数字で見るTTC地下鉄のナゾ 何でこんなに遅れるの?|気になる「T」特集

 トロントに住む私たちにとって必要不可欠なTTC(The Toronto Transit Commission)。しかし、時間通りに来ない、電車が止まって動かないなど、「またか…」「勘弁してよ…」と思う経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。なぜTTCは遅れるのか、どこでトラブルが発生しているのか。そのナゾを明かしたい!ということで、今回はTTCが公表している2018年から2022年8月までの地下鉄における全遅延データを分析し、地下鉄が遅れる「なぜ」を探ってみた。

なくては困るTTC。2人に1人が毎日利用

 TTCによると、2020年の1日の平均利用者数(地下鉄、ストリートカー、バス)は71万2000人。トロント市には約300万人が居住していることを考えると、ざっと4人に1人が毎日TTCを利用していることになる。しかし、2020年といえば新型コロナウイルスの影響で外出頻度が著しく下がった年でもある。参考に前年2019年を見てみると、2020年の2倍以上である169万1000人の利用者がいたことがわかる。つまり、コロナ以前は人口の約半数が毎日どこかでTTCを利用していると考えられ、それほどTTCが生活に必要不可欠な交通機関であるといえるだろう。

 地下鉄の紹介をすると、Yonge-Universityのライン1(黄色)、Bloor-Danforthのライン2(緑)、Scarboroughのライン3(青)、Sheppardのライン4(紫)に計75の駅を持つ。TTCによると、利用者が多い駅トップ5は順にBloor-Yonge(約39万人)、St. George(26万人)、Union(約14万人)、Finch(約9万人)、Kennedy(8万人、いずれも2020年)。中心駅であるBloor-YongeとUnionはもちろん、始発・終点駅も当然ながら人が集まる傾向にあるということがわかる。

利用者が多い駅トップ5(2020年)/1日の平均利用者数(地下鉄、ストリートカー、バス含む)

けが人救護が1位 大迷惑な遅延理由も…

 TTCの遅延理由はさまざまだ。公開されているデータでは遅延理由は事細かに144種類に分けられているが、便宜上、今回は似た項目をひとまとめにして分析する。過去5年の遅延理由として上位を占めたのは、けが人救護(電車内、駅構内含む)、スピード制御問題、乗客トラブル(酔っ払った客による行動など)、乗客による非常ボタンの作動、オペレーター(運転手)の一時不在、電車のドア問題。その他、暴行(性的なものも含む)、爆弾予告、強盗など犯罪にかかわるケースも一定数あった。日本ではよく耳にする人身事故だが、TTCでは5年間で175回、2022年だけでも32回も起きている。それにより平均83.5分の遅れが発生した。

それぞれ遅延理由の遅延数

遅延理由表

1日平均50回!まさかまさかの遅延数

 電車が1年にどれだけ遅延するのか見てみると、2018年は2万724回、2019年は1万9143回、2020年は1万4759回、2021年は1万6348回、2022年(8月末まで)は1万3230回だった。一見して数は減少しているように思えるが、2020年にパンデミックが始まったことを忘れてはいけない。今年2022年については、規制が大幅に緩和され利用客がほぼ戻ってきたと考えられる。しかし2022年は8月末までのデータしかないため、比較のために各年8月末までのデータで分析すると、2018年は1万3931回、2019年は1万3087回と、2022年とほぼ同水準であることがわかった。つまり、TTCの遅延数は減少傾向にはなく、むしろ状況は何も変わっていないと言うことができるだろう。1日平均で見ると、2018年には平均57回、2019年は52回、2020年は40回、2021年は45回、2022年は54回という結果になり、平均的に1日50回もの遅延が発生している現状が見えてきた。

年別の遅延数

TTCの中心、遅延数1位はやっぱりBloor-Yonge駅

 2022年8月末までの遅延が発生した駅トップ5を見てみよう。1位Bloor-Yonge(946回)、2位Finch(864回)、3位Eglinton(645回)、4位Kennedy(644回)、5位St. George(482回)だ。過去5年に範囲を広げて見てみると、Vaughan Metropolitan CentreとKiplingも上位に入る。つまり、始発・終点駅、複数のラインが交わり乗り換えの起こる駅で遅延が起こりやすいと言うことができる。

ライン別遅延数ランキング(2022年、カッコ内は割合)

