塩田明彦監督作品を勝手にご紹介|トロントと日本を繋ぐ映画倶楽部【第31回】

塩田明彦監督作品を勝手にご紹介|トロントと日本を繋ぐ映画倶楽部【第31回】

 みなさま、今月号の塩田明彦監督のインタビューは読んでいただけましたか。実は、またもや私がお話を伺ってきました。塩田監督の新作『麻希のいる世界』が東京フィルメックスで上映されると聞いたら、そりゃもう直接お話を聞きたくなるわけで。なぜかって、前作『さよならくちびる』が私は大好きだし、なにより塩田監督が語る映画のお話は面白いんですよ。著作「映画術・その演出はなぜ心をつかむのか」に綴られる過去の名作に対する分析も、映画への新たな視点を与えてくれるものばかりで。

 『麻希のいる世界』 2022年1月29日(土)より渋谷ユーロスペース、新宿武蔵野館ほかにて公開  ©SHIMAFILMS
『麻希のいる世界』 2022年1月29日(土)より渋谷ユーロスペース、新宿武蔵野館ほかにて公開 ©SHIMAFILMS

 新作『麻希のいる世界』が、これまた心奪われる作品で、さらに塩田監督に直接お話を聞いたら、やっぱりトロントのみなさんにぜひ観てほしい!との思いが強まりました。そんなわけで、塩田監督の作品がトロントで公開されるのかどうかは知らないけど、ぜひみなさんにも観てほしいから、またもや勝手に紹介します。

 前作『さよならくちびる』は、若い2人組の女性ミュージシャンの話。解散の危機に瀕しつつ、表向きにはそれを隠して全国各地のツアーを回る女性2人と、マネージャー兼バンドメンバーの男性1人。この3人の微妙な関係が、各地でのライブの様子を追いながら次第に見えてきます。

2人の女性が音楽を通してつながって、でも次第に険悪になり関係が壊れていく様子と、そこに介在する男性と。言葉にできない心の叫びが、映像と音楽からあふれてくるようでした。

 最新作『麻希のいる世界』のほうは、麻希と、その歌声に魅了された由希の少女2人の話。そこに同級生の男子1人が介在して、この構成だけに着目すれば、『さよならくちびる』と同じ話かと思えるほど。それなのに『麻希のいる世界』は、『さよならくちびる』とはまた全然違う手触りです。そのくせ映像や音楽から強い思いがあふれてくる点では同じという、なんだかすごいことになっています。

この張り裂けそうな思いがスクリーンからあふれ出す映像を、音楽を、ぜひ映画館の暗闇で受け止めてほしい。そんなわけで、誰に言えばいいのかわからないけど、『さよならくちびる』も『麻希のいる世界』も、ぜひトロントで上映してくださいと声を大にして言っておきます。