【第6回】国際離婚とハーグ条約|私、国際結婚します!! でもちょっとその前に知っておきたいお話

【第6回】国際離婚とハーグ条約|私、国際結婚します!! でもちょっとその前に知っておきたいお話

カナダで離婚すると子供と日本に帰れないってホントですか?

前回まで2回にわたり国際結婚する前に決めておきたいことについてお話しました。 マリッジ・コントラクトで離婚後の金銭問題を、そして話し合いで結婚生活のルールを決めておくことは、どちらも大切だとお話しましたね。それでも国際離婚に対する心配は尽きないようです。「転ばぬ先の杖」として考えておきたいことはたくさんありますね。そこで今回は、国際離婚と日本への帰国について考えてみましょう。

国際結婚が、カナダで暮らす唯一の理由であった場合、「もしその結婚が破綻したら?」という問いには、「日本に戻る」という選択肢しか思い浮かばないかもしれませんね。「離婚=実家に戻る」という考え方で育った日本女性にとって、離婚後も元夫の国で暮らすことは理不尽だと思えてしまうかもしれません。

しかし、二人の間に子供がいた場合、その「実家に帰る」が「子供の誘拐」だとされかねないことは、2014年に日本でも施行されたハーグ条約により、多くの人が知るところとなりました。けれども、「もう一方の親の許可なく子供と一緒に国境を超えてはならない」という基本は、離婚した親のみに適応されるものではありません。

カナダ政府は、一方の親が子供と海外旅行する時、他方の親の同意書を携帯することを奨励しています。親による子の連れ去りに対する国境での取り締まりは、国際結婚でなくても、親が離婚していなくても同じです。つまり、大人が一人で子供を連れて国外に出ようとすると、誘拐疑惑の対象となるということです。しかし、万一空港などで質問を受けても、この同意書があれば難なく解放されます。

また、離婚後、親が子供と共に遠方への引越しを希望する場合は、もう一方の親の許可が必要です。共同親権が一般化したカナダでは、一方の親が子供と海外へ転居することを快く許す親は稀でしょう。ここでも、「実家に戻る」と「海外へ転居する」という感覚の違いは、相容れないものですね。

「たとえ夫婦関係は終わっても親子関係が終わることはない」というのが、カナダの一般的考え方で、法律もそんな考え方を反映しています。ですから離婚の際には、それぞれの親が子供と過ごす時間や、夏休みなどの長期休暇はどのように分配するかなどの詳細を同意書に記載しなければなりません。

日本人の国際結婚には、これに日本訪問の時期や期間が加えられます。

ですからマレッジ・コントラクトで、親権や面会交流の方法を決めておきたいと考えるのは自然ですね。でも子供の人権に関わる決め事を他者(親であっても)が決めておくことはできないのです。では、カナダで国際離婚をしたら、どうしてもカナダで暮らさなければならないのでしょうか。

答えは、NOです。離婚の際、双方の親が納得すれば、どのような取り決めであってもそれが子供にとって適切であるならば認められます。ここでのポイントは、「子供にとって」というところで、「母親が日本に帰りたいから」という理由は通りません。

しかし協議離婚の際、子供にとって適切であり、どちらの親も納得できる取り決めを検討することは可能です。例えば、「子供は母親と日本で暮らし、毎年夏休みの6週間はカナダの父親の元を訪れる」ことが両者の間で話し合われ同意されれば、それで良いのです。ハーグ条約は関係ありませんね。双方の親の「許可」があるのですから。

しかしこれが成立するには、疑心暗鬼のない完全な信頼関係が必要となってきます。

国際離婚に際し、子供にとっても自分自身にとっても最善の未来を選ぶためには、 冷静に大人の話し合いができることが必要です。したがって、結婚前からきちんと意思の疎通が図れる関係でなければ、その国際結婚の行く末に不安が生まれるのは当然です。

もし、「離婚したら日本に戻りたい」という気持ちがあるようなら、その国際結婚、もう少しじっくり考えるべきなのかもしれません。そして、子供を持つということの責任についてもしっかり認識したいものですね。国際結婚に対する覚悟は、日本人同士の結婚のそれと比べ、ずっと深いものでなければならないということを十分理解することのみが、どうやら「転ばぬ先の杖」であるようです。