人口の高齢化に伴い、認知症・がんなどにおける医療大麻の効能に期待|特集「カナダ大麻合法化」から1年が経過して分かったこと

ハーバード大学研究者が転移性膵臓がん治療の可能性を発表

 今年7月、ハーバード大学の研究者はFBL-03Gと呼ばれる大麻フラボノイドが膵臓がん腫瘍を殺すことができることを発見した。研究チームは膵臓がんのマウスを対象とした実験を実施し、使用した動物の70%でFBL-03Gが腫瘍細胞を殺したことを発見した。膵臓がんは診断と治療が非常に難しく、5年生存率はわずか8%である。

 膵臓がんの現在の治療選択肢には、化学療法、手術、標的療法、免疫療法、放射線療法が含まれるが、これらの治療は腫瘍が早期に発見された場合にのみ利用可能であるため、大麻を使用して治療することができるというのは大きな発見である。

 この治療法が、膵臓がんを持つ患者にマウスと同じくらい効果があるかどうかを判断するにはまだ早いかもしれない。しかし、正しい方向への主要なステップであることは間違いない。少なくとも、この発見は後の段階で膵臓がんと診断された人の平均余命を延ばす可能性があると研究チームは述べている。

 研究は医療用大麻と放射線療法を併用すると、膵臓がん動物モデルの生存率を高める可能性があることを示しており、またFBL-03Gが治療の標的にされていない体の他の部分のがん細胞の成長を抑制したことも発見している。研究者はこれらの肯定的な結果の後、研究者は将来の臨床翻訳を目標とした、さらなる研究の実施を計画している。

大麻は認知症治療に有効、ノーベル賞受賞者輩出の研究所と最新のジュネーブの研究が発表

 2017年、これまで16人のノーベル賞受賞者を輩出してきたカリフォルニア州のソーク研究所の脳の専門家らが「認知症やアルツハイマー病の治療に大麻が役立つ」と主張した。彼らは大麻に含まれるTHCが脳内に蓄積したアミロイドβを取り除き、細胞の損傷を緩和する効果があるとの研究結果を発表していたが、研究所のDavid Schubert教授は「連邦政府の麻薬取締局(DEA)による規制が原因でこの分野の研究は進んでいない」と述べ、研究を次の段階に進めるのが難しいとCNBCに語っていた。

 また、アメリカで強力なロビー活動を行う医薬品業界が大麻研究の法的妨げを作り出していることも指摘し、「大麻は天然物であるため特許を取ることができない。だから薬品会社は研究分野で大麻が使われることを止めたい。自分たちが利益を得られない試みには反対するというわけだ」とForbesに述べていた。

 今でも大麻が認知症(アルツハイマー病が最も一般的な種類の認知症)の高齢者をどのように助けることができるかに関する研究は不足しており、長年連邦政府は医療大麻の効力の調査を十分に行っていない。しかし、今年発表された大麻の認知症患者への効力の調査の結果は、非常に有望なものである。

 先月のForbesの報道によると、今年9月でジュネーブで行われた認知症患者に対するTHC・CBDベースの投薬の処方の調査の結果は、THCとCBD経口薬によって患者は全体的に管理しやすくなり、日常ケアを大幅に改善すると結論づけた。研究所は重度の認知症に関連した行動上の問題を抱えている10人の女性の認知症患者に、毎日平均7.6ミリグラムTHCと13・2ミリグラムのCBD、1ヵ月後に8.8ミリグラムのTHCと17・6ミリグラムのCBD、2ヵ月後に9.0ミリグラムTHCと18・0ミリグラムのCBDの経口薬を与えた結果、患者の50%が他の向精神薬を減少または中止し、問題行動は40%減少したという。ケアスタッフは患者の身体の硬直の低下、日常ケアの容易さ、患者との直接的な接触の改善、行動の改善を高く評価した。また、これらの深刻な影響を受けた女性の管理において大麻の副作用や害は一切なかったという。

 大麻が認知症を治すことができると調査スタッフは主張していないが、病気が進行するにつれて、認知症患者の行動は世話する家族にとって苦労を伴うことが多い。今年8月のカナダ統計の調査によると、カナダには41万9千人以上の人々が認知症と戦っており、この数字には若年発症の診断を受けている可能性のある65歳未満の人や診断されていない人は含まれていないため、実際の数はもっと大きいと推定される。

 今後人口の高齢化に伴い、認知症を持つカナダ人の数は今後増加すると予想されているが、医療大麻の効能が有効であれば、医療大麻が向精神薬よりも穏やかで比較的低コスト、副作用も限定的であることから患者とケアする者にとって喜ばしい調査結果である。

本文=菅原万有 / 企画・編集=TORJA編集部