トロント大学音楽学部生5人に聞いたそれぞれの音楽の楽しみ方「音楽と私」

トロント大学音楽学部生5人に聞いたそれぞれの音楽の楽しみ方「音楽と私」

 皆さんは普段どのように音楽を楽しんでいるだろうか。カフェで流れる音楽を聴きながしながらお茶をする、英語の勉強のために洋楽を聴く、自分で実際に楽器を演奏するなど楽しみ方は十人十色。今回は、そんな音楽をトロント大学で専攻している5人に彼・彼女たちの思う「私と音楽」について語っていただいた。

芸術が将来の仕事につながらない?

ベン・ヨーさん

ー大学ではどのように音楽の勉強をしているのですか?

 トロント大学の音楽学部様々な授業があり、この選択肢の多さが音楽を学ぼうという意欲を刺激してくれますね。音楽とそれ以外の分野がどうかかわりあっているのかを再発見できるのも、この学部ならではだと思います。例えば、心理学と音楽を組み合わせて、音楽セラピーといった形です。

ーベンさんにとって音楽とはなんでしょうか?

 よく芸術を勉強することは将来の仕事に繋がらない、と言うけれど、僕はどっちとも言えないと思います。それどころか、僕はプロの音楽家になるという決断をしたことに後悔はありません。それは個人がどれくらい音楽に対し、真剣に向き合い、努力したか次第だと思うし、個人がどれだけ機会を自分から掴み取りに行けるか次第だと思うからです。それぞれのやる気次第で変わると、僕は思います。

 音楽を続けていく上で、人脈作りも大事だと思います。取り組んでいてストレスにならないものを見つけた時、初めてその人に合った場所を見つけたと言えると思います。僕にとってはそれが音楽です。

化学と音楽の交差点で気づいた本当の気持ち

ニコル・ツェさん

ー大学で音楽を専攻することにした理由を教えてください。

 音楽を専攻するなんて最初は全く思っていませんでした。トロント大学の一年目、私は生物化学専攻にいて、音楽学部には転部生として入りました。高校では化学のラボも卒業したため、大学では化学を専攻にすると決めていました。でも、大学で勉強しているうちに音楽が徐々に大きな存在になっていきました。元々ピアノとバイオリンは個人レッスンで習っていましたし、高校からはサックスも吹き始めました。高校を卒業する直前、ブラスバンドの指揮者が私の進路を尋ねて来た時、彼はため息をついてこう言いました。「絶対に後悔する。後々、私の言葉が分かるよ。あなたは音楽に残るべき人だ。」彼の言葉が一年目のトロント大学生活中、頭からずっと離れませんでしたね。そしてある日、私の中で音楽の優先順位が先行している化学を上回ってしまいました。

ー自分の本当の気持ちに後々気が付いたのですね。そんなニコルさんにとって音楽とはなんですか?

 音楽は私にとって呼吸と同じくらい大事だし、私に自信と笑顔をくれるものです。音楽学部に転部してから、自分が化学専攻にいた時より生き生きとしているのを感じます。楽器の練習は、義務というよりは自発的に、したい時にするスタイルでやっています。だから、基礎練習でも曲練習でも、楽器を吹いている間はいつでも楽しいです。勉強に関しても同じことだと思います。出来るだけ多くの作曲者について、そして多くの曲のスタイルについて学ぶことで、それが知識となりますよね。

コンサートをしている時が一番楽しい
コンサートをしている時が一番楽しい

悩みに悩み抜いた先に見えたもの

フォービー・ウォンさん

ーまず最初に音楽を始めたきっかけを教えてください。

 私は小さい頃からピアノのレッスンを受けてきたのですが、高校三年で音楽学部入学ためのオーディションを受けることが怖くなってしまい、音楽学部には願書を提出しませんでした。そのため、当時やりたいことが見つからなかった私は、とりあえず別大学の別学部に応募し、そこで一年間過ごしました。その間、ピアノには全く触れていなかったのですが、どうしてもピアノが恋しくなってしまい今度こそ挑戦してみようと思って音楽学部のオーディションを受けるに至りました。

ーある意味、自分との戦いだったように感じますね。いまは大学でどんな勉強をされているのですか?

 今はトロント大学で音楽教育学を専攻していて、ここでの生活はとっても楽しいです。いつか挑戦しみたいと思ってた色んな楽器のレッスンが授業で受けられるのでとにかく楽しいです。この学部は誰に対してもウェルカムな雰囲気で、勉強するには素晴らしい場所だと思います。みんながお互いを支え合って、助け合って、演奏しあって、励まし合うような素敵な環境です。

ーフォービーさんにとって音楽とは?

