【第7回】カナダ財産分与事情:財産の等分は不公平?|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

【第7回】カナダ財産分与事情:財産の等分は不公平?|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方
質問: 夫婦が別れるとき、婚姻中に築いた財産は全て半分ずつ分けるって聞いたけど、うちの場合は当てはまらないと思うんです。相手はずっと家にいて一銭も稼がなかったし、家も車も私が買ったんです。だから半分ずつは不公平ですよね。裁判所だってこんな不公平認めないですよね?

 離婚の相談に弁護士事務所を訪れる人々が、たびたび口にするこの質問にエキスパート弁護士が答えてくれました。

法律

 オンタリオ州法では「夫婦が離別するとき、婚姻中に築いた財産を等分する」と定められており、裁判所がこれと異なる判決を下すことはほとんどありません。「ほとんど」というと、冒頭の質問のように「自分のところは例外なのでは?」と考える人もありますね。 

 オンタリオ州法には、「夫婦の財産を等分することが『不当』だと認められた場合は、裁判官の判断で加減できる」とあります。しかしこの不当性を証明するのは至難の技です。なぜ、そんなにむずかしいのでしょう。

不当の定義

 
 そもそも「婚姻中に築いた財産を等分する」ことは、財産分与の争いを法廷に持ち込まないで済むように作られたルールです。ルールですから、時と場合によって頻繁に曲げられては、ルールとしての意味を失います。

 さらに「不当」は、「財産を等分することが裁判官の良識に衝撃を与えるほど尋常でない情況」であると判例によって定義されています。

 では、冒頭の質問者が繰り返す「不公平」は「不当」に当たるのでしょうか。エキスパート弁護士の回答を知る前に、長くオンタリオ州の国際離婚問題にかかわってきた筆者の感想を加えておきましょう。

法律vs公平

 「公平とは何か?」に対する答えは人それぞれでしょう。ある人が公平だと思うことが、他の人にとっては不公平極まりないと感じられることもあり、それが争いの種となることが多いのです。

 法律は、主観で左右される「公平さ」ではなく、常に当てはめることのできる「普遍さ」に基づいて作られています。だからこそ、法律はそれぞれの社会の指針となるのです。

 日本とカナダの家族法に見られる違いも、それぞれの社会を反映した明確なルールであると考えれば納得できるかもしれませんね。

 さて、オンタリオ州法に戻りましょう。

 家事や子育てに携わり、夫(または妻)を精神的に支えた配偶者の貢献に報いるため、夫婦が離別するときには、婚姻中に築いた財産を等分する。

 というのが、オンタリオ州法の財産分与の背景にある考え方です。

 しかし、配偶者が病弱で、就職どころか家事も育児もできなかった場合もあります。あるいは、仕事にも家事や育児にも興味が無く、それらを全て放棄した配偶者の場合もあるあるでしょう。このような場合「経済的、精神的に家庭を支えてきたのは自分ひとりだ」と主張したくなるかもしれません。

エキスパート弁護士の答え

 このように「何もしなかった配偶者に自分ひとりで築いた財産の半分を分けるのは嫌だ!」と、弁護士事務所のドアをたたく人へのエキスパート弁護士の答えです。

裁判官が、相手に経済的な貢献が無かったことを理由に配偶者への財産分与の割合を変更することはありません。したがって冒頭の質問者の状況が、裁判所によって例外に当たると判断される可能性はたいへん低いと言えるでしょう。

 しかし、配偶者が多額の借金をして夫婦の財産を減らしてしまったり、無謀な投資やギャンブルで貯蓄を使い込んだりしていた場合、その内容によっては残りの財産を配偶者間で等しく分けることが「不当」であると判断される可能性もあるのです。

 財産分与はたいへん複雑で、様々な事情によってカスタマイズすべき問題です。個々の財産分与に関するご質問は、エキスパート弁護士に直接おたずねください。

ケン・ネイソンズ: B.C.L, LL.B, LL.M(Family Law)

 日本人の国際離婚を多く手掛ける。ていねいに話を聞く姿勢は 移住者女性に好評。ネイソンズ・シーガルLLP設立パートナー。趣味はモデルカー収集。

野口洋美: B.A. M.A.

 ヨーク大学で国際離婚とハーグ条約に関する研究に携わる。国際結婚に関する執筆多数。ネイソンズ・シーガルLLP所属。趣味は日本語ドラマ鑑賞。