世界中の子どもたちの社会的活動への積極的参加を感化させるキーワード「WE Day」「ME to WE」

世界中の子どもたちの社会的活動への積極的参加を感化させるキーワード「WE Day」「ME to WE」

「WE Day」とは?

 世界15都市以上で開催されている「WE Day」とは、国際協力団体「WE」(旧・Free the Children)が主催する、国内外の社会課題に対しアクションを起こす若者が対象のライブイベントだ。2007年カナダ・トロントでの初開催を皮切りに、現在ではアメリカやイギリスなどの15都市以上で開催されている。今年3月には日本での初開催も予定されており、全世界でいま注目のイベントである。過去のイベントには、パキスタン出身の人権運動家であるマララさんをはじめ、世界で活躍するスピーカーたちがゲストとして参加した。

 「WE Day」の参加には、Sustainable Development Goals=SDGs(持続可能な開発目標)を基にした社会に良い変化をもたらす活動の報告が義務付けられている。例えば、貧困地域に暮らす子供を支援するNGOへの寄付や、気候変動対策を訴えるデモ運動への参加などがあげられる。これまでに100万人以上の若者が参加し、2万以上のローカル・グローバル機関におよそ1.2億ドルの寄付が集められた。

「WE」について

 「WE」は当時12歳のクレイグ・キールバーガー少年により、1995年に設立された国際協力団体だ(設立当時の団体名称はFree the Childrenであった)。

 カナダ・オンタリオ出身のクレイグ少年は、児童労働反対を掲げる同い年の活動家の殺害を新聞で知ったことをきっかけに、世界の子どもが直面している問題に関心を持ち始める。自分たち子どもの手で子どもの問題を解決したいという気持ちから、「Free the Children」を立ち上げた。

クレイグ・キールバーガー氏
クレイグ・キールバーガー氏

 児童労働やストリートチルドレンの実態を知るためにインドを訪れた際には、マザーテレサと面会し「自分にできる小さなことから、世界は変えられる」という言葉をかけられたという。この経験に勇気付けられた彼は、カナダに戻り自らの目で見たインドの子供たちの現状を訴えた。「子どもに世界は変えられない」そんな周囲の反応も変わり始め、次第に彼の活動に賛同の声が集まるようになっていった。

「WE」の活動理念

 フィロソフィーは「子どもや若者は助けられるだけの存在ではなく、自身が変化を起こす担い手である」ことである。活動を享受する側と捉えられがちな若者が主体となり、パートナー団体「WE Charity」を通してコミュニティの発展を目指して活動を行なっている。

 具体的には、学校でのカリキュラムやボランティア、ファンドレイジング活動、国内外でのサマーキャンプ開催などが挙げられる。これまでにカナダ・アメリカの2千もの学校で50万人以上の子どもたちを、海外ボランティアに送り出す支援も行っている。

「ME to WE」

 また、2008年には社会的企業「ME to WE」を立ち上げ、日常の選択を通してより良い社会をつくることを理念とし、その利益の90%を「WE Charity」の活動資金として寄付をしている。

 持続可能なツーリズムを提唱する「ME to WE」は、「WE Villages」への旅行を通して、グローバル課題に対する意識の向上を目的としたツアーを提供している。現地ガイドのツアーと現地集落でのボランティアの両方が体験でき、その特色ある旅行形態が人気を集めている。

ME to WE Travel Ecuador
ME to WE Travel Ecuador
ME to WE Travel Kenya
ME to WE Travel Kenya

 さらに製品販売においては、ケニアやエクアドルなどのアクセサリーやチョコレート等をフェアトレードで入荷し販売している。消費者はこれらの商品の購入を通して、WE Villagesの貧困問題解決に貢献できるシステムになっている。商品に記載されたコードを「ME to WE」のウェブサイトに入力することで、自分の支払った代金が実際どのように役立っているのかを追跡することもできる仕組みになっている。

ウェブで自分の支払った代金がどのように役立っているのか追跡
ウェブで自分の支払った代金がどのように役立っているのか追跡

「WE Charity」

 ボランティア活動の「WE Charity」は、現在アフリカやアジア、南米の9カ国で「WE Villages」と呼ばれる地域の持続可能な発展を推進している。これらの地域の貧困の原因は単一ではないため、教育・水・食料・健康・機会の5つを柱に長期的に効果のある改善策を導入することを理念に活動している。

 例えば、水問題に対しては、集落や学校などに手押し式ポンプや井戸、トイレや手洗い場の整備が行われている。清潔な水へのアクセスは、衛生の向上だけではなく女性に教育機会を提供することにもつながる。多くの場合、水汲みは女性の仕事とされており、若い女性は生活の大半の時間をこの作業に費やしている。そのため、生活圏の近くに給水源があれば、学校で勉強する時間の確保がずっと容易になる。「WE Charity」の活動により、これまで100万人以上が清潔な水にアクセスできるようになった。