 ライン別では、全体の55%がライン1、32%がライン2(2022年)である。遅延発生数上位の駅での遅延理由はほとんどが乗客救護や乗客トラブルだが、Eglintonではスピード制御問題が約10%を占め、Finchでは今年、オペレーター不在により遅延につながったケースが22%もあったことがデータからわかった。ちなみに、この5年で遅延が少なかった駅トップ5は、Ellesmere、Midland、Bessarion、York University、Downsview Park。Bloor-Yongeでは8ヶ月で900回以上遅延している中、Ellesmereにいたっては5年で197回しか遅延しておらず、いかに駅によって状況が異なるのかがわかるだろう。

TTCの中心、遅延数1位はやっぱりBloor-Yonge駅

遅延数が多い平日トラブルが多い?週末夜

 平日と週末で大きな差が出ている。過去5年間の月曜~金曜の各曜日に、平均約1万3000回の遅延があったことがデータから読み取れるが、一方で土曜は1万325回、日曜にいたっては1万回を下回る8946回と数が少ない。考えられる理由は2つある。1つは、週末は通勤・通学する人の数が極端に少ないと考えられること、もう1つは週末には一部で電車が運休している可能性があるということだ。遅延数に加えて時間帯でも比較してみると、週末の夜10時は平日の同じ時間よりも比較的電車が遅れやすいということが特徴として浮かび上がった。平日夜10時の遅延数は全体の5.8%だが、週末は7.4%に上がっている。遅延理由はけが人救護や乗客トラブルなど平日とさほど変わらないものの、週末の夜に地下鉄に乗ることがあれば気をつけたほうがいいかも…?

平日と週末の時間帯での比較 平日の時間帯別 遅延発生数/%

平日の時間帯別 遅延発生数/%

曜日別の遅延発生数(過去5年)

2018年2.3分→2022年3.8分に増えた遅延時間 年別の遅延平均時間

 過去5年間、1回につき平均2.9分の遅れが生じている。そのうち最も長い遅延時間を記録したのは、2018年10月20日土曜のKennedy。暴行事件により、515分(8時間35分)も遅れることとなった。今年8月22日には、ライン3(特定の駅名記載なし)で信号トラブルによる7時間31分の遅延があったことが記録されている。

遅延時間の割合(過去5年)

 遅延時間がかなり長くなるケースがある反面、実際は全体の80%以上が5分以内の遅延に収まっているということは示しておきたい。
 5~10分以内は14%、10~15分以内が3%、それ以上はたった3%でしかない。

 ところが年別に比較すると、実は遅延時間は増加傾向にあるという事実が見えてきた。2018年には1回で平均2.3分の遅れだったものが、2022年には3.8分にまで伸びた。
 全体的な遅延数自体はさほど変わっていないことを考慮すれば、遅延時間が長くなっているというのは大きな課題となりそうだ。

遅延の3大波!

 過去5年、TTCが遅延した時間帯は主に3つある。①朝の通勤、②午後のラッシュアワー、③夜10時だ。TTCの地下鉄は、通常午前6時ごろから深夜1時半ごろまで(日曜は朝8時から)運行されている。①朝の通勤時間帯である午前6時~9時の3時間だけでも、1日の遅延の16%を占めている。その後時間が経つにつれ遅延数は減るが、②午後のラッシュアワーが近づくと少しずつ増え、午後5時に一度ピークを迎える。その後また数は下がるが、午後10時に数が一気に跳ね上がるという波があるようだ。午後5時、10時それぞれで全体の6.2%を占め、どの時間帯よりも多い。これは、仕事終わりに外出しお酒で気分が高まった人が多いことが要因の1つだと予想はできるが、実際に救護と乗客トラブルによる遅延数が他の時間帯よりも多くなっている。

 2022年は①朝の通勤時間はそこまで多くなかったが、②退勤時間と③夜10時にはやはり遅延数が多い傾向にある。毎時間平均528回の遅延が発生している中、午後5時は1.6倍の859回、午後10時はさらにそれを上回る980回の遅れが生じた。

時間帯別の遅延発生数/%

雪が原因? 1月の遅延数が1位

 季節の半分は冬だと言われるトロントだが、ここでは12~2月を冬、3~5月を春、6~8月を夏、9~11月を秋として季節ごとに比較して見ていこう。パンデミック前の2018年、2019年のデータによると、冬の遅延回数は9775回で24.5%を占め、春は9734回で 24.4%、夏は10541回で26.5%、秋は9817回で24.6%で、季節による大きな特徴はあまりないように見える。しかし、1月の遅延数は3740回(約10%)と他の月と比べ多く目立つ。遅延理由を調べてみると、1、2月は他の月より天候を理由にしたもの(例えば「天気予報を受けての措置」「雪に関連した問題」など)が多いことがわかった。毎年雪が多く降るトロントならではかもしれない。

月別の遅延発生数