アメリカ現地報道からみるCOVID-19パンデミックにおけるカナダと米国の対応と成果の違いを探る!?|(後編)州のリーダーシップとヘルスケアシステム

アメリカ現地報道からみるCOVID-19パンデミックにおけるカナダと米国の対応と成果の違いを探る!?|(後編)州のリーダーシップとヘルスケアシステム

(前編)政治的リーダーシップの相違による影響 | アメリカ現地報道からみるCOVID-19パンデミックにおけるカナダと米国の対応と成果の違いを探る!?|

先日、アメリカのニュースサイトVOXに掲載された、COVID-19パンデミックにおけるカナダとアメリカの状況を比較し考察した記事から「アメリカ現地報道からみるCOVID-19パンデミックにおけるカナダと米国の対応と成果の違いを探る!?」と題して、政治的リーダーシップの相違による影響を前編として紹介したが、今回は後編として州のリーダーシップとヘルスケアシステムの相違を紹介していきたい。

州レベルでも両国のリーダー性の違いが鮮明に

前編で述べた連邦レベルのリーダー性だけでなく、州レベルでも両国にそのリーダーシップの違いが大きく出た。カナダとアメリカの政治システムは違うが、州政府が地域レベルで物理的距離やパンデミックのための規制を決定することができ、大きな権限を握るという点では類似している。

そこから、州政府によるイデオロギー・派閥中心の政治が垣間見れる。カナダでは細かい規制、政策対応の質レベルは州政府によって多種にわたるが、ウイルスに対する見方はどの党の間でもほぼ同等で深刻に捉えられ、厳しく一貫した物理的距離対策などが取られてきた。一方でアメリカではその見解が党やイデオロギーの違いによって異なり、そこから州政府の対応も様々で遅れが生じるなどの結果を招いた。

多くの政治学者や医療関係者がカナダの州政府の迅速な対応と一貫性を評価

この点については、多くの政治学者や医療関係者がカナダの州政府の迅速な対応と一貫性を評価している。事実カナダでもアメリカ同様、都市と地方の隔たりははっきりしておりその政治的思想も異なるが、政治的な派閥はアメリカに比べると決して固定されていたり力があるわけではないという。

パンデミックによるこのような危機の中、各党の間で比較的一致した見解を持つことで、各指導者がともに機能することを簡単にし、それによって医療最前線などの現場のあらゆる面での助けにつながっている。トロント大学とマギル大学の学者による政治学論文では、カナダの国会議員や国民の新型コロナウイルスに対する姿勢をデータ分析した結果、アメリカとは異なり、自由党が深刻で保守党は懐疑的であるなどといったウイルスに関する政治的二極化は、カナダでは見られないとし、ウイルス対策は党派によって構成されていないという。

オンタリオ州知事のダグ・フォード州首相が顕著な例

興味深い例として、右派ポピュリストでオンタリオ州知事のダグ・フォード州首相が挙げられる。フォード氏はトランプ大統領の経緯と同様、カナダ最大の都市トロント市出身だが地方や郊外からの有権者の支持が厚い。オンタリオ州の高齢者介護施設でのパンデミックの大打撃は全国的に見ても大きく、フォード知事のこの措置では批評されていることは事実であるが、知事の全体的な対策を見るとポピュリストのリーダーとして自身を位置づけるというよりも国民全体の同意に協調している。

さらに政府によるウイルス対策のための規制に対するデモを行った抗議者らについて無責任で無謀、自己中心的であると批判した。また、通常右派ポピュリストにしては移民政策にオープンな姿勢を示すフォード知事であるが、隣接するアメリカの深刻なパンデミック状況に関して、アメリカからオンタリオ州に人が入ってくることを懸念し、両国の国境を引き続き閉鎖するべきであると強調している。

SARSで得た教訓や医療制度、ヘルスケアシステムの違い

このように二国間の政治的リーダーシップの相違が、パンデミックの状況の深刻さに大きく影響していることは確かだ。しかし、それに加えてユニバーサルヘルスケアシステムや両国の長期的な国民健康対策・医療制度における大きな相違も考慮されるべきである。

