとして廃車置き場や教会のようなスタジオの外で録音してみることにしました。

新しい試みとして廃車置き場で録音をした

ー『ブレードランナー2049』に携わることはプレッシャーよりも楽しい気持ちの方が強かったですか?

嬉しさや楽しさは勿論ありました。でも、私もこの作品のファンなのでわかるのですが、とてもカルトファンが多い作品なんです。その人たちに突っ込まれるかもしれない、ということがプレッシャーでした。

ーこの作品は小山さんのフォーリー人生において転機になりましたか?

そうですね、私が今までやってきた作品の中で一番大きなものですし転機になったといっても過言ではないです。35年前にオリジナル作品が公開されたのですが、私は高校生になってから初めて観ましたね。昔いち映画ファンとして観た、しかもSF映画の金字塔のような作品の続編に自分が音を入れているとふと感じた時は興奮しますね。

例えば、ガフというオリジナルに出てきた捜査官のキャラクターが続編にもちらっと出てくるのですが、そのキャラクターの折り紙の音を入れている時に一人で盛り上がったのを覚えています。

ーこれまでで悔しかったことや挫折の経験はありますか?

基本的に悩まないので、挫折は運のいいことに経験したことが無いですね。悔しかったことは、『ブレードランナー2049』のテストが全部没った時ですね。それまで没られたことが無かったので悔しくて眠れませんでした。幸いにも気持ちの切り替えは早いので、もうぎゃふんと言わせてやろうって気にはなりました。また、新しいことに挑戦する時、できない、わからないというよりも今までやったことが無いから楽しい、という気持ちの方が大きいです。つくる商売をしている上で新しい作品に取り組むことになる訳ですから、常に新しい方法を作り出していくことが醍醐味ですね。チャレンジが楽しいです。

左:水の音を録る様子 右:ホラー映画の音に欠かせないのは、なんとセロリ!

ーフォーリーのワークショップにも参加されていますが、楽しい点は?

参加されている方が皆さん子供みたいになっちゃうのが楽しいです。映画祭でワークショップがあるとよく親子連れがくるのですが、最初は子供がたくさん質問をして食いついてきてくれるんです。親は遠巻きに見ていたはずなのにそれが段々と近づいてくる、その感じが楽しいですね。映画は見ている方の子供を引き出すことができる、そしてフォーリーはそれがすごくよく見えてくるのでワークショップはとても好きです。

ー小山さんにとってプロフェッショナルとは?

妥協が無いってことですかね。プロの仕事は圧倒的であるという感じがします。言い訳ができないししない、そういうイメージがあります。

「なぜフォーリーが必要なのか」を一生懸命固持していきたいです。

ーこれからの目標を教えてください。

フォーリーというものが、もしかしたら無くなってしまうアートなのではないかと考えてしまうこともありますが、そうならないように「なぜフォーリーが必要なのか」を一生懸命固持していきたいです。それを色々な作品や形で皆さんに聞いてもらい、次の世代にも渡していき、これからもフォーリーがずっと続いていくようにしたいですね。

小山さんの年表

10代

中学2年生…『ロッキー4』を観て映画をつくる人に興味を持つ。漠然とハリウッドへの憧れを抱き始める
高校生…友人とビデオカメラを買い、映画をつくって遊ぶ
高校卒業…語学留学のためカナダ、オタワへ。反対していた両親が最終的に送り出してくれて嬉しかった。
語学留学終了…映画製作について学ぶためサンダーベイの大学に進学

20代

大学を卒業し、トロントサウンドスタジオに入社
2000年アンディ・マルコム氏と共に独立

30代

子供ができる。仕事のやり方が変わり、けがや残業、週末出勤もしなくなる
2012年『ヘミングウェイ&ゲルホーン』でエミー賞受賞

40代

『ブレードランナー2049』のフォーリーを担当