【第4回】マリッジ・コントラクト|私、国際結婚します!! でもちょっとその前に知っておきたいお話

【第4回】マリッジ・コントラクト|私、国際結婚します!! でもちょっとその前に知っておきたいお話

私が初めてマリッジ・コントラクトという言葉を耳にしたのは、二十年前、当時の夫と共に遺書を作成した時でした。両親のどちらかが他界した場合、子にも相続権が与えられる日本と違い、カナダでは、遺産は配偶者が受け継ぐのだと聞かされたのです。

「もし私が死んで、夫も再婚後に亡くなったら、子供たちが受け継ぐはずだった遺産は、再婚相手が手にすることになるのですか?」と驚く私に弁護士は、「だからこそ、財産を子供たちに残せるような遺書と、再婚前にマリッジ・コントラクトを作っておくことが重要なのです」と教えてくれました。

マリッジ・コントラクトって何?

マリッジ・コントラクトとは、一般にプリナップと呼ばれる婚姻契約のことです。カナダ政府は、プリナップを「夫婦関係が終わった際の金銭関連の取り決め」だと定義しています。

夫婦関係の終わりが死別であるとは限りません。プリナップはむしろ離婚時のセーフガードとして作成されるものです。「あらかじめ夫婦間の財産の何がどちらに属するのかを決めておくことで、離婚時の争いの焦点となる金銭問題から生じるストレスを軽減することができる」というのがマリッジ・コントラクトの目的です。

マリッジ・コントラクトと代理人

さて、マリッジ・コントラクトが事実上協議離婚であることを考慮すれば、二人がそれぞれ代理人を雇い、きちんと交渉しておくことが得策です。なぜなら、実際の離婚の際に契約書としての有効性が問われた場合、契約を取り交わした時点で双方が内容を十分把握できる能力があったかどうかが争点になるからです。

国際結婚の場合、「サインしないと結婚しないと言われた」「内容は理解できなかったけど、とりあえずサインした」といった場合、契約の有効性が疑問視されます。これらの不安材料の大半は、ファミリーローのプロを介することで解消できます。オンタリオのファミリー・ロイヤー協会のウェブサイト(flao.org)やアッパーカナダ法律協会(lsuc.on.ca)は、最も信頼できるサイトだと言えます。

マリッジ・コントラクトの限界

残念ながら、婚姻前に親権や面会交流に関する取り決めをしておくことにあまり意味はありません。 婚姻契約は「離婚時の金銭関連の取り決め」ですので、資産分与や配偶者サポートの金額、相手の借金の返済義務からの解放などに限られます。たとえ親権問題の解決策がマリッジ・コントラクトに含まれたとしても、実際の離婚の際には、ほとんど効力をもたないのです。

ところで、離婚にまつわるお金の取り決めと聞けば、日本人に思い当たるのは、慰謝料ですが、カナダの離婚に慰謝料という観念はありません。したがって「浮気が原因で離婚する時は5万ドル支払うこと」というような決め事は、法的には認めらません。

また、配偶者の一方が資産家で、もう一方には収入がないなど極端な経済的不均衡があった際も注意が必要です。6年間の内縁関係が解消された時「配偶者サポートは5千ドル」という契約条項が無効とされた1994年のブリティシ・コロンビアのケースでは、億万長者であった内縁の夫に対し、契約額とは桁違いの高額な支払い命令が申し渡されました。

ここでのポイントは、たとえ内縁関係であっても長期の場合(3年以上が目安)には、配偶者サポートが発生するということです。これが、コーハビテーション・アグリーメント(同棲契約)が必要とされる理由なのです。尚、内縁パートナーの権利は、法的配偶者のそれと比べ制限を受けますので、同居する前にファミリー・ロイヤーに相談することをお勧めします。

マリッジ・コントラクトは慎重な選択

結婚を決めるとき、人々はいくつもの問いと向き合います。「離婚の際、財産の半分を相手に与えることができるか」「離婚後も相手の生活を支えたいか」「離婚後も相手の借金の返済を行えるか」などの答えに一つでもノーがあれば、マリッジ・コントラクトの作成は、慎重な選択だといえるのではないでしょうか。

出典: ●fcac-acfc.gc.ca ●canadian-lawyers.ca ●flao.org ●lsuc.on.ca