 また、地域ごとの文化に応じて、職業機会の提供や支援も行われている。酪農技術の指導やビジネス・ファイナンスのワークショップを開くことで、現地住民の収入増加や金銭リテラシーの醸成を支援している。特に、女性が収入を得ることのメリットは大きい。独立した収入源を女性に提供することは、男性の単一収入に依存することによる貧困の悪循環から脱却する上で重要と考えられるからだ。現在までに、3万人以上の女性が安定した収入源を得ることができた。

 健康問題に対しては、地域の行政機関と協力して医師の訪問や、医療資源の調達を行なっている。また現地住民の健康衛生への意識を高めるため、啓発ワークショップなども開催している。活動している国の政府とヘルスケアについて提携し、既存の政策を向上させるための活動も行なっている。

カナダはもちろん世界中で子どもたちを感化させている「WE Day」に
トロントで子育て中のお父さんが実際参加してみた!

 私はカナダの小中学校に子どもを通わせていますが、チャリティーやボランティアをすることが〝クール〟なんだぜ!と自然に感じるようになれる気がしています。そしてこれこそが日本の子どもたちにも必要なことだと思っています。

君たちは世界を変えられる

 子供の課外活動を見ていて特に印象的だったのが、「Me to We」というボランティア・クラブ活動です。

 子どもたちは「Me to We」の活動を通して貧困問題や社会貢献などについて学び、目的を決めてボランティアやドネーション(寄付)活動を行います。目標を達成すると一年に一度開催される「WE Day」と呼ばれる盛大なイベントに参加することができます。

 この「WE Day」とは、ミュージシャンや著名人の歌やスピーチなどを通して、子どもの権利、発展途上国の問題、世界飢餓や環境問題、貧富の差や人間の平等などの社会問題を取り上げ、一人一人の行動や想いで世界を変えることができる、と認識し合うイベントです。

 トロントでも毎年エアカナダセンターに二万人もの小中高校生がオンタリオ州各市から無料招待され、ハリウッドスターやミュージシャン、著名人や社会活動家などがパフォーマンスを行います。

ジャスティン・ビーバーやショーン・メンデスのほか、2018年にはヘンリー元王子も登場!

 過去にはジャスティン・ビーバーやショーン・メンデスをはじめとする若者に絶大な支持を集めるミュージシャンがパフォーマンスを披露したほか、セレーナ・ゴメスが自身の鬱病の体験を語ったり、ジャスティン・トルドーカナダ首相のお母さんが双極性障害の体験を生の声で子どもたちに語りかけたこともあります。

 他にも、シリアからカナダに移民した女性が爆撃に怯えて暮らした体験や、カナダで家族が安心して暮らせる喜びを語るなど、普段の生活の中ではなかなかできない貴重な時間を過ごすことができます。

 ちなみに私が参加した一昨年のトロントの会場では、当時メーガンさんと結婚し話題となり、2020年の今は王室からの離脱表明で騒がれているイギリスのヘンリー元王子がサプライズで子どもたちの前に登場し、スピーチをしました。

カナダの小中高生に絶大な支持を集める「WE Day」は、12歳の少年の発案!

 きっかけはクレイグ少年が当時手にした新聞に載っていた、貧しい国の家に育った同い年の少年のストーリーです。生活が苦しく、両親から引き離されてじゅうたん工場に売られ、工場では週6日、1日12時間の労働を強いられていた少年は、NGOの助けで工場から脱出し、児童労働反対を訴える活動家としてパキスタンや欧米諸国を回っていたのですが、何者かに射殺されてしまうという記事でした。

 クレイグ少年は、この記事を読み、同い年の子の死や、自分とはあまりに大きな生活環境の違いを知って強いショックを受け、同じ子どもの問題なら自分たち子どもで取り組もうと「フリー・ザ・チルドレン」を設立しました。

若かりし頃のキールバーガー氏(左)
若かりし頃のキールバーガー氏(左)

 こうして12歳の社会活動家が生まれたのです。ちなみに、ノーベル賞にも過去3回もノミネートされており、日本でもテレビ番組『世界一受けたい授業』で紹介されたそうです。

思ったことは、日本の義務教育課程でもっとボランティアやチャリティー活動への取り組みをすることで、グローバルな時代を生き抜くのに必要なチカラが培われるのではないかということです。
国際協力団体「WE」のオフィスを見学
国際協力団体「WE」のオフィスを見学

 今回紹介した「WE Day」の他にもカナダの義足マラソンランナー〝テリー・フォックス〟の名にちなんで、ガン研究の資金を募るチャリティーイベント「Terry Fox Run」も世界中で開催されるほど有名ですし、様々なチャリティー・ボランティア関連の催しに、カナダで生活していると幼い頃から当たり前のように参加することになります。

 もちろん、日本でもこのようなイベントはたくさん行われていると思うので、小中学校の授業やクラブの一貫として取り組み、チャリティーやボランティアをすることの意義や大切さが自然と身についた大人になっていくことが、語学にプラスして、これからのグローバルの社会では必要とされていることだと感じてもらえれば嬉しいです。