 音楽は私にとって人生の大きな部分を占めていて、私の感じるその特別感を若い方々にも伝えていけたらな、と思います。音楽を聴くことも生活の一部ですね。音楽はいつでも思い出と、それにリンクした感情を私の中に思い起こしてくれます。

ー練習ではどのようなことに気を付けていますか?

 ピアノの練習では常に「もっと上手くなりたい!」と思いながら練習するようにしています。それが原動力となって一回一回の練習に対して、集中して取り組むことが出来るし、毎回その曲に関して何しら新しい発見をすることが出来るからです。それから、講義などで学んだことや自分の知識を結びつけて、その曲をより自分にとって身近なものにすることも面白いと思う一つのポイントです。

海外へ渡って見つけたもの、それは私の原点だった

西田早紀さん

ー西田さんはどのように音楽に触れてきたのでしょうか?

 音楽なしでは私の人生語れない!と言っても大袈裟ではないほど、小さい頃から音楽に触れてきました。幼少期の頃からピアノと杉並児童合唱団に通い始め、中高通して吹奏楽部に所属し、トランペットを吹いていました。様々な習い事はやってきたものの、何故か残ったのは音楽ばかり。高校生の時まで、自分は何となく音楽が好きなんだろうな、程度にしか思っていませんでした。今まで遊び感覚でしかやって来なかった私にとって、音大という選択肢はありませんでした。かといって、日本の大学に入ってやりたいこともなかった高校三年生。私は、留学を決意し、文化の街トロントで一年間自分探しの旅と英語の勉強に励むことにしました。

 トロント大学の語学コース受講中、自分の小さな世界から視野を広げるために、様々なボランティア活動に取り組み、様々な人と出会い、プロジェクトをいくつも作り上げました。その中でもやっぱり、私にとって音楽は欠かせなかったし、音楽に関わっている時間が一番幸せだと感じたのをきっかけに、音楽を専攻することを決めました。

ートロント大学ではどのような勉強をされているのですか?

 トロント大学では楽器の授業のみならず、理論、歴史、心理学、教育学といった幅広い教養を身につけるべく、様々な授業を取る必要があります。幅広い教養が身につくという理由で、私は音楽教育学を専攻しています。学生生活は他の学部の学生と比べものにならないほど忙しいけど、今の生活に非常に満足しているし自分の生活が他の誰よりも幸せだ、と言い切れる自信があります。授業のおかげで様々なことを知ることができ、最近ではミュージカルや音楽制作、作曲にも興味が出てきています。

大学では合唱部にも参加
大学では合唱部にも参加

ー音楽を勉強している西田さんにとってトロントはどのような街ですか?

 トロントでは、東京にいる時よりも音楽に触れる機会が多いです。例えば、トロント大学が定期的にコンサートを主催し、学部生や院生、あるいは教授陣が演奏したり、駅地下で結構上手い奏者がいたりと恵まれた都市だと思います。皆さんも、是非一度足を止めて彼らの演奏を聴いてみてください。

苦悩と葛藤…トロント大学で音楽を続けたいワケ

シエラ・キムさん

ーシエラさんにとって、トロント大学で音楽を勉強することの意味を教えてください。

 トロント大学の音楽学部は私に一個人として、音楽家として、そして教育者として、様々なことにチャレンジし、成長する機会を与えてくれます。入学してからこの二年間を振り返ってみると、トロント大学の音楽学部を選択したことは最高の選択だったと思います。確かに、音楽学部はトロント大学の中では小さいけれど、この小さなコミュニティが私の大きな支えになってくれています。また、音楽学部ではたくさんのコンサートを開催しているますよね。それも私がここの学部を好きな理由です。

ー音楽教育学を専攻されているそうですが、なぜその専攻を選んだのでしょうか?

フルート仲間とも切磋琢磨しながら日々練習
フルート仲間とも切磋琢磨しながら日々練習

 専攻を音楽教育学にした理由は、あるフルートの先生からの影響でした。その先生につく前までは、他の先生についていましたが、その先生との相性がとても悪く、フルートは大好きだったけど、音楽大学を目指すことは諦めていました。音楽を続けるのには、金銭面のこともあり、一度は他の学部に行くことも考えました。ですが決断をする前に意思確認の意味を込めて新入生のためのトロント大学音楽学部ツアーに参加しました。実際の学生たちに話を聞き、学内を回ってみるととっても魅力的でした。特に、地下室で練習している他の生徒の音を聴いたときはとっても刺激を受け、その音はまるで一つのアンサンブルのようにも聴こえました。その時はとにかくこの生徒たちの中に入りたい!って思いましたね。

 いまでは、将来の夢として先生になり、私の音楽や教育に対する情熱を子供たちにシェアし、彼らの「音楽家」としての目標や夢を叶えるお手伝いをすることです。それから、皆さん、是非Toronto Symphony Orchestraを聴きに行ってください。本当に素晴らしいですよ。