カナダ・オンタリオ州の「労働雇用基準法」改定・新設ポイントをピックアップ|教えて!PASONAさん!

カナダ・オンタリオ州の「労働雇用基準法」改定・新設ポイントをピックアップ|教えて!PASONAさん!

ニュースや新聞等で取り上げられているのでご存知の方も多いと思いますが、昨年末から年始にかけて、オンタリオ州の労働雇用基準法が大きく変わりました。雇用基準法は、雇用する側にとっても、雇用される側にとっても非常に重要な法律です。今回は改定・新設された規定をいくつかピックアップしてご説明します。

1.最低時給額の引き上げについて

研修中やインターンシップ・ Co-Opとして勤務する場合や、営業職などで100%コミッション制の仕事の場合でも、雇用主はこの最低時給を守って給与を支払わなければなりません。

また、レストラン等で働く際に、時給+チップを給与として受け取る契約をした場合、最低時給の中にチップは含まれませんので注意が必要です。

2.緊急時休暇(Personal Emergency Leave)について

これまでは社員50名以上の企業の従業員だけが、年間10日間の緊急時休暇(無給)を得することができましたが、今後は企業規模を問わず、雇用されてから7日間以上勤務した従業員であれば、10日間の緊急時休暇を取得することができ、且つそのうち2日間は有給なので給料が発生します。

既に病欠、パーソナルデー、Paid Time Offといった項目の下で緊急時休暇を有給で社員に提供している会社では、この項目における影響はありません。

ただ、今回の法改定で病欠証明書(Doctor’s Note)を発行してもらうよう従業員へ要求することが禁止されたので、これまで病欠を使った社員に医師や医療関係者からの病欠証明書の提出を義務づけている会社は、社内規約を変更する必要があります。

3.産前産後休暇・育児休暇ついて

これまでは、産休が17週間、育休が35週間、合計最長で52週間(1年間)の休暇を取得することができましたが、育休の期間が最大61~63週間まで延長されたため、産休と合わせると約1年半(78週間)の休暇を取得することができるようになりました。基本的に産休・育休は無給休暇となるため、休暇中は失業保険を受給することができます。受給できる失業保険の金額は、次の通りです。

休暇中に受給できる保険総額は一定なので、休暇期間が長いとそれだけ毎回の受給金額は減ります。産休は出産予定日の13週間以上前から、育休は休暇に入る13週間以上前から雇用されている必要があることや、産休・育休が明けて職場復帰する際には、雇用主は当該従業員に産休・育休前と同じポジションもしくは同等レベルのポジションを用意しなければならないこと、また、従業員が産休・育休中の間も、雇用主は年金や保険等の福利厚生を掛け続ける義務があることには変更ありません。

4.ドメスティック・セクシャルバイオレンス被害による休暇について

同じ雇用主の下で連続して13週間以上勤務した従業員を対象に、従業員本人もしくはその子供が家庭内暴力や性暴力の被害を受けたり、被害を受ける恐れがある場合は、復職を約束された休暇(Protected Leave)を取得することができるようになりました。

個別に取得できる休暇は最大10日間、連続して取得できる休暇は最大15週間です。ドメスティック・セクシャルバイオレンスが理由の休暇の場合、最初の5日間は有給となり、その他は無給休暇となります。

5.年次有給休暇について

オンタリオ州労働基準法下では、有給について有給休暇(Vacation Time)と有給手当(Vacation Pay)の2つの概念が明記されています。

Vacation Time

これまでは、同じ雇用主の下で12ヶ月勤務した人は2週間(10日間)の有給休暇(Vacation Time)が保証されており、どんなに長く勤めても2週間以上増えることはありませんでした。しかし、今回の改定で同じ雇用主の下で5年以上働いた人は、3週間(15日)の有給休暇(Vacation Time)を取得する権利があることが明記されました。

Vacation Pay

月給・年棒の仕事に就いている人は、有給休暇を取得した期間が全額有給手当(Vacation Pay)でカバーされるため、給与額が変わる事はありません。しかし、時給の仕事で仕事を休むと給与が出ない人や、1年未満の契約職に就いている人には、所得の4%を有給手当(Vacation Pay)として受給する権利があります。

この4%と言うのは、年次10日間の所得に相当します。今回の法改定で勤務年数5年以上の人の有給日数が3週間(15日)に増えたことにより、勤続年数5年以上の従業員への有給手当(Vacation Pay)も6%(年次15日相当)へ増額されました。

6.従業員の誤った区分について

労働基準法下では、従業員として勤務する人に様々な権利を保証していますが、フリーランスや個人事業主として勤務している人は対象外です。会社は、従業員が本来受け得る権利やベネフィットを支給する必要が無いので、個人事業主とビジネス契約を結ぶことで、人件費を削減できます。

また、フリーランスや個人事業主は、仕事に掛かった経費を確定申告の際に申告できるメリットがあります。双方にとって利益があるように見えるビジネス形態ですが、中にはこれを利用した悪質な会社もあります。

そのため、今回の改定は、会社とフリーランス・個人事業主の関係が本当にビジネス関係なのか、それとも雇用関係が成立するかを明確にするよう求めています。もし、フリーランス・個人事業主としてやり取りする場合は、雇用主にはその人が従業員でないことを証明する義務が発生します。

臨時、パートタイム、嘱託、季節雇用等の雇用形態を問わず、同じ雇用主の下で正社員と同じ仕事をする場合、正社員と同額の給与(時給)が支給されることになりました。この改定は派遣会社から派遣されるスタッフにも適応されます。ただし、年功序列制度や人事考課を反映した給与額の差異など、幾つかの例外も挙げられています。

時給アップに加え、様々な理由で休暇を取得できるようになり、一見すると良いことばかりのように見えますが、企業は人件費の増加や休暇取得中の社員の業務をカバーするために、商品の値上げや社員のベネフィットの削減をせざるを得なくなったり、社員一人ひとりの仕事量が増えたりと、しわ寄せも生じているようです。

また、これらの新しい雇用基準法が施行されるにあたり、政府は監査人を増員し、規定を守らない雇用主から徴収する課徴金(Administrative Monetary Penalties)を引き上げ、企業に対してより厳しく法令遵守を求めています。就職活動中にご自身の職務内容や給与について疑問や不安に思う点があれば、遠慮せずに採用担当者や人事部に質問・相談することをお勧めします。