まず、カナダはこのコロナウイルスに対して、過去に多くの直接的な経験がある。2002年にSARSが勃発し最終的におよそ26カ国に感染が拡大したが、2003年にはカナダでもトロントを中心に顕著なアウトブレイクが見られた。この時、アメリカでは少数の感染件数で死者が0人であったのに対し、カナダでは44人の死者が出た。このような経験は、韓国や台湾など今回の新型コロナウイルスのパンデミック危機でその対策が高く評価されている国・地域でも同じであり、それらの国では過去の経験を活かして今回のパンデミックに対応する政策が制定されている。

二つ目に、健康対策への資金がカナダでは近年増加したのに対し、アメリカでは過去10年間でアメリカ疾病予防管理センター(CDC)への資金が10%減少しており、保健当局は資金不足に陥っている。これは保健当局によるパンデミックへの準備や対応、措置力に大きな悪影響を及ぼしている。

そして最後にユニバーサルヘルスケアシステムの重要性が挙げられる。カナダは政府が保険料を徴収し、そして政府がすべての医療費を負担するという単一支払者制度による医療制度で、この医療の危機的状況の中でアメリカの高額で小さいキャパシティの制度に比べ、カナダの制度は言わずしも多くの人を救うことができる。

その理由は様々にあるが、例えば単一支払者制度で手頃な医療費であればより多くの人が医者へ行き検査や治療を受けることができるため、特に貧困層や疎外されたコミュニティーの人々の間でのウイルスの拡大がしにくい。また、カナダの単一支払者制度は政府が保険料を徴収し全治療費を負担するためカナダ保健当局がうまく調整することができる。例えばアメリカのように医療費支払いシステムの権限を病院や保険会社に託し、医療費が高騰する可能性を招くよりも、政府がそれを調整することができれば必要に応じてコントロール力を政府が担うことになる。

これによって、現在もしある病院で感染が拡大しPPE不足にあっても、政府がその需要の低い違う病院からPPEをもらい提供することができる。しかし、もしアメリカの病院が同じような問題に直面しても他の病院は実質競争相手なので、その需要供給のバランスを保つことははるかに難しい。

もちろんこの医療制度がこの二カ国のパンデミック状況の大きな違いを生んでいると断言しきることは正しくない。というのもイタリアなどの単一支払者制度を取る他の国々でのパンデミック状況はさらに深刻であり、一方でオーストラリアのような公営と民間医療機関の両方が存在する国はそこまで深刻な状況にない。しかし、ここで明らかなことは全ての先進国のうちアメリカ以外が何らかのユニバーサルヘルスケアシステムを保持しており、このパンデミックでカナダよりも大打撃を受けている一つの要因と考えられることである。

まとめ

アメリカではもともとカナダを理想化して報道したり軽視するような傾向にあるが、実際カナダの専門家は自国に対しても政府の対応に批判があることも確かだ。上記でも言及した通り国内の高齢者介護施設の対応は問題視されており、4月中旬で国内死亡者のおおよそ半分がこのような施設の住民であることから、普段からの運営や医療対応などに対して多くの疑問視や批判が上がっている。

また、先住民への対応も問題視されており、このようなコミュニティーは孤立していることが多く、普段から物資の提供が航空機などによって行われるなど慢性的に資源に乏しく恵まれていない。そこから現時点においてこのようなコミュニティーでの死亡率はものすごく高いわけではないが、もしもの場合の準備が十分にできているわけでもないという問題がある。

どの国においてもそれぞれの対応が完璧であったという例はなく、初期段階で拡大が抑えられた香港やシンガポールでも感染の第二波の問題に直面している。早すぎる段階で油断をすればカナダもアメリカのような状況を招く可能性は十分にあるという。

しかし現時点においてはカナダの対応はアメリカに比べて良かったと言えるであろう。アメリカは世界一の経済力で最高の学術機関も持つ国であるのに、国の基本的な国民の健康への注意力の欠如、不十分に設定された医療制度システム、そして政治の無機能性が今回の多大な医療危機を招くことに起因したとまとめた。

本文=TORJA特派員 川田